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16☆遺跡の見る夢

今日明日で、キリのいいところまで一気に進めます。多分10話ちょい。

めっちゃ頑張ります。

評価ブクマで応援していただけると嬉しいです!

 そう大きな建造物ではなかったが、その遺跡からは神聖な気配を感じ取れた。

 完成後相当な月日が経っているせいで、その神気はかなり薄れていたが、私はこの遺跡が神が関わったものであると推測する。


 ふとラウィの姿を思い出すが、彼女の神気とは別物であった。


「誰のですかね……?私の知り合いでしょうか」


 他人の世界で勝手に神気を振るうなど、普通にマナー違反だ。

 今度見つけたらぶん殴ってやろう、と心に決める。


「それにしても、一体何のためのオブジェ……」


 ラウィの転移魔法陣に似たような造形な気もするが、ぶっちゃけ魔法陣なんて大体同じような見た目である。


 用途があまり見えてこない。


 また切り開かれた広大な空間に対して比較すると、遺跡の消費するスペースはまるで合っていなかった。

 森を出てから遺跡に辿り着くまで、それなりに歩かされる理由もまるで理解できない。


――なんだか違和感が多いですね。


 とりあえずとばかりに遺跡に近づいてゆくと、まず蜘蛛の魔物の死体が目についた。


「やはり昨晩の魔物で間違いありませんでしたか」


 例え月明かりしかない暗闇であっても、この色鮮やかな紫は見分けられる。

 日の下で改めて眺めると、よりこの森で過ごすには不自然な色合いであると思えた。


 私はふと、この蜘蛛が本当に死んでいるか不安になり、靴のつま先で突いてみる。

 これで動き出したりでもしたら恐ろしいが、後々背後から不意打ちを食らうよりは幾らかマシだろう、と割り切り実行。


「ふぉぉ……」


 すると小突いた側からパラパラと崩れ、砂のように風に舞っていった。

 何をどうしたらこのような死に方が出来るのか。


 薄気味悪くはあったが、とりあえず死んでいるという確認は取れた。


「わざわざ一直線にこの遺跡に突っ込んで殺された――と仮定すると、些か間抜けが過ぎますが。何か理由でもあったのでしょうか?」


 本来、殺されるつもりなどなかったのか。

 もしくは遺跡が蜘蛛の魔物を引き寄せたのか。


「蜘蛛の考えは分かりませんけど、それよりもここに居たら私たちも同じように殺されたりしませんか……?その方が重要ですよ絶対」


 葉々下さんは蜘蛛の死に姿を見て、警戒心を高めていた。


 私は半壊した蜘蛛の死骸から目を離し、遺跡の方へと歩を進める。


 しかし二,三歩進んだところで――


「――これは、呪い?」


 地面に魔法陣が浮かび上がると同時に、私の全身に呪術の効果が駆け回った。

 罠のように、足元に仕掛けられていたらしい。


 しかし特に問題はなく、私はそのまま歩き続けた。

 多少不快ではあるが、神に呪いの類は通じない。


「呪いを解くのは神殿なので……、まぁそういうことです」


 身体は人間だが、精神は神のまま。

 精神を狙うタイプの呪いであれば、絶対に食らわない。


 地面を見るとその呪いは一度で効力を失ったようで、発動と同時に現れた紋様は、ゆっくりと消えていった。


「し、記さん!?今の光は……」


「大丈夫です。どうやら罠があったみたいですけど、運良く避けられました」


「う、運良く?へ、へぇ……」


 少し離れたところから遺跡全体を眺めていた公斗くんが、私の元へと駆け寄ってくる。

 罠を避けたわけではないし、なんならガッツリ直撃したが、大丈夫なのは本当だ。


 だが最初に遺跡に足を踏み入れたのが私だったから良かったものの、もし別の誰かがと想像するとゾッとする。


 呪いからは何やら脳を弄り返そうという意思を感じた。

 今となってはその具体的な効果も分からないが、悪意によるものだという点に疑いはない。


「不気味ですねー……」


 やや不用心な気もしたが、構わず私は円形の遺跡の中心へ進む。


 その中心の位置からは、かつての遺跡の様相を想像することが出来た。


 周囲に散らばる、多くの瓦礫。

 これらが元々屋根の役割を果たしており、そして遺跡の円の縁をなぞるように並ぶ柱が、その屋根を支えていたのだろう。


 柱はどれも半ばで折れているが、一番長いものは私の背丈の三倍程度ある。

 崩れる前は、少なくともそれ以上の高さの建造物だったということだ。


「――この形……、何かの器だろうか」


 私の少し後ろを歩いていた、調城さんが何かを見つける。

 柱よりも、少し円の内側の位置だった。


 その声に近づいて確認すると、確かに黒い盃のようなものが置かれていた。

 柱などとは違う、黒曜石のように光沢を持つ材質。


 台座を造るのと同時にその器を彫ったようで、台座と器は一体化していた。


「かなり汚れていますけど、確かに盃みたいな形ですね。何かを注げと言わんばかりに堂々と出で立ちですが……水でも探します?」


「川ならこの先に見えたよ。気になるならボクと一緒に行ってみるかい?」


「え、本当ですか。行きましょう行きましょう、丁度喉も渇いてたんです」


 そして私と調城さんの二人は、公斗くんと葉々下さんに「少し離れますね」と伝えて、その川へと向かっていった。


 川は、私たちが森から出てきた場所の反対側を、横切るような形で位置している。

 私たちは東北東へ進みながらこの遺跡に辿り着いたのに対し、川は北西から南東へ流れていたため、もし真っ直ぐ北に歩き続けたとしたら、あの川に出会うのはまだ先だった。


 川に着くと、私は調城さんと並んでその水を眺める。


「……。うん、とても綺麗な川だ。これなら飲んでも問題ない」


「そうですね。魚?っぽいのも泳いでますよ。こんなに透き通った水、初めてです」

 

 水底がはっきりと見える。

 川の流れは穏やかで、岸辺に飛沫も上がらない。


 私は『創造』でコップを作り、水を掬って喉を潤した。

 暑い日差しに奪われた水分を取り戻すように、全身に活力が行き渡る。

 

「美味しい…。結構冷えてますし、最高ですよ」


 一杯の水を一息に飲み切り、私は調城さんにコップを差し出した。


「はい、調城さんもどうぞ」


「うん、ありがとう。でもボクは大丈夫、実はそんなに喉は乾いていないんだ」


「――?そうですか」


 この世界に来てから体に取り入れた水分は、果実に含まれるものがメインであり、満足の出来る量では無かった筈だ。

 特に今日は気温も高い。


 しかし我慢する理由も思いつかない以上、無理に飲ませるのもおかしな話だ。


「水は私が容器に入れて持っておくので、飲みたくなればいつでも言ってください」


 取り合えず私は、出来るだけ多めに水を容器に入れておくことにする。


「あぁ、助かるよ。なら器に注ぐ為の水はボクが持とう」


 そして私たちは綺麗すぎる川に背を向けて、遺跡へと戻っていった



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