表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

15☆足跡の先に見えるもの

4/9、この話を投稿するタイミングで「2☆都合良く転校生は現れる」を大改修しました。

前よりも絶対おもしろくなってます、是非確認していただければ!


一話、三話との繋がり方に変更はありませんし、読まなかったとしても、それ以降を読む上で問題はありませんのでご心配なく!


変更の謝罪を込めて、本日二話目の投稿です。

 そして翌朝。


 結局夜が明けるまで他の魔物が現れることは無く、僕たちは無事に朝を迎えた。

 交代で眠り、幾らか体力は回復したものの、やはり熟睡は難しく、倦怠感は拭いきれない。


 中でも特に調城さんは疲労が溜まっているようで、普段よりも顔色が優れなかった。


 今は全員が目を覚まし、顔を合わせている状況。


「――あの魔物たちの後を追ってみないか」


 最初に調城さんが発した言葉だった。

 皆の視線が調城さんに集まる。


「今思い返しても、あの魔物達は間違いなく明確な目的を持っていた。もしかしたら森の出口……、そうでなくてもこの森を出るヒントが得られると思う」


 あの魔物たちが何処へ向かっていたのか、については僕も考えた。


 思い付いた理由は三つ。


 この森から抜け出そうと出口へと走っていた可能性。

 何者からか全力で逃げていた可能性。

 そして、自身の群れに合流しようとしていた可能性。


 二つ目ならまだ良い。

 魔物が逃げ出すほど、危険な存在から距離を置けるのは僕らの生存に繋がる。


 しかし最悪なのは三つ目だ。

 僕らは、自ら地獄に飛び込んでいくことになる。

 

「リスクがあるのはボクも理解している。――でもこれは、同時にチャンスでもある。運任せだったボクらの進行に、考察の余地が生まれたんだ」


 リスクとリターン、どちらの比重が高いのか。

 それを考えるための情報すら、僕たちには足りていない。


「わ、私は調城さんに同意します。森を彷徨っているこの状況も、危険なことに変わりはありません。私たちにとって時間の経過は敵です。プラスにせよマイナスにせよ、進展は必要かと思います」


 葉々下さんは僕らに視線を送りながら、蜘蛛らの進路を辿ることに賛成の意思を示した。


「私も同じ考えですかね。何より目的地も無く歩き回る現状の方が危ない、という説すらありますよ」


 更に、記さんも賛同。


 僕自身も改めて悩みはしたが、蜘蛛の後を追うべきだ、とは昨日の夜の段階で答えを出していた。

 

 全員の意思が揃って、わざわざ話し合う必要もない。


「――よし、なら行こう。僕も覚悟は決まってる」


 拠点に用いた道具を片付け、僕らは真っ直ぐに歩き始めた。


 進む先は東北東。

 僕たちは元々、コンパスの針が指す方――即ち北へ向かっていたため、若干右へと進路を変えることになる。


 今日は昨日に比べて日が強い。

 今はまだ空が白む程の早朝であるため、日差しは気になる程ではないが、日中となればその気温に体力を奪われそうな気配があった。


 少しでも涼しいこの時間帯に、距離を稼いでしまいたいところである。


「所々に、奴らの足跡のような痕跡が残っている。そう体重がありそうには見えなかったけれど、相当に踏み込む力が強いのかもしれない」


「あぁ…、確かに足は速かったですね。私一人が全力で逃げても、捕まりかねない速度でしたし」


「『私一人が全力で』…って、やっぱり葉々下さん、僕らに合わせて走ってくれてたのね……」


 さらっと明かされる真実。

 冷静に考えれば、軽く数mをひとっ飛びする脚力を持っておきながら、僕らと同じ足の速さな筈もない。


「あ、いや、……まぁそうなんですけど、私一人で逃げてもどうせすぐに死んでしまいますから」


 その謙虚さを美徳と捉えるか、自身を客観視出来ていないと注意するべきか、この世界では難しいところだ。


 僕らは調城さんが見つけ出す、蜘蛛の痕跡を辿りながら足を進めていく。

 先へ進むほどに、その痕跡が徐々に新しく、色濃いものへと変わっていく様は、ここが分水嶺であることを僕らに強く伝えてきた。


 ただその道程の中で、気にかかることが一つあった。


「魔物が少なすぎないか…?」


 昨日は、少なくとも数十分に一度は何かしらの魔物と遭遇していた。

 その度に進路をズラして身を隠し、ときにはスキルを乱用しながらも、どうにか過酷な行進を続けてきた。


 しかし蜘蛛の足取りを追い始めてから、魔物と出会う頻度は明らかに減りつつある。


 そのあからさまな変化に、この先に何かある、という予感が僕らの中で強くなっていた。


 魔物たちが近付きたがらない"何か"があるのか、それとも物理的に魔物を減らす原因でもあるのか。


 なんにせよ、だ。


「ここからは、今まで以上に気をつけていこう。――声もなるべく上げないように」


 僕は皆に注意を促す。

 三人はそれぞれこちらを向いて、静かに頷いた。


 全員に、緊張の色が見えていた。


_____________________



 太陽が真上に登る頃、僕らの見る景色に大きな変化が現れた。


 僕たちの進路の遥か先に、日が強く差し込む場所が見えたのだ。

 樹木の隙間を縫って、ここまで光が届いてくる。


 それは日光を防ぐ生い茂る葉々が途切れているということで、つまり森の切れ目が存在すると推測できた。


「出口……?」


 僕は淡い期待を口に出す。

 無意識に、足が速まるのが分かった。


 全員の足音のテンポが少しずつ上がっていき、いつの間にか駆け足に変わる。

 周囲の警戒は止めないが、やはりどうしても光の方へと視線は吸い寄せられた。


 近づく程にその光は強まっていき、ある程度の距離からは立ち並ぶ木々の終わりを、確認できるようになる。 


 そして、日の元に飛び出した僕らが見たのは――


「――っ」


――石で出来た小さな丸い遺跡と、その周りを囲うようにして()()()()()()()()()()()だった。


 教室二つ分に入り切るかどうか、というサイズの小規模な遺跡。

 相当昔に作られたのか、苔も生えてかなり荒れ果てており、劣化して折れた柱も幾つかある。


 蜘蛛は五匹ともひっくり返り、腹を上に向けて動かない。

 よく見れば体の一部が砂のように朽ちつつあり、風に流されていく最中であることが分かった。


「なんですかね、ここ……」


「さて、なんだろうか。少なくとも出口ではないね」


 記さんは首を傾げ、調城さんは周囲を見渡す。


 調城さんの言葉の通り、ここは森の出口ではなかった。

 遺跡を中心に、円を描くように木々は切り開かれているが、外への道は何処にも見えない。

 木が生えていない範囲は広大で、向かい側の木が霞むほど。


「……はぁ、もう帰りたいのに」


「が、頑張りましょうよ、記さん!」


 少し期待させられただけに、気持ちが萎えるのも分かる。

 だが確実に前へ進んではいる筈…、と僕はどうにか己を鼓舞した。


「うん、とにかく調べてみようか。この世界のことを何か知れるかもしれないし」


 僕らは、日の光を浴びて佇む、古びた遺跡へと歩いて行った。


 遺跡に向けた調城さんの瞳がキラキラして見えたのは、おそらく気のせいではない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ