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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第一章 人類の敵
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8 智朗、ファンタシーゾーンに突入する。そして外国人と遭遇する。

 


「うわわわ!」「逃げろ!」「痛い!」「助けて!」



 人間大のアライグマを見て周りの連中が逃げ出した。


 テレビ局のスタッフらしき連中は残ってカメラを回し続けている。強い。



「ウェ、ウェイ?」「ウェ?」「ウェェ?」



 ウェイバー達は恐る恐る後ろを振り返る。その途端、ウェイバー達に襲い掛かるアライグマ。



「ガアアアア!!」


「「「ヴェー!!」」」



 だが、アライグマの爪がウェイバー達を切り裂くことは無かった。


 アライグマの爪は空中で停止していた。ファンタシーゾーンの壁に止められたのだ。


 どうやらアライグマはファンタシーゾーンの外に出られないようであった。


 何故だろうか。



「ガルルルル!」



 威嚇を続けるアライグマ。



「ウェ……イ?」



 腰を抜かして座り込んでいたウェイバーの一人が状況を把握したようだ。



「ウェ、ウェヘヘーイ」「ウェーイ」



 ウェイバー達は威嚇を続けるアライグマを背に、スマホで自撮りし始めた。


 たくましい連中である。


 そのうち逃げた連中も戻ってきてアライグマの様子を観察し始めた。



「あんな動物見たことないぞ」「未確認動物?」



 どう見てもアライグマだろう。ちょっと体が大きくて爪や牙が鋭いが。



「あの透明な壁からこっちへ来られないのか」「なんか動物園みたい」



 その内ウェイバーの一人が長い棒でアライグマをつつき始めた。


 彼らの勇気は凄い。ここまでくると尊敬に値する。



「ガアア!」



 アライグマが棒を叩き折った。



「ウェーイ」



 ウェイバーがはしゃいでいる。



「おい、お前達、集まるのは止めろ」



 振り返ると警察官らしき男数人が人だかりを抜けてきた。



「ああ?」「うるせえ」「キノコ狩りに来ただけだよ」



 周りの連中が警察官に対して抗議を始めた。



「この道は閉鎖だ。帰るんだ」


「んだそれ」「横暴だ」「キノコ狩っちゃ駄目だってのかー」



 山道が閉鎖されたようだ。



「「「ウェーイ」」」


「ガルルル!」


「な、なんだあの化け物は!?」



 警察官達がアライグマに気づいた。


 あのアライグマをファンタシーゾーンの外から拳銃で撃ったら倒せるのか見てみたいが、彼らはそんなことはしないだろう。


 ならばこれ以上ここで得られる情報は無さそうである。


 俺はそこから移動することにした。




 近くの草むらに身を隠す。


 草むらに身を隠したまま、その場から離れる。


 人だかりから十分に離れて人が見えなくなったら、今度は手を前に出しながら透明な壁があるであろう方向へと移動する。


 こうすればそのうち手が透明な壁に触れるだろう。


 何故そんなことをするのかって、俺だって透明な壁に手をついてウェーイしたいのだ。


 できれば壁の向こうにスマホを入れて自撮りして、壁に手をつけてパントマイムみたいなことをしてみたい。


 だが今は自撮り棒が無い。残念である。



 暫く進むと突然、腕の毛が逆立ち、ザワザワしだした。


 これは先日、川で感じた感覚だ。


 さらに進むとザワザワは体の後ろへと移動していき、治まった。



 ……これは。


 おそらく今、俺はファンタシーゾーンに入った。


 ザワザワは、ファンタシーゾーンに入った時の感覚だったのだ。



「うぇーい……」



 ファンタシーゾーンに入れてしまった。


 なんということだ。これでは透明な壁に手をついてウェーイできないではないか。


 ウェイバー達はファンタシーゾーンに入れない様子だったのに、何故俺は入れるのだ?


 プルフェが条件がどうとか言っていた気がするが、よく覚えていない。



「……とりあえず中を見てみよう」



 俺はそこからファンタシーゾーン内部の探索を開始した。







 

 ファンタシーゾーンの中、山道を進む。ゾーンの外と違う所は特に見当たらない。



「グルルル……」



 目の前に大きなアライグマが現れた。ウェイバー達がつついていたやつより大きい。


 この辺はアライグマの生息域なのか。



 今、俺の手にスコップは無い。スコップは目立つので家に置いてきたのだ。


 スコップの代わりに背中からバールを取り出す。



「ガアアアウ!」



 襲い掛かってきたアライグマをバールで殴り倒した。やや強い爽快感。


 先日より楽に倒せた気がする。アライグマ退治のコツを掴んだようだ。


 死体を埋めようと思ったがスコップが無い。素手で穴を掘るのは大変である。



「山中だし、良いか」



 アライグマの死体は草むらに投げ入れて放置することにした。


 続けて襲い来るアライグマたちをバールで殴り倒しながら進む。


 そうして爽快感を得るたび、体がどんどん軽くなっていく。



「なんだか凄く体の調子が良いぞ?」



 ちょっと走ってみる。


 ゴォッと音を立てて景色があっという間に過ぎていく。


 凄い速さである。


 原因はなんだろうか? たまにランニングマシンで走っているのが効いたのか?


 風を斬る音が気持ちよかったので、調子に乗った俺はどんどん山奥へと進んでいった。




 ***




 やがて古いボロボロの家が立ち並ぶところに出た。



「家に人は住んでないみたいだな」



 そう言えば山の奥には小さな廃村があると聞いたことがある。ここがそうなのだろう。


 ボロボロの家に入る。


 プルフェの話ではフラウドは暗くて狭い所を好むらしい。


 こういう所に隠れていたりしないだろうか?


 腐った床板を避けながら、家の中を探す。


 そうしていたら突然、家の外が騒がしくなった。



 動物のうなり声と、子供の悲鳴のような声が聞こえた。


 子供の声?


 俺以外にファンタシーゾーンに入れる者が居たようだ。


 家の玄関から少し扉を開けて外の様子を伺ってみる。



「ガオオ!」

「△×〇ー!!」



 そこで見たのは数匹のアライグマに追われる外国人らしき少女の姿であった。



「うーん、どうしよう」



 少女を助けてやるべきだろうか?


 助けた場合のメリットデメリットについて考える。



 少女は何者だろう? ひょっとしてプルフェと同じような存在?

 今顔は隠しているが、出ていけば俺がファンタシーゾーンに入れることを知られてしまう。

 少女を助ければファンタシーゾーンに入る条件に付いてわかるかもしれない。 いやそれはプルフェに聞けばわかることだ。

 目の前で少女が殺されるのを黙って見ているのか? 俺の目的には影響しない。

 少女を助けるのはデメリットでしかない?


 そんなことを考えていたら家まで逃げてきた少女が扉を開けてしまい、アライグマ達と目が合った。



 ***



 アライグマを片付けた後、少女の様子を見る。


 セミロングの金髪に碧眼、白人のようだ。


 まだあどけないが、将来はとても美人になりそうな顔立ちである。


 服は白いワンピースのスカート。履物は皮製のサンダル。



「はあ、はあ」



 少女は肩で息をしていた。



「大丈夫か?」


「はあ、はあ、△△○○……」


「何? なんて言った?」



 少女は何か喋ったが、なんと言ったのか全く分からなかった。


 英語なら多少はわかるのだが、英語ではないようだ。


 日本語は使えないのだろうか?



「日本語は喋れるか?」


「××△△○○」



 わからん。


 態度からしてお礼を言っているみたいではある。


 だが意思疎通は無理そうである。


 もう姿を見られてしまったし、ついでにファンタシーゾーンに入れた条件に付いて何かわかるか聞きたかったが、これでは諦めるしかない。



 少女を放置してその場から去ろうとし、後ろを向いた。


 すると後ろで鈍い音がした。


 振り返ると少女が大きな石を持ち、アライグマの頭めがけて振り下ろしていた。


 頭に石を振り下ろされたアライグマはピクピクしていた。


 どうやら一匹、アライグマを倒し損ねていたようだ。


 少女が大きく石を持ち上げ振り下ろすと、アライグマは動かなくなった。


 この少女、これだけ気が強いのなら生きて外までたどり着けるであろう。



「町へ向かうならあっちだ。気をつけてな」


「〇〇〇△△△!」



 少女の声を無視して、俺はその場を後にした。



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