1☆都合良く女の子は落ちてくる
最高の「出会い」とはなんだろう、と私は考えた。
それは空から落ちてくるヒロインを受け止める瞬間だ、と答えを出した。
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僕は特に用事もない休日に、目的もなく散歩をしていた。
行きたい場所は無く会いに行く相手もいなかったが、かといってこの快晴の日に一日中ゲームというのも勿体無いように思えて、取り合えず家から離れた。
フラフラと近所を彷徨いながら何処へ行こうかと考えて、僕が選んだコースは高層ビルの並ぶオフィス街。
普段であれば絶対に訪れない場所を、敢えて歩いてみることにする。
「やっぱ人は少ないか」
今は日曜の真昼間という、ほとんどの人が働かずに休んでいるタイミングだ。
こんな日に人が集まるのは大きな店が立ち並ぶ場所であり、わざわざオフィス街を訪ねる方がおかしい。
人気の無さは当然だった。
歩いても歩いても視界に入るのは、普通のビルか、めっちゃ高いビルか、もしくは低いビルばかり。
コンビニはそこそこ見つかるが、それ以外に入れそうな店はほとんど見つからない。
「分かってはいたけど、学生が来るような場所じゃないね」
歩いていて、楽しさが一ミリも湧いてこなかった。
僕は近くにあった、コンビニへと入る。
小さなビルの一階に設けられた、あまり広さのないコンビニだ。
僕はそのコンビニで、お気に入りの鮭のおにぎり二つとお茶を買い、そのままイートインで食べていく。
長居する理由もないため、食べ終わった僕はそのまま直ぐに外へ出て、また歩き始めた。
「いやしかし、早速飽きてきたな散歩……」
やはり家で引き籠っているのが性に合っているのかもしれない、と僕は思う。
外よりも中で、日の光など求めずに布団に包まっていた方が幸せを感じられる。
そして己の中で、丁度、進むか戻るかの葛藤が始まったとき――
「危ない、退いて!!!!」
――空から女の子の、ハスキーな声が聞こえてきた。
「え?」
上から声がするってどういうことだ、と驚きながら僕は顔を上げる。
するとそこには、超高速で落下してくる女の子がいた。
「!?」
文字通り、超が付く程に高い速度。
この速さを生み出そうとしたら、恐らく目の前にある超高層ビルの最上階から、飛び降りるくらいの方法しか思いつかない。
というかまず間違いなくこの少女はそうしている。
僕はその一瞬の出来事にどうしていいのか分からず、咄嗟に受け止める構えを取った。
僕が女の子を受け止めることに成功すれば、僕らは二人とも無事で万々歳――
――いや絶対に無理だから死ぬ死ぬ死ぬ!!!
しかし既に避ける時間は残されていない。
もうこれは仕方無しと覚悟を決めて、僕は膝を曲げ、足に力を入れ、命懸けで踏ん張った。
迫る少女。
駆け巡る走馬灯。
そして少女の肌が僕の手の平に触れ、その瑞々しい柔肌を感じとった直後――
「くぺっ」
――案の定、僕の身体はミンチみたいに潰されて、死んだ。
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少年が死ぬ瞬間を、その後ろで見ている女がいた。
「………。大失敗、ですね。あの、ホントごめんなさい」
それは薄青色の髪を持つ女神。
彼女は己がやらかしたことに気付き、顔を引き攣らせていた。
二つの死体が並ぶ、このグロテスクな惨劇は全てこの女神の手によるものだった。
少女が落ちてくるように細工をし、そして少年の元へと向かうようタイミングを合わせた。
そのようなことをした理由は「主人公とヒロインの出会いと言えば、空からドーンですよね」というふとした思いつきから。
「や、やり直しましょう。時間を戻してもう一回。えと、次はもっと低いビルを選んで――……」
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特に用事もない休日に、僕は目的もなく散歩をしていた。
行きたい場所は無く会いに行く相手もいなかったが、かといってこの快晴の日に一日中ゲームというのも勿体無いように思えて、取り合えず家から離れた。
フラフラと近所を彷徨いながら何処へ行こうかと考えて、僕が選んだコースは高層ビルの並ぶオフィス街。
普段であれば絶対に訪れない場所を、敢えて歩いてみることにする。
「やっぱ人は少ないか」
今は日曜の真昼間という、ほとんどの人が働かずに休んでいるタイミングだ。
こんな日に人が集まるのは大きな店が立ち並ぶ場所であり、わざわざオフィス街を訪ねる方がおかしい。
人気の無さは当然だった。
歩いても歩いても視界に入るのは、普通のビルか、めっちゃ高いビルか、もしくは低いビルばかり。
コンビニはそこそこ見つかるが、それ以外に入れそうな店はほとんど見つからない。
「分かってはいたけど、学生が来るような場所じゃないね」
歩いていて、楽しさが一ミリも湧いてこなかった。
僕は近くにあった、コンビニへと入―――ろうとして。
「危ない、退いて!!!!」
空から女の子が降ってきていることに気付いた。
「え?」
黒髪を、長く伸ばしたお嬢様然とした少女だった。
落下による風圧で舞い上がるその髪は、まるで一枚の黒い絹のように散っていて、僕から空を隠しきる。
僕は慌てて手を広げて、その少女を受け止めるように構えた。
彼女の落下速度は相当で、このままぶつかれば間違いなく骨折はするのだろう、と僕は覚悟する。
そして少女の肌が僕の手の平に触れ、その瑞々しい柔肌を感じとった直後――
「軽っ!!!!!!」
――その尋常ではない、少女の軽さに驚かせられた。
羽毛のような軽さ、とかではなくもう完全に羽毛。
女性に対して使う「軽い」とかそんな次元ではなく、冗談抜きに風船を跳ねさせる感覚だった。
想像していた衝撃が訪れなかったせいで、僕は身体のバランスを崩す。
「―――!」
両手で抱きかかえた少女を傷つけないよう、身体を捻りながら倒れ込んだ。
背中に痛みが走るが、騒ぐほどではない。
僕は腕の中にいる少女に話しかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい…」
その少女に怪我はないようで、話す声には痛みを堪える色もなかった。
「で、でも……っ!!」
しかし何故だか、少女の顔は徐々に赤く染まっていく。
そしてそれは、羞恥と怒りを半々で混ぜ込んだような表情だった。
「――ど、どうして胸を触ってるんですか!?それもガッツリ!!ガッツリ鷲掴みはおかしいでしょう!?」
「……確かにおかしい。どうして僕は胸を鷲掴みしてるんだ」
「お、おかしいと分かっているなら早くその手を退けなさい!!」
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「――っしゃよし上手くいった!流石私です!」
二人の少し後ろに、女がいた。
勿論、女神である。
「……しかし、『浮遊』の魔法まで使うのは不味かったでしょうか……?」
主人公の少年に強く関与しすぎたのではないか、と女神は不安に思う。
「いやそれ以上に、胸を揉ませたのもやり過ぎだったような……」
だが女神は、まぁいいやとばかりに頭を切り替えると、パッと明るげな顔をする。
「それよりも次ですね、次。早く彼女を転校させる準備をしなくてはいけませんし!」
不穏な発言と共に、女神は何処かへ飛んで行った。
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