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8☆よくある雑魚敵との遭遇

ご都合主義なんて無かった。

「ダメ、待って主之さ――」


 葉々下さんの言葉に返事をする余裕など、僕にはなかった。

 「ダメ」という単語だけがどうしても脳の隅が引っ掛かるが、脊髄反射で動き出した僕の足はもう止められなかった。


 追われている少女は倒れこむ寸前。

 ゼロコンマ数秒が結末を選ぶ。


 もっと脚を回せと全力で叫び、限界を超えて力を絞り出す。

 息を吸いこむ時間はなく、全ての空気を一切残さず外へと吐き出し続けた。


 前へ、速く。


「―――ッ!!」


――そして最後の茂みを超えた僕の見た光景は、巨大な熊のような化け物が、倒れこむ女の子に向けて腕を振り上げる、まさにその最中だった。


 奴の姿を説明するのなら、僕の知る生物の中で一番近いのは熊。

 しかしそれは常識的な動物しか、僕の知識の中に無かったために出てきた例えである。


 幾らデフォルメしようが隠し切れない醜悪さと、生気を感じさせない瞳。

 全身に太い血管が浮かび上がり、尋常ではなく盛り上がった筋肉を構える姿は、グロテスクの一言で説明が終わる。

 頭の先からつま先まで、毛は一本として生えておらず、その大気に剥き出しになった肌は、返り血を浴びたように紅く染め上げられていた。


 毛の代わりのように、体中には深緑の蔦が巻き付いていたが、その蔦もまた奴の体の一部であるらしく、所々蔦が肌に深く根付いている箇所があった。

 その蔦の根元近くの肌が黒く腐っている様子は、生物として破綻している。


 一言で特徴をまとめるなら、植物に生命力を吸い取られつつある熊、だろうか。


「やめろ――」


 恐怖で崩れそうになる膝を殴りつけ、彼らの間に身を投げ出した。

 少女を背に、植物熊と目が合う。

 その眼球は瞳孔も跳ね返る光も無く、ただ漆黒だけで満たされた無機物のようだった。


「――ッ」


 この状況で僕に出来ることなど何もないと分かっていた。

 植物熊の姿を見た瞬間、僕の本能は全力で逃げろと叫んでいた。

 ここまで走ったその足で、もと来た道を戻るのが正解なのだと、僕だってすぐに気付いてはいた。


 でも、それでも。


 茂みから現れた僕を見る彼女の濡れた瞳と零れる涙が、僕の理性を全て吹き飛ばして、胸の真ん中が「行け」と吠えたのだ。

 この胸の咆哮に抗うなら、それはもう僕じゃない。


「―――」


 高く構えられた植物熊の腕が頂点で止まり、振り下ろしの姿勢に入る。

 僕が割り込んだことなど微塵も気にしていないかのように、植物熊の動きに変化はなかった。


 鉱石のような、全く整えられていない野生の爪が僕の顔面に凄まじい勢いで迫り、死が急速に近づいてくるのが分かる。

 あまりにも絶望的で、打開策など欠片もない。


 そして武骨な爪が僕を貫き、そのまま後ろの少女も纏めて殺されるという終わりを幻視した――瞬間。


 唐突に、一つのワードが脳裏を過ぎった。


(『神盾(イージス)』)


 一体何が起きたのか、僕は何も理解は出来なかったが、それでも何をどうすれば良いのかだけは完璧に思い描けた。

 まるで頭に直接知識を落とされたような感覚。

 もしくは初めから用意されていた知識をふと見つけた衝撃。


――これは、守るための壁を生み出す力だ。

 

 僕は左腕を右手で押さえつけながら、手の平を植物熊に向ける。


 想像するのは白銀の大盾、害あるもの全てを断絶する神の防壁。

 天変地異すら拒絶する、守護という概念そのものだ。


 僕は射抜かんとばかりに植物熊を睨みつけ、抵抗の意思を心に深く捻じ込んだ。

 

「通してたまるか…ッ!!!」


 それは大事なものを背負う程に硬度を増し、意思の強さが顕現の鍵となる。

 

 僕は後ろで倒れ込む、少女の姿を思い出す。


 ボロボロの制服。

 満身創痍の身体。

 そして、絶望と諦めに満たされた表情。


――守れ。絶対に守り切れ……ッ!!!


 心臓を燃やせ。

 限界を超えろ。

 もっと、もっと堅く。


 何故突然、こんな能力を得たのかなど僕の知ったことではない。

 今そんなことはどうでもいい。

 彼女を守れるのなら、代わりに全てを捧げてやる。


 僕は大きく息を吸い込み、叫んだ。


「――『神盾(イージス)』ッッッ!!!!!!!!!!」


 神々しい光が周囲を満たすと同時に、脳裏に浮かんだままの白亜に透き通る、女神の姿を削り入れた大盾が目の前に現れた。

 決して分厚くはない盾だったが、異常な程に濃密な神気を宿しており、その堅牢さは想像もつかぬ次元にあった。


「―――ッ」


 そして神盾に、植物熊の爪が触れた。


 エフェクトのように火花が散り、辺りが明るく照らされる。

 その直後に()()()()()()()()()()()()()が響いた。

 何処までも遠くへ届きそうなその音は、相当な密度を持つ物質でなくては生み出せない。


 それは、植物熊の爪がひび割れる音――ではなく。


 神盾が粉々に砕け散る音だった。


「な――」


 何も守れず無残にも破片を散らす神盾を超えて、僕の顔面に植物熊の爪が突き刺さり―――僕の記憶はそこで途絶えた。


________________



 異世界へ飛んだ公斗くんの足跡を追って、私――シルスもまたラウィさんの世界へと移動していた。

 私が降りたのは、公斗くんの転移先である森、その最奥。彼との不自然な遭遇を避けるために、少しだけ離れた位置を選ぶことにしたのだ。


 だが私はそこで、信じられないものを目撃する。


「……これ、魔王という方の城では?」


 異様な雰囲気を放つ、堂々たる構えの建築物だった。これが魔王城でなくて、一体何が魔王城なのだろうかと言える程の魔王城感。

 もしこれが魔王城でないのだとしたら、きっと魔王が怒って壊しにくるくらいに魔王城している。

 私としてはかなり自信を持って断言できる。

 これ魔王城だ。


 だとするとここは、最奥に魔王城を構えた広大な森と呼べるだろう。言い換えるなら、魔王城に一番近い森か。

 世間一般では、こういう場所を「ラストダンジョン」とか「ラストダンジョン前フィールド」と呼んでいたと記憶しているが。


 つまり、ようするにだ。


「……あの子たち、レベル1でラスボス前に放り投げられたと?」


 やばくないですかそれ。


魔王城魔王城うるせぇ!!!

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