2 智朗、プルフェを支配する。
プルフェはプリンを食べるより俺に触られたいらしい。
プリンの方が自身の存在確認ついでに美味しい物を食べられるので良いと思うのだが、どういうことだろうか?
ひょっとしてこれは罠か?
プルフェは俺にハニートラップ的な何かを仕掛けているのか?
「……智朗」
誘うかのように、俺の名を呼ぶプルフェ。
「……」
プルフェは非人間的ともいえる美しさを持っている。
彼女の誘惑に逆らえる男は少ないだろう。
俺はその少ない方の一人である。
プルフェは超常的存在なのだ。
いくら美しくても、彼女は人間ではない。
俺が彼女に感じるのは、美しくも恐ろしい絵画を見た時のような感動。
具体的には関心と恐怖である。
人に似せて作られたおぞましい何かの誘惑に負ける俺ではない。
まあ、もしこれが”可愛い”からの誘惑だったなら、俺に抗う術は皆無であったが。
手でプルフェの肩に触れる。
「あ」
「これでいいか?」
「……」
プルフェは黙っている。お気に召さないようだ。
「どうして欲しいんだ」
「頬に触れてください」
さっきほっぺたをつままれたのがそんなによかったのだろうか?
「……」
「あ……」
手でプルフェの頬に触れてやると、プルフェの頬に赤みが刺した気がした。
いや、明らかに赤くなっている。
これはもしや……?
スリスリ
「は……、あう」
親指でプルフェの頬をさすってやると、プルフェは切なそうな声を上げた。
そこで頬を触るのを止める。
「あ、智朗、もっと触っていてください」
「うん? お前の存在確認のためならもう十分だろう」
「いえその……、もう少し……」
「なんだ? もっと俺に触って欲しいのか?」
「あ、はい」
「どうして?」
「どうしてって……」
「ほら」
プルフェの頬の傍に手をやる。
その気配を感じたのか、プルフェは頬を俺の手に近づける。
スリスリ
手に触れた頬を小さく左右に揺するプルフェ。
「はああ……」
プルフェが恍惚を感じているかのような声を上げる。
俺の手に触れることが幸福であるようだ。
明らかに、プルフェの様子がおかしい。
だが俺は、この状態を説明できる症状を知っている。
恐らく、ストックホルム症候群というやつであろう。
ストックホルム症候群とは、監禁や拘束された被害者が、犯人と長い時間を共有することにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く、つまり好きになってしまうという現象である。
どうしてこのような現象が発生するのか詳しくは知らないが、長く拘束された状態で、自分に食事を与えてくれたり、自分の欲を満たしてくれる相手を好きになってしまうのはなんとなくわかる。
それが超常的存在であるプルフェにも起こり得るとは。
プリンを与えたのが原因だろうか?
これは……。
これは好都合である。
一時的とはいえ、プルフェが俺の事を好いているのであれば、もうプリンを用意する必要はない。
これからは聞きたいことがあったら頭でも撫でてやれば答えてくれるであろう。
「ハッ! 今一体、私は何を!?」
プルフェは我に返ったらしく、頬を俺の手から離した。
「くっくっく……」
「あっ……!」
プルフェの頬を指でつまむ。
「質問だ。新たに発生したファンタシーゾーンを消滅させるにはどうすれば良い?」
「んんん……!」
「答えるんだ」
プルフェの両の頬を指でつまむ。
「ああ!」
「さあ、早く答えろ」
「ち、中心部にある、ファンタシーゲートを壊せば消滅します」
ファンタシーゾーンの中心にそんなものがあったのか。
「壊すのに障害はあるか?」
「……」
黙るプルフェ。
仕方ないのでつまんだ頬を外側に引っ張る。
「うにぃー!?」
「障害はあるのか?」
つまんだ指を緩める。
「んは、はああ……」
「どうなんだ?」
「ハア、ハア……。
ゲートを守る強力な魔物、ゲートキーパーを倒す必要があるでしょう」




