22 智朗、実験する。
トゥエルヴは大きな力を持つ勇者の情報を集めているのだろう。
俺も最初のフェスティバロ時に動画を撮られ、それをネットにさらされている。
どうやら俺はその時の情報から「ダサい服の男」でトゥエルヴ内に報告されていたようだ。
石化した俺もどきの残骸に目をやりながら中年男性に話しかける。
「邪魔な奴は石化させて粉砕か。これならば死体が見つかることは無い。
考えたな」
「くっ!」
中年男性が拳銃を持つ手に力を込めた。
「……! ……!?」
だが銃弾が発射されることは無かった。
俺が人躁術を行使して、中年男性の意識をそのままに体の自由を奪ったのだ。
「撃てないのが不思議か?」
「く……、ぐ……」
中年男性の体が震えている。一生懸命手に力を加えているのだろう。
「こ、こいつの、力は……!」
中年男性はゆっくりとイグアナ顔に拳銃を向けた。
「は!? ちょ……」
イグアナ顔は腕を交差させて頭部を守った。
ドン
「ぎゃあ!」
中年男性の持つ拳銃から発射された弾丸は、イグアナ顔の腕に命中した。被弾部から出血したようだが、それほどのダメージでは無さそうである。レベル9に加え、服の袖で見えないが腕の皮膚も魔物化によって硬質化しているのかもしれない。
「体の自由を奪われた……! 逃げろ……!」
「人を操る力とか、そんなのありかよ!?」
イグアナ顔は中年男性の指示に従い、振り返って逃げ出す。
「逃がさんぞ」
素早く移動し、イグアナ顔の前に立ちふさがる俺。
「う、あああ!!」
イグアナ顔の指から細く鋭利な爪が伸びる。
シュバッ!
イグアナ顔による、石化爪の一閃。は発生しなかった。
ドス
地面に落ちる腕。
プシュウウ
「ぎゃああああ!!」
腕を押さえて叫ぶイグアナ顔。片腕の肘から先が無く、盛大に出血している。
俺の仕業である。
彼らにサバイバルナイフ+5による切りつけを防ぐ手立ては無い。
「あ、ああ、ああああ……」
イグアナ顔の声が急速に弱っていく。
このまま放置すればすぐにイグアナ顔は死んでしまうだろう。
収納から止血バンドを取り出し、イグアナ顔に近づく。
「ああ……、ああ……、来るな……」
イグアナ顔はヨロヨロと後ずさりし、俺から離れようとする。
「動くな」
「う、うあああ!」
暴れようとするイグアナ顔を力で地面に抑え込み、腕に止血バンドで適切な処置を施し、出血を止めてやる。
「な、なんで……」
「何故助けるかって? そりゃあ……」
立ち上がり、地面に落ちている腕を拾い上げる。
その腕の指の先には石化爪が伸びたままである。
「実験に使いたいからさ」
***
少し実験した結果、次のことがわかった。
・石化爪はイグアナ顔には効かない。
これは予想できた。
傷つけた者を石化させる爪が、それを持つ自分にも効いてしまったら大変である。
おそらく生活ができない。爪は出し入れが可能なようだが、うっかりは絶対にある。
石化耐性があるのは当然であろう。
・石化爪から傷を受けた個所を切り離した場合、石化の進行は止まる。
これは予想は出来たが、理屈はわかっていない。
傷を受けた個所から変質していくということだろうか。
血管を通って体を変質させる魔法的物質か何かが全身に回ったりしても良さそうに思うが、そういうことは無いらしい。
「ううう……」
イグアナ顔が止血された片腕を押さえてうずくまったまま唸っている。
その横には石化した中年男性が転がっている。その体に四肢は無い。
俺が実験で中年男性の四肢を切り離したからである。
「次は……」
石化した中年男性の体に対して収納を試みる。
しかし、中年男性の体が収納されることは無かった。
「ふむ?」
・石化した人間は収納できない。
これは予想外。
人間は収納できないことは知っていたが、死体ならば収納できることを俺は知っている。
収納できないということは、石化した人間はまだ生きているということである。
いや、石化して生命活動が無いのだから死んでるけど、スポティスン様のルールでは生きてる判定になっているようである。
「ふむふむ」
ガッ バコッ!
「ひいい!」
石化した中年男性の頭を軽くこづき、首を折るとイグアナ顔が吃驚して声を上げた。
胴体と首が完全に離れていることを確認の後、収納を試みる。
この状態になっても、中年男性の体が収納されることは無かった。
「ということは……」
石化した俺もどきの残骸を見る。
その周りには、石化させられて砕かれた者達と思われる大きな石が散乱していた。




