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17☆遺跡に残された記録

投稿ラッシュ二話目

「記さん、調城さん。少し見て欲しいものがあるんだ」


 私たちが遺跡に戻ると、公斗くんがシリアスな雰囲気を醸しながら話しかけてきた。

 その隣では真面目そうな表情の葉々下さんが立っていて、どうにもふざけてはいけない感じがする。


 私は調城さんと目を合わせ、アイコンタクトで「水を注ぐのは後にしましょうか」と伝えた。


「何か見つけたのかい?主之君」


「うん。こっちに」


 私たちは二人の後を追う。

 そう大きくはない遺跡であるため、目的の場所へはすぐに着いた。


 そこは私が、屋根が崩れた物だろうと推測した、瓦礫の内一つの目の前だった。

 私が中心から見た向きとは逆方向で、遺跡の外側に当たる。


 その瓦礫には、気色悪い抽象画が描かれていた。

 所謂、壁画と呼ばれるもの。


「これは……?」


「ふむ……何か意味がありそうだね」


 私はその壁画に顔を近づける。


 三人の人間が三角形を作るように、全員が直立の姿勢を取っていた。

 それぞれの頭部が必ず一人の足と重なる形となっているのを見て、私はウロボロスのループを思い出す。


 特に気持ち悪いのはそれぞれの顔だ。

 三人とも苦痛に満ちた表情で牙を剥き出しにし、己の顔と重なる足を噛み千切ろうとしている。


 全員が誰かの足に噛みつき、全員が足を誰かに噛まれているという状況。


 さらによく観察すると、それぞれの片手が器のようになっていると気付く。


――器、ですか。


「――器、か」


 私の頭の中の声と被さるように、調城さんが呟いた。


「やっぱりそこが気になりますよね」


 遺跡に置かれた器と、壁画に描かれた器。

 全くの無関係とは考えられない。


「でもさっぱり意味が分かりませんよ、私」


「恐らくまだ情報が足りていないのだろうね。思うことはあるけれど、ボクもこれだけでは何も断言出来ない」


 この壁画だけを見て一体何を思うことがあるのだろうか、と私は唖然とする。

 もう一度壁画に視線を向けるが、やはり「器があるなぁ」以上の感想は出てこなかった。


 そうやって首を捻って考えていると、「少し良いですか?」と葉々下さんに声を掛けられる。


 一旦思考を中断。


「……二人に見て頂きたいものは、もう一つあります。私たちには理解出来ませんでしたが、調城さんならもしかしたらと」


 そう言いながら、葉々下さんは調城さんをキラキラとした瞳で見つめた。

 調城さんだけを、見つめた。

 というか、私には一切目線が来なかった。


――『調城さんなら』ってなんだろう。私は?


 葉々下さんに、私が一ミリも期待されていないことを悟る。


 これはとても悲しい。


 知性でキャラ売ってる訳ではないとはいえ、やはり身近な人物からの信頼の薄さに、切なくなった。


 一応とはいえ神である以上、もう少し立ち振る舞いを考えた方が良いのかもしれない。


「記さん、どうしたんですか?そんな子犬が、飼い主が家を出るのを悲しそうに見つめるような顔して。笑った方が可愛いですよ?」


「あ、もしかして喧嘩売ってます??良いですよ私も腕っぷしには自信があります。掛かってこいや、くノ一おら」


「なななななんでですか!?」


「ちょちょちょちょちょ記さん待って待って待って天然だから悪気ないから!!!!!」



______________



「で、これが私"たち"に見て欲しいというものですか。私"たち"に」


「(主之さん、どうして記さんは怒ったのでしょうか)」


「(お願い、今は黙ってて……)」


 そこにあったのは先ほどの壁画とは違い、数行の文字列だった。

 頑丈そうな鉱石の板に、直接削り込まれている。


 綺麗な保存状態とは決して言えないが、全文が読めるだけ十分だ。


 私は仁王立ちで、その石版に目を落とした。



 『  紡がれし記録は導きの灯

    盟友の誓いを元に身を差し出せ

    黒の盃を記録で染めよ

    いずれまた黒に染まる      』

 


「ええ、全く分かりませんね。調城さん、あとはお任せしますよ」


「ねぇ、記さん的にそれで良いん?仮にも数秒前にオラついた人間がそれで平気なの?僕としてはもう少し悩んで欲しいかな、てかホントなんでオラついたん?初めから黙ってれば良かったじゃん」


 主人公の癖にグダグダと煩い奴だ。


 その文章は、何度読んでも要領を掴めなかった。

 思い当たるのは「黒の盃」という単語だけだが、結局何をすれば正解なのか想像もつかない。


 私は調城さんに全てを託した。


「……ふむ。なんとなくだけど、一応分かったよ」


 そう告げると調城さんは石版から目を離し、私たちを見る。

 こんな遺物を見せられて、何かを分かってしまう方が恐ろしいと私は思うが、今ばかりは頼りになる。


「まずこの遺跡の役割だが、一言で纏めるなら『目的の場所へ移動する為のもの』だろう。行きたい場所の方向を教えてくれるだけなのか、一気に連れて行かれるのかは分からないけれどね」


 調城さんは石版の一行目に触れた。


「そうでもなければ、この大仰な遺跡に『導きの灯』なんて一言は添えられない。これが光るだけの装置だっていうなら、ボクは笑っちゃうかな。……勿論、絶対ではないけれど」


「なるほど」


 続いて、二行目をなぞる。


「そして、その次の文で気になるのは『盟友の誓い』という単語だ。今、この場にある情報だけで推測するなら、『盟友の誓い』とやらが示すのは、恐らく先程の壁画」


 私は調城さんの話を聞き、先ほどの瓦礫に目を送った。

 あの不気味な壁画に『盟友の誓い』と名乗らせるとは、描いた人間は随分なセンスを持っているらしい。


 しかしその行を『壁画を元に身を差し出せ』と解釈してもなお意味は分からない。

 調城さんの話がもう少し進めば、内容が掴めるのだろうと思い、私はまた彼女の説明に耳を傾けた。

 

 だが、「そのことを踏まえて」と続く調城さんの言葉は――


「――何者ですか」


 葉々下さんの、珍しく高圧的な声によって途切れさせられた。

 普段の雰囲気からは考えられない程に、警戒心剥き出しの、敵意すら感じる声色だった。


 私はその声に驚き、慌てて葉々下さんの視線の先へ目を向ける。


 そこに立っていたのは――


「いや、何者……ってそれウチのセリフだし。あんたらこそ何者か言えっての。もしかして敵?やんの?」


――耳が長く尖った、所謂エルフと呼ばれる少女だった。

調城さん「この水どうしよう」

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