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鏡の中のゴーレム  作者: ゆうひ
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7話【大人】

 家を後にし、マンションのエレベーターを高速で降りた。目覚める前の意識がほぼ無かったから、改めてビル群を眺めると圧倒的な高さを誇っているのに気付かされる。高層ビルだらけで木造建築なんてものは一軒たりとも無い。


「行くわよ、乗って」


 マンションの目の前には車が用意されていたが、もしかしてこの子が運転するとか言うんじゃないだろうな……。


「念のため聞くけど、君が運転するわけじゃないよね?」

「安心して、全て自動よ」


 その言葉を聞けて胸がほっとした。この子が運転するなら不安だったが、自動運転システムが搭載されていて、運転手が要らないらしい。まさしく未来の理想といったところだろうか。時速六十キロは軽く出ているのに、全く揺れないのだから技術の進歩というのは本当に目まぐるしいものだ。


「エアーレーンへ移行します」


 突然、車の人工知能が喋り出した。


「えっ……うわぁあ!」


 地面の道路を走っていた車が宙に浮き始めて、驚きを隠せずつい大声を出してしまった。


「この車はオートシステムカーと言うのよ。アサルトエシュロンに所属している者だけが使用できる移動手段なの。速度が保てれば一般道を走らず、空の決められた道路を走ることができるわ。ゴーレムと対抗するために開発された物の一つよ」


 あっという間に第二南地区本部とやらに到着し、招集がかかったアサルトエシュロンと思われる人々で溢れていた。

 男性に女性、背の小さい者から高い者、比較的若い人が多いようだ。腰に着けられないほど大きな電子剣や電子弓、電子盾を持つ人、各々自分にあった電子武器を所有しているようだった。


「この人たちがアサルトエシュロンに所属しているのか?」

「えぇ、優れた人たちよ。勿論、大体がスフィアを使えるわ」

「そう……」

「一人で戦う人、複数で戦う人、一人だけどギルドに所属して他の殲滅者と協力する者、様々ね」

「俺たちはどうするんだ?」

「私がゴーレムと戦うわ。あなたは後ろで見ていて、危ないから」


 完全に邪魔者扱いだった。俺がその電子剣というやつを使えればな……。

 少し下を俯いていると、一人の男が近寄ってミラに話しかけていた。


「そいつは?」


 煙草をくわえて明らかに柄が悪そうな男だった。俺の中ではこいつの第一印象は最悪だ。


「昨日、空から降ってきたタイムトラベラーよ」

「空? おいおいそんなことあんのかよ」

「えぇ、かなり珍しいケースだわ。でも電子武器が解放しなかったのよ」

「それは残念だなぁ。使えたら相当戦力になりそうなのにな」と、男は俺の顔をちらっと見ながら話していた。


 正直、この場の居心地は悪い。電子剣が使えないのは、俺自身が望んだわけではないと声を大にして言いたい。しかし、言った所でどうしようもないことは分かりきっていたので、心の声を押し殺した。


「ねぇ、今回ゴーレムの数は?」

「三十ぐらいと聞いているな」

「あら、いつもより多いわね」


 俺はただただミラとこの煙草野郎のやり取りを聞いていた。早くどっかに行ってくれ。ずっとそんなことばかり思っていた。ただでさえ人と関わるのが好きではないのに、年上で煙草吸っているようないけ好かない男なんて、生理的に無理だった。


「多いが、まぁ何とかなんだろ?」


 お気楽な奴だな。


「皆、動き出したようね」

「お、なら俺はそろそろ行くわ。それから――」と、言いかけた男が俺の方に来て耳元で呟いたのだ。

「何かあったらミラを守ってやってくれな。こいつ危なっかしいからよ」と、それだけ言って、距離を置き話を続けた。

「お前ならきっと電子武器が使えるさ」

「どうしてそんなことが言えるんですか?」

「さあ? でもそんな気がするぜ俺はな」


 そう答えると煙草を口に咥えて吸い込み、空気中に向かって煙を出し続けた。

 いい加減な大人だなと、俺は冷たい目で見ていたことだろう。でも、そんな視線を送っても顔色変えずにいた。

 この人の言葉を信じてもいいのだろうか。


「まぁ、そんな焦らなくても大丈夫ってもんよ。俺もすぐに使えなかったしな。人それぞれよ」

「ありがとうございます。とりあえず頑張ってみますよ」

「つめたいねぇ」


 きっとおじさんのことが怖いのよ! と前方から女性の声が聞こえてきた。

 声の先にはアサルトエシュロンの皆が着ているジャケットを身に纏った、ミラの雰囲気とは違った社交性の高そうな大人の女性が近づいてきた。


「そんなことねぇよなぁ――おまえ名前なんていうだっけ?」

「峰春来だよ」

「じゃあ春来な! 俺のことそんな怖いか?」

「いや別に……」


 なんだ、このおじさん。ぐいぐい俺の領域に入り込んできやがるな。鬱陶しいにもほどがある。


「そういう所が怖いし、人によっては不快に思うのよ! お・じ・さ・ん」


 優しそうな顔をして気が強く言葉も強い人だ。完全にこの女性の方がおじさんより優位に立っているかのように見えた。


「いつも思うが、ひでぇ言い方だなぁ」


 おじさんはひどく落ち込んでいるようだった。外見に似合わずナイーブな人なのかもしれないな。


「そんなことないわよ。それより、私たちも早く行くわよ! ごめんね、春来くん。こいつ変な奴だから」

「気を付けて」と、ミラが言うとそれに対して美人な女性は答えた。

「大丈夫よ! このおじさんがいるから」


 彼女は煙草を咥えた男を連れて、嵐のように過ぎ去っていった。今の二人はなんだったんだ。あの女性は良い人そうだけど。


「あの人たちは二人でゴーレムの殲滅を行っているのよ。二人とも年が近いわ」

「そう」

「私たちもそろそろ行きましょう」

「あ、あぁそうだな」


 あれだけいたアサルトエシュロンの皆は街を守るため、第二南地区と第三南地区を繋ぐゲートへと向かったようだ。俺らは最後の出発者らしい。周りを見ても二人しかいなかったのだ。

 ミラが丸腰の俺を見て「これ持ってなさい。もし何かあった時、自分を守るために」と、言いながらミラの自宅で握った電子剣を渡された。


「……でも何も反応がなかった。こんな鉄の塊を持ってても意味がないよ」

「電子剣が認めるタイミングは人によって違うのよ。あなたがいつ認められるかは分からないわ」

「あ、あぁ」


 渡された電子剣は刀身がないけど、ずっしりと重みを感じた。

物の重みと不安からか、少しだけ手や膝が震えているのが分かる。不安が募り始め、戦争に駆り出される時もこんな気持ちになるのだろうかと考えていた。


「ねぇ、おいてくよ?」


 立ちすくんでいた俺とは対照的に自信たっぷりのミラは既に歩き始めていた。


「ご、ごめん。今行く」


 ここで立ち止まるわけにはいかないんだ。アリスのいた世界へと戻るために俺のやれるべきことをやる。ただそれだけだ。

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