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シニガミノシゴト  作者: セツナドロップ
【case.2 ステイ・ゴールド】
4/10

第三話 ボディーガードとストーカー

 

 これは正直言っていいか分からないが。

 ボディーガードと言ってもやることは、ほぼストーカーみたいなものだと思う。

 彼女の行く先々に付いて回り、危険を及ぼすものがないかを監視する。

 ボディガードとストーカーは紙一重と言ったら、誰かに怒られそうだ。


 僕たちの依頼人。杠葉さんはファンたちと握手をしている。

 握手会。決められた制限時間内にファンたちと握手を繰り返すイベント。

 仕様はあまりよく分からないが、スタッフにチケットを渡すと握手ができるらしい。

 そこまでして握手したいものか? 人間の感覚はいまいち分からん。元人間だけど。

 机を挟み、ファンと握手をしながら笑顔で一言二言話す。そうこうしているとスタッフが間に入り、次の人に交代。

 それを腐るほど繰り返す。疲れた顔は一切見せずに営業スマイルを振りまく。

 とてもじゃないが僕には真似できない。


 僕は少し離れたところでそれを見ている。

 大きなイベント会場の中。彼女、いや彼女たちのアイドルグループはどうやら5人組のようだ。

 グループ名は『ペンタグラム』。会場の横断幕にでかでかと書いてある。

 テレビに出ていただけのことはあるのか、5人それぞれにかなりの人数が並んでいる。

 僕たちは相談所から出ると、すぐにこの会場に来た。特出すべきイベントはまだ起きていない。

 つまり、彼女が言っていたような現象もまだ起きていない。


 ポルターガイスト。誰も触れていないのに、勝手に物が動いたり、物を叩くような音が発生したり、通常では考えられない現象が起きること。心霊現象に類される場合が多い。

 最近頻繁に起きるようになったと彼女は言っていた。


『ストーカーでもないって言うんだから。十中八九、ナキカゲの仕業だろうね』


 ハジメさんの言葉を思い出す。僕にボディーガードを押し付けた張本人。

 まあハジメさんのことは良いとして。ナキカゲを発見次第、弾丸を打ち込めば僕の仕事はおしまい。なら、早くことを済ませるに限る。さくっと出てきてくれればいいけど。


 ふいに僕に向けられる視線に気づいた。杠葉さんだ。

 僕が視線に気付いたことを感じると、小さく手を振ってくる。僕にも愛想を振りまく必要はないと思うけど。

 ていうか、僕の存在を周りに意識させてしまうから、そういうのはやめてほしいんだが。

 しばらく無視していると彼女はシュンとしてしまった。仕方なく僕は軽く手を挙げてみる。なんかすごい恥ずかしい。

 すると彼女はすぐに明るい表情を取り戻した。なんだこの生き物。

 これがアイドルという生き物なんだろうか。知ってか知らずかは分からないが、人をむやみに惹きつける生き物。恐ろしい存在だ。


 そして、その瞬間は何の前触れもなく訪れた。

 暗闇があたり包む。会場の照明がすべて消えた。


『えっ! なにこれっ!』


『皆さん落ち着いてその場から離れないでくださいっ! すぐにブレーカーを上げますので』


 スタッフとファンたちのどよめき。非常照明は付いているが、薄暗い。

 僕は慌てて杠葉さんを探す。さすがにシニガミというだけはある。暗闇に目が慣れるのが早い。

 ―――見つけた。僕は急いで彼女そばまで近寄る。


「大丈夫ですか?」


「あ、ナナシさんですか? これって?」


「分からないです。悪霊の仕業かもっ―――」


 僕は頭上の異変に気付いた。ギシギシと揺れて、何かが引きちぎれそうな音。悪い予感がする。

 体は勝手に動いていた。彼女を抱きかかえると、その場からすでに離れていたのだ。

 すぐさま大きな影が僕たちのいた場所に落ちるのが分かった。間違いなく何かが壊れた悲痛な音。

 周りのどよめきは悲鳴へと変わる。

 それから、ぱっと辺りは明るくなった。

 それを確認すると、周りの悲鳴はさらに大きくなる。会場全体に喧騒の渦が取り巻く。


「なんだ、これ……」


 僕も思わず声に出していた。

 先ほどまで杠葉さんが握手していた場所。照明が机を下敷きにして無残な姿になり果てていたのだ。

 もし、そこに杠葉さんがいたとしたら。……想像するのは難しくない。


 彼女も同じことを考えているのだろう。口元を手で押さえ、血の気が引いた表情をしている。

 目が合う。彼女は一度目を瞑ると微笑んだ。


「あ、ありがとうございます。ナナシさん。助かりました」


 なんで笑っていられるんだ? 自分が死んでいたかもしれないのに。


「あ、あの、ナナシさん。そ、そろそろ下ろしてもらえると……」


「え? ああ、ごめんなさい」


 僕は知らず知らずに彼女をお姫様だっこしていた。

 彼女を下ろし、少し距離をとった。


「怪我は、ないですか?」


「はい、おかげさまで……」


 彼女は少し頬を赤らめ視線を下げた。

 こんなことが目の前で起きたのだ。態度がしおらしい。

 ファンもスタッフもパニック状態だ。僕には関係ないが沈静化にはもう少し時間がかかりそうだ。


『ヒヨリっ! ケガしてないっ?』


『良かったっ! 無事なのね、ヒヨリっ!』


 スーツを着た女性とアイドル仲間が杠葉さんに駆け寄る。

 心配させないように彼女は笑顔で対応している。

 プロ意識というものか。さすがとしか言いようがない。


 その時、僕は人垣の間に見知った白装束が走っていくのを確認した。

 こんな場所でそんな恰好をしているのは、間違いなくナキカゲだ。

 僕は銀色のマグナムを構えた。回転式シリンダーを備える、鼻の長い拳銃。僕には勿体ない代物。


「くっ」


 僕の腕ではこの人垣を縫って当てるのは難しい。メイならなんとかなるかもだけど。

 ナキカゲが会場から出ていくのを捉える。銃を持ったまま、あとを追う。


「逃がしたか……」


 後を追って会場を出ると、その姿はどこにもなかった。

 人があれだけ入り乱れる会場からだと、出るのに手間取ってしまった。


 あのナキカゲが今回の対象者で間違いないだろう。

 僕は会場を振り返る。変わり果てた照明と机。今も混乱は収まっていない。

 ポルターガイスト? そんな可愛いものじゃない。これは列記とした殺意だ。


『ヒヨリちゃん、大丈夫かな?』


『親の七光りちゃんなんだから、多少怖い思いしてもいいっしょ』


『センターになるって、調子乗ってたもんな』


『そうそうアカリちゃんをセンターから落としたんだから、当然の報いよ』


 なんだ今の声。この会場にいる人間の声か?

 言っていることはよく分からないが、酷く負の感情を感じる。

 アイドルグループを応援するファンと言われる人間も、一枚岩というわけでない。そういうことだろうか。

 とりあえず、ハジメさんに報告しておくか。

 僕は連絡用のスマホを取り出した。

 シニガミになっても文明の利器は大活躍だ。



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