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2☆都合良く転校生は現れる

4/9、大改修しました

 その日、僕――主之(あるじの) 公斗(こうと)のクラスには転校生がやってきた。

 黒の髪を長く伸ばした、お淑やかそうな女の子である。


 優しそうな瞳で、整った顔立ちで、スラリとした綺麗なスタイルで、そして――


「初めまして、葉々下(はばした) 葉織(はおり)です。どうか気楽に話しかけて頂ければと思います。是非、仲良くさせてください」


――昨日、空から降ってきた女の子だった。


 一瞬勘違いかと思うが、その出会いのインパクトと共に植え付けられた、彼女の顔は鮮明に覚えている。

 いくら記憶力に自信のない僕でも、見間違う筈はない。


 更に言えば、今でも掌に残る彼女の控えめな胸の感触と、教壇の上に立つ彼女に見える胸は完全に一致する。


 断言できる、本人だった。


「でもなんで……」


 僕は動揺のせいで、出すつもりのなかった声を洩らしてしまう。


 彼女には、僕の学校どころか名前すら教えていない。

 胸を触られた仕返しに暗殺に来たのだろうか、などとよく分からない思考が脳内を駆け巡る。


「―――?」


 そんなことを考えていると、ふと葉々下さんと目が合った。


「………」


「………っ」


――なんかめっちゃ睨まれた……っ!


 クラスメイト全員の視線を一身に受ける中で、容赦なく敵意を露わに出来るのは、普通の精神ではない。


 だがそれでも、彼女の自己紹介は特に問題なく終了した。


「おし、それじゃ葉々下さんの席は前から二列目のそこだ。近くの奴らはちゃんと話し掛けてやれよ」


 先生は葉々下さんに、中央の空いた席に座るよう促す。

 中央二列目といえば、一番授業を受けやすいが教師の目につきやすい席だ。

 優等生が劣等生かによって、好みの割れる場所。


 葉々下さんは返事をすると、そのまま指示された席へ向かっていった。


「――!?」


 しかし、突然僕の()()()()女の子が立ち上がり、ビシィッと効果音が聞こてくる程、華麗な挙手をしてみせた。


 その動きの切れ味があまりにも鋭く、僕は驚きで身体が震えた。


 椅子が床と擦れる音が響き、それに反応したクラスメイト達が、僕のすぐ横の女子を見つめる。

 先生もまた、引き攣った笑みを浮かべていた。


「――先生」


 その立ち上がった女子は、ゆっくりと語り出す。


「ど、どうした空導。トイレか?腹痛いのか?」


「いえ、トイレではありません。お腹の調子もすこぶる良いです。――ただ最近、目の調子がとても悪く」


「……目?視力の話か?」


「はい。この一番後ろの席では黒板がハッキリと見えないのです」


「いやお前、一昨日の視力検査で両目ともA判定だっただろ」


「……。一昨日から、急激な低下が」


 有無を言わせぬ雰囲気。


「そ、そうか……。しかし急に言われてもな」


「私、葉々下さんの席に座りたいです。この視力でも、しっかりと先生の授業を受けたいんです」


「お、おう……?何だ急に……。じゃあ葉々下さん、あっちの席でも大丈夫か?隣は主之だし、むさ苦しいとは思うが……」


――おい、聞こえてんぞお前それでも教育者か。


「はい、大丈夫ですよ」

 

 葉々下さんは気にしていません、という風で軽く許容して見せた……、が、目は笑っていない。


 そういうことで、何だかよく分からない内に、転校生が隣の席にやってきた。



_____________



「空導お前、葉々下さんに学校案内してやれ」


「え?……あ、ごめんなさい私、腹痛が……」


「ついさっき、お腹の調子はすこぶる良いとか言ってたじゃないか」


「あれは胃の調子のことです。大腸は大ピンチ。私は保健室行ってくるんで、案内は隣の席の男の子に任せた方がいいですよ。では」


「お、おい空導お前……っ!!」


 その言葉を残して、彼女は元気そうに保健室へ駆けていった。


 いつの間にか、僕が葉々下さんの案内をすることになる。

 またも理由は本当に、よく分からなかった。


 そして昼休み、僕は葉々下さんと校内を歩き回る。

 だが案内といっても、そう巡る場所は多くない。


 保健室、図書館、教務室を案内して――


「――で、ここが体育館。これで一通り回ったけど、もう一度確認したい場所はある?」


「いえ、特には。ありがとうございました」


 ほんの十分かそこらで案内は終了した。


 道中、声を掛けても最低限の返事しか貰えず、話は全く盛り上がらなかった。

 それどころか、返ってくる声に棘があるように感じる。


 葉々下さんは一言だけ僕に礼を言うと、そのままこちらに背を向けて教室へと向かっていった。


「ねぇ葉々下さん、やっぱ胸触ったこと怒ってる?」


 僕は葉々下さんの背に向けて、気になっていたことを問う。


「……怒ってないと、思うんですか?」


 冗談抜きに、絶対零度の声色だった。



____________

 


「うーし、皆、今日も一日お疲れ。部活ある連中は頑張れ、ない奴らは気をつけて帰れよ」


――放課後


 僕は荷物をまとめ、帰り支度を整える。


 これから部活に勤しむクラスメイトは、それぞれ着替えたりと様々準備を始めるが、僕は帰宅部であるため関係ない。


 既に僕の頭の中は、帰ってから何のゲームをやるか、ということだけだった。


 先生は帰りの挨拶を済ませたのち、速やかに教室を出ていく。

 確か、あの先生はラグビー部の顧問だと聞いた覚えがある。


「良し準備おっけー、帰ろ」


 僕は荷物を持って立ち上がる。


 そして、そそくさと家に向かうつもりだったのだが、扉の方を見ると、何やら慌ただしい雰囲気に包まれていた。


「あれ、鍵閉まってんぞこれ」


「いや、鍵はこっち側から開けれるから。教室ってそういう扉だから、ほら……、あれ?」


「どうした、壊れてんの?」


「うん、鍵が全く動かない。壊れてるかも。まぁいいよ、前から出よぜ」


「……いや、無理。前も壊れてる……」


 聞こえてくる友人たちの話によると、前も後ろも鍵が壊れて出られない、らしい。


 先生はつい先程何事もなく出ていったため、今の一瞬で壊れたか、もしくは先生の豪腕でぶっ壊されたという可能性が考えられるが、先生も後ろの扉には触れていない。


 原因は不明だが、とにかくクラスメイト全員が教室に閉じ込められたということになる。


「……とりあえず、ボクは教務室に電話して助けを呼ぶよ」


「うん、お願い」


 混乱してはいるが、各々冷静に動き出していた。


 最悪、教室の扉なら簡単に蹴り倒せるということを皆分かっていたのだろう。

 あくまでも、ちょっとした不運が重なっただけの、どうということは無いアクシデントだと、全員認識していた。


 しかし


『よぉ、人間ども』


 突然に、空気が変わった。



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