表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

6☆都合良く勇者に

「話を戻しますが、先程の『勇者』を誰に与えるか、という件です」


「はい」


「それ、そこの男の子に与えていただきたいのです。床で倒れている、そこの」


「この子ですか?」


「ええ」


 私が公斗くんを指で示すと、ラウィさんは空で停止した様々な器物を避けながら、公斗くんの横へと移動していった。


「確かに度胸のある人間ではありましたね。考えてみれば、この中で私に声を掛けた唯一の子ですか」


 度胸に関しては、当然と言えば当然であった。


 彼は私の手によって、様々な波乱万丈な体験を繰り返して来たのだから、むしろ多少は肝が据わって貰わなくて困る。


 私は苦難だけでなく、多種多様なラッキースケベも彼に投げつけて来た。

 そしてそれによって生じた修羅場も数えきれない。


 その経験によって身についた、公斗くんの「とりあえずその場を乗り切る力」は相当なものだ。


「どうでしょう。可能ですか?」


「はい、勿論問題ございません。勇者はこの子に致しましょう」


 どうにか私の仕事は首の皮一枚で繋がったらしい。


「迷惑をお掛けしますね」


「いえ、そのようなことは……。シルス様のお役に立てたという事実だけで、私は十分に幸せです」


 ほんのりと頬を染めながら、嬉しそうに微笑むラウィさん。

 その愛らしさに私も頬を緩ませそうになる。


――めっちゃ可愛い私の直属の従者にしたい。


 第一印象では「なんだこの生意気な神は。はっ倒したろか」というレベルだったのだが、やはり一目で本性は分からないらしい。


 何よりもこのおっぱいをすぐ側に置いておけるのは魅力的だった。

 それにこの子なら揉んでも許してくれそうな気がする。


 とはいえ私の一存で今すぐに従者にする、なんてことは出来ない。

 神における主従契約は互いの同意だけではなく、互いへの好意が必要になるからだ。


 偉い側が強引に主従関係を結ばせることが出来ないように、という処置らしいが、妥当なところかなぁというのが私の感想。


 ラウィはこれから魔王とやらの対応で、忙しくなることは容易に想像がつくし、彼女が私に好意を持ってくれている可能性は考えにくい。


――むしろ泣かせてますしね。


 とはいえ、何かマーキングくらいはしたいところではあった。

 何処ぞの神に掠め取られでもしたら悔やんでも悔やみきれない。


 何か良い作戦は無いものか、と考えていると、公斗くんの床に落ちた右腕が目についた。


 腕。

 切断。


 閃 い た。


「ラウィさん」


「はい、どうか致しましたか?シルス様」


「先程、罰が無くては他の神に面目が立たないと、仰ってましたよね」


「……え、えぇ」


「やはり罰を与えましょう」


 恐ろしい程に文脈を無視した突貫スタイルだった。

 正直今ならラウィに殴られても怒れない。


 しかし私の言葉を聞いて、ラウィの表情は一瞬にして鋭いものに変わった。

 同時に、私の目の前で跪く。


「……仰せのままに」


 顔を伏せ、こちらが続ける指示を真摯に待機する姿勢である。

 そのあまりの素直さに、私の中でのラウィの好感度がグングン高まっていくのを感じた。


「罰は一つ。貴女の右腕を、預かります」


「腕、ですか」


「はい。そして貴女から切り落とした腕を、この男の子に馴染ませて繋げます」


「……なるほど」


「罰としては妥当だとは思いませんか?自身が行ったことを、その身で味わうだけです」


「仰る通りです」


――いや全然仰る通りではないと思う。


 むしろえげつないこと言ってる自覚しかなかった。


 ただ私の目的は、ラウィの腕を奪うこと自体ではなく、この先だ。


「そして私の神気で作り上げた――この腕を、貴女には使っていただきます」


 ラウィが固まった。

 口を開けて呆然としている。


 この腕から僅かに溢れる私の神気によって、殆どの神々はラウィに近づくことすらしなくなる。


 これは実質マーキング。


「……?それは罰、なのですか?」


「はい、罰です。貴女は慣れない身体で過ごすことになります。辛いです」


「しかしそれは私に力を与えて下さるのと変わらな――「罰です」


 私はもう罰という体でゴリ押す。


「どうします?ラウィさん。この罰を受け入れますか?」


 拒否されたらどうしましょう、恥ずかしい――なんて考えていたが、その不安は杞憂に終わった。


 ラウィさんは笑顔で――


「はい、勿論です」


――と、答えてくれた。


 その後は単なる作業だった。

 時間の流れを元に戻し、転移の魔法を再開。


 そしてラウィの当初の予定通り、彼らはラウィの管理する世界、『グラデリオ』へと跳んでいった。


 その最中、魔法陣の光で皆の視界が遮られた瞬間に、私は公斗くんの腕にラウィの腕を馴染ませた。

 まるで再生したかのように、その腕に違和感はない。


 これで私の今回の仕事は一段落。


 彼は都合良く美少女と出会い、都合良く学校で再会し、都合良く勇者に選ばれ、都合良く神の腕を手に入れた。


――しかし本番はこれからみたいですね。


「公斗くん、次は異世界編ですよ。新しい生活が始まりますね」


 私は貴方に楽をさせるつもりはない。

 苦難は全て、貴方のもの。

 存分に苦しんで、血反吐を吐いて戦うといい。


 でも最後は絶対にハッピーエンドに辿り着くことを約束できる。


 なぜなら――


「――(ご都合主義)が貴方についていますから」


 誰もいなくなった教室で、私は一人呟いた。


この次から本編です。楽しんでいってください。

評価感想頂けるとめっちゃ喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ