15☆足跡の先に見えるもの
4/9、この話を投稿するタイミングで「2☆都合良く転校生は現れる」を大改修しました。
前よりも絶対おもしろくなってます、是非確認していただければ!
一話、三話との繋がり方に変更はありませんし、読まなかったとしても、それ以降を読む上で問題はありませんのでご心配なく!
変更の謝罪を込めて、本日二話目の投稿です。
そして翌朝。
結局夜が明けるまで他の魔物が現れることは無く、僕たちは無事に朝を迎えた。
交代で眠り、幾らか体力は回復したものの、やはり熟睡は難しく、倦怠感は拭いきれない。
中でも特に調城さんは疲労が溜まっているようで、普段よりも顔色が優れなかった。
今は全員が目を覚まし、顔を合わせている状況。
「――あの魔物たちの後を追ってみないか」
最初に調城さんが発した言葉だった。
皆の視線が調城さんに集まる。
「今思い返しても、あの魔物達は間違いなく明確な目的を持っていた。もしかしたら森の出口……、そうでなくてもこの森を出るヒントが得られると思う」
あの魔物たちが何処へ向かっていたのか、については僕も考えた。
思い付いた理由は三つ。
この森から抜け出そうと出口へと走っていた可能性。
何者からか全力で逃げていた可能性。
そして、自身の群れに合流しようとしていた可能性。
二つ目ならまだ良い。
魔物が逃げ出すほど、危険な存在から距離を置けるのは僕らの生存に繋がる。
しかし最悪なのは三つ目だ。
僕らは、自ら地獄に飛び込んでいくことになる。
「リスクがあるのはボクも理解している。――でもこれは、同時にチャンスでもある。運任せだったボクらの進行に、考察の余地が生まれたんだ」
リスクとリターン、どちらの比重が高いのか。
それを考えるための情報すら、僕たちには足りていない。
「わ、私は調城さんに同意します。森を彷徨っているこの状況も、危険なことに変わりはありません。私たちにとって時間の経過は敵です。プラスにせよマイナスにせよ、進展は必要かと思います」
葉々下さんは僕らに視線を送りながら、蜘蛛らの進路を辿ることに賛成の意思を示した。
「私も同じ考えですかね。何より目的地も無く歩き回る現状の方が危ない、という説すらありますよ」
更に、記さんも賛同。
僕自身も改めて悩みはしたが、蜘蛛の後を追うべきだ、とは昨日の夜の段階で答えを出していた。
全員の意思が揃って、わざわざ話し合う必要もない。
「――よし、なら行こう。僕も覚悟は決まってる」
拠点に用いた道具を片付け、僕らは真っ直ぐに歩き始めた。
進む先は東北東。
僕たちは元々、コンパスの針が指す方――即ち北へ向かっていたため、若干右へと進路を変えることになる。
今日は昨日に比べて日が強い。
今はまだ空が白む程の早朝であるため、日差しは気になる程ではないが、日中となればその気温に体力を奪われそうな気配があった。
少しでも涼しいこの時間帯に、距離を稼いでしまいたいところである。
「所々に、奴らの足跡のような痕跡が残っている。そう体重がありそうには見えなかったけれど、相当に踏み込む力が強いのかもしれない」
「あぁ…、確かに足は速かったですね。私一人が全力で逃げても、捕まりかねない速度でしたし」
「『私一人が全力で』…って、やっぱり葉々下さん、僕らに合わせて走ってくれてたのね……」
さらっと明かされる真実。
冷静に考えれば、軽く数mをひとっ飛びする脚力を持っておきながら、僕らと同じ足の速さな筈もない。
「あ、いや、……まぁそうなんですけど、私一人で逃げてもどうせすぐに死んでしまいますから」
その謙虚さを美徳と捉えるか、自身を客観視出来ていないと注意するべきか、この世界では難しいところだ。
僕らは調城さんが見つけ出す、蜘蛛の痕跡を辿りながら足を進めていく。
先へ進むほどに、その痕跡が徐々に新しく、色濃いものへと変わっていく様は、ここが分水嶺であることを僕らに強く伝えてきた。
ただその道程の中で、気にかかることが一つあった。
「魔物が少なすぎないか…?」
昨日は、少なくとも数十分に一度は何かしらの魔物と遭遇していた。
その度に進路をズラして身を隠し、ときにはスキルを乱用しながらも、どうにか過酷な行進を続けてきた。
しかし蜘蛛の足取りを追い始めてから、魔物と出会う頻度は明らかに減りつつある。
そのあからさまな変化に、この先に何かある、という予感が僕らの中で強くなっていた。
魔物たちが近付きたがらない"何か"があるのか、それとも物理的に魔物を減らす原因でもあるのか。
なんにせよ、だ。
「ここからは、今まで以上に気をつけていこう。――声もなるべく上げないように」
僕は皆に注意を促す。
三人はそれぞれこちらを向いて、静かに頷いた。
全員に、緊張の色が見えていた。
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太陽が真上に登る頃、僕らの見る景色に大きな変化が現れた。
僕たちの進路の遥か先に、日が強く差し込む場所が見えたのだ。
樹木の隙間を縫って、ここまで光が届いてくる。
それは日光を防ぐ生い茂る葉々が途切れているということで、つまり森の切れ目が存在すると推測できた。
「出口……?」
僕は淡い期待を口に出す。
無意識に、足が速まるのが分かった。
全員の足音のテンポが少しずつ上がっていき、いつの間にか駆け足に変わる。
周囲の警戒は止めないが、やはりどうしても光の方へと視線は吸い寄せられた。
近づく程にその光は強まっていき、ある程度の距離からは立ち並ぶ木々の終わりを、確認できるようになる。
そして、日の元に飛び出した僕らが見たのは――
「――っ」
――石で出来た小さな丸い遺跡と、その周りを囲うようにして死んだ五匹の蜘蛛の魔物だった。
教室二つ分に入り切るかどうか、というサイズの小規模な遺跡。
相当昔に作られたのか、苔も生えてかなり荒れ果てており、劣化して折れた柱も幾つかある。
蜘蛛は五匹ともひっくり返り、腹を上に向けて動かない。
よく見れば体の一部が砂のように朽ちつつあり、風に流されていく最中であることが分かった。
「なんですかね、ここ……」
「さて、なんだろうか。少なくとも出口ではないね」
記さんは首を傾げ、調城さんは周囲を見渡す。
調城さんの言葉の通り、ここは森の出口ではなかった。
遺跡を中心に、円を描くように木々は切り開かれているが、外への道は何処にも見えない。
木が生えていない範囲は広大で、向かい側の木が霞むほど。
「……はぁ、もう帰りたいのに」
「が、頑張りましょうよ、記さん!」
少し期待させられただけに、気持ちが萎えるのも分かる。
だが確実に前へ進んではいる筈…、と僕はどうにか己を鼓舞した。
「うん、とにかく調べてみようか。この世界のことを何か知れるかもしれないし」
僕らは、日の光を浴びて佇む、古びた遺跡へと歩いて行った。
遺跡に向けた調城さんの瞳がキラキラして見えたのは、おそらく気のせいではない。