19 智朗、アイテムクリエイションを行使する。
食事を終え、悠が自室に戻ったのを確認後、収納から携帯端末を取り出す。
この携帯端末で、訪問してきた中年男性の上着のポケットに入れたGPS発信器 兼 盗聴器の発する電波を受信できるのだ。
既に発信された電波は受信され、記録されているので、それを再生すればあの後二人がどんな会話をしていたのかを聞くことができる。
早速携帯端末を操作し、記録を再生する。
「チッ、面倒な」
「ですね」
声の感じから、舌打ちしたのは中年男性だろう。返事をしたのは長身の若者。
木の葉の擦れる音や風の音が聞こえない。恐らく車内で話している。
「邪魔な兄だ」
「説得できそうですか?」
「無理だな。取りつく島もなかった」
「妹の方が外に出るのを待ちますか?」
「いや、とりあえず兄を排除しておいた方が色々と楽そうだ」
「まあそうですね」
「兄が一人で外に出るのを待つぞ」
「はい」
物騒な会話である。
車内に二人の他に人はいなさそうだ。携帯端末を操作し、GPSで中年男性の現在位置を確認する。中年男性はまだ家の前にいた。おそらく砂利道の前に止めておいた車に乗っているのだろう。
会話を聞いても、二人の正体はまだトゥエルヴと確定したわけではない。中年男性を操って話を聞くのが手っ取り速いが、レベル9が邪魔だ。とりあえず二人はトゥエルヴだと思うことにしよう。
「排除が何を意味するのか確かめてみるか」
トゥエルヴという組織の性質についても知りたいし、あまりに性質の悪い組織なら粛清するべきだろう。
だがレベル9は恐らく魔物化したトゥエルヴの兵である。奴の持っている特性によっては、俺が危機に陥る可能性がある。
鴉に仲間の能力を確認するように指示しているが、未だ彼女からの連絡はない。
「ものは試しか」
俺は家の外に出て彼らを誘ってみることにした。
だがその前に、悠の安全とプルフェの存在隠蔽が必要である。
携帯端末を収納し、夜が来るのを待った。
***
夜、悠の就寝を確認後、俺は庭の倉庫へと向かった。
倉庫に入り、入り口横に置いてある何かを手に取る。
白くて三角錐の形をしたそれはドメートと言い、アイテムクリエイションで作成できるアイテムの一つである。
ドメートは指定した者以外の侵入を阻む結界を張ってくれる。結界と言っても、物理的な障壁が出来るわけではない。指定者以外は結界内に立ち入れないのを疑問にすら思わない。そういうものだと認識する。使い方によっては凄まじく強力なアイテムである。
ただし、設置、起動に時間が掛かるため、緊急時の回避には使えない。
効果は最大で1日。
これはおそらく、ファンタシーゾーン内で睡眠を取りたい時などに使うアイテムなのだと思われる。
重要施設に忍び込んで設置し、起動して悪さし放題とかの悪用が考えられるが、そういうものが設置できないように、設置アイテム無効化領域を発生させる対抗アイテムがある。ドメートの存在が当たり前になった世界では、対抗アイテムを建物に設置することが必須になるだろう。
というわけで効果時間を指定してドメート起動。
ブゥン……
歪んだ空間が球状に広がっていく。
既に悠の寝室のドメートは起動してある。これで明日の朝まで悠とプルフェは大丈夫だ。
俺は家を出た。
月明かりの中、砂利道を歩いていくと声を掛けられた。
「こんばんは粘大さん」
砂利道の前に止まっていた黒いセダンの横に、中年男性が立っている。
「まだ帰ってなかったのか」
「どうか話を聞いて頂けませんか」
「断る」
「そうですか……。残念です」
ガッ
後ろから俺の手を掴んだのは長身の若者である。
「何をする」
振り向くとそこには、サングラスとマスクを外した長身の若者の顔があった。
縦に長い瞳孔。青色の舌が口から少し出ている。
その口の周りはボコボコと爬虫類のような鱗で覆われていた。




