9 智朗、気づく。そして無双する。
少女を放置した後暫くファンタシーゾーン内を探索したが、フラウドらしき魔物に会うことは無かった。
腹が減ったので帰宅して食事を摂りつつスマホでニュースを見ていた所、魔物に襲われて魔物化した人達にインタビューする記事が載っていた。
そこには魔物化した人達の写真もあった。
右腕が爬虫類のようなでこぼこした鱗に覆われた人、背中に羽毛が生え始めた人、足が逆間接になってしまった人、様々な症状の人が紹介されていた。
魔物化には種類があるようだ。記事上には悠と同じような症状の人はいなかった。
とりあえずこの人達の居場所が知りたい。フラウドの居場所について聞けるかもしれないからだ。
続けて大型掲示板サイトの地方板を見ていた所、気になる書き込みを見つけた。
『近所に居た怪物倒した』
怪物を倒した? フラウドが誰かに倒されてしまったのか?
書き込みを追う。
『怪物って、例の壁の?』
『違う』
『どんな見た目だった?』
『リスみたいな奴』
プルフェから聞いたフラウドの特徴は小型で頭に四本の角、犬歯が鋭く尻尾があり、二足歩行するというものだった。
聞いただけでは今一想像できていなかったのだが、フラウドの見た目はリスのような見た目だったのか。
『写真』
張り付けられた画像には、鋭い歯が剥き出しの凶悪な顔で、頭には角らしきものが生えたリスが映っていた。
こいつがフラウド? ただのリスではないか。
『どう見ても怪物』
『こりゃ怪物だわ』
怪物だそうだ。
『俺も怪物倒したぜ』
『写真』
掲示板にもう一人、怪物を倒したという者が現れた。
フラウドは複数いるということか?
「あれ?」
そいつが貼った画像を見た所、それは先日殺して埋めたモモンガと同じ見た目であった。
「んん?」
そこで思い違いに気づいた。
これまで倒して埋めてきた野生動物、あれは全て魔物だったのではないか。
『なあ聞いてくれ怪物倒したらさ』
『なんだ?』
『レ ベ ル ア ッ プ し た』
『レベルアップてお前』
『すげえ高くジャンプできる』
『ブロック素手で割れた』
『まじかよ始まった』
掲示板には魔物を倒したことで身体が強化されたと書き込まれていた。
魔物を倒すとレベルアップして身体機能が強化される?
「んんん?」
そこでさらに気づいた。最近体が軽く感じていたのはレベルアップによるものだったのではないか。
プルフェが俺のレベルがどうとか言っていた。
野生動物だと思って倒していたそれは魔物だった。
かなりの数を埋めたのでそのせいでレベルが上がってしまった?
プルフェは自分の状態を確認したかったら「ステイタ コントロロ」と念じろと言っていた。
念じてみる。
すると状態確認画面が頭の中に浮かんできた。
レベル:45
装備 :フード付きパーカー
ジーンズ
所持品:スマホ
他にも色々な数値が表示されたが、どんな意味を持つのか調べるのが面倒なので見ないことにした。
レベル45。最初は1から始まるのであれば上がっているのか?
比較するものが無いのでこれが高いのか低いのかもわからない。
『おいこれ見ろ』
『ライブ?』
『まじかよ終わった』
『グロ』
『おいレベルアップした奴助けに行けよ』
『やだよ怖いもん』
ラフウェイブのライブ配信を見ろと書き込みがあったのでリンクをタッチする。
するとファンタシーゾーンの境界あたりがライブ配信されていた。
焦るウェイバーの顔が映る。
「やばいウェイ! 人が襲われてるウェイ!」
カメラが別方向を向く。
すると大きなヌートリアが人々を食い殺している、凄惨な状況が映し出された。
頭に角が生えてて顔は凶悪だが、発達した前歯に、前足に水かき、カピバラのような見た目。
間違いなくヌートリアである。
ヌートリアにしか見えないが、これまでの例から言ってこいつは魔物であろう。
「これはいかん」
俺は着替えた。
テンションが上がった時に買ったはいいものの、落ち着いてから見たらダサすぎて着ることの無かったフード付きジャンパーとチノパンに。
俺はそのダサい服で現場へと向かった。
***
「キャアアア!」「ガウウウ!」「ぎゃああ!」
「グルアアア!」「助け……! がぎゃあああ!」
ヌートリアが人々を襲っている現場へ到着した。
サングラスにマスクをし、フードを深く被って顔を出さないようにして、ヌートリアを退治して回った。
「あ、あんたは……!?」「ありがとうございます!」「助かった!」
助かった人々から感謝される。
だがどうでもいい。俺は彼らを助けようとしていないのだ。
何故なら魔物を全て退治して他の人のレベルを上げさせないのが俺の目的である。
人々のレベルが上がったら、現在この町を襲っている脅威を解決しようとする者が出てくるだろう。
そうなれば悠を元の姿に戻そうとする者が出てくるかもしれない。
それは許せない。
「うおおおおおっ!!」
「ガアアアアッ!!」
***
人を襲っていたヌートリアを全て退治した。
その後、着替えて悠の見舞いに行った。
「兄さん……」
「大丈夫だ」
悠はニュースを見たらしく、俺のことを心配していたが、危なかったらすぐ逃げるから問題ないと言っておいた。
見舞いを終えて帰宅してネットを覗いてみたところ、あらゆる場所で俺のことが話題になっていた。
『謎のヒーロー参上』
『人々を助けた後何も言わず去る』
『彼は何者か』
『ファッションセンスが絶望的』
写真も載っていたが、顔を隠していたので俺の正体はバレていないようだ。
だがこれで外出時、同じ格好は出来なくなった。
そして地方板の例のスレッドでは、一歩踏み込んだ話題が出ていた。
『あのフード何者?』
『いち早くレベルアップに気づいてスタダした奴だ』
『レベルアップ独占してる』
『やべーなそれ』
『ファッションセンスが絶望的』
早くも俺の狙いを看破された。
これから毎日魔物達を倒して回るつもりだが、漏れはあるだろう。
それに、どこかの組織がレベルアップに気づいて集団で動かれたらレベルアップの独占は不可能である。
俺は物置の地下へと向かった。
倒れていたプルフェを椅子ごと起こし、ガムテープを剥がす。
「智朗、これは最後通告です。今なら許してあげますから、すぐに私を解放しなさい」
「いやだね」
「そうですか、ならば私にも考えがあります。覚悟しておいてください」
何かする気のようだ。ブラフだろうか?
「そんなことより、異界からの浸食の影響についてもっと教えてくれ」
「教えて欲しければ拘束を解きなさい」
プルフェは俺の質問に答えないつもりのようだ。
「お前、痛いのは嫌だと言ってたな?」
「え?」
俺は地下に置いたままのリュックから彫刻刀を取り出した。