3 智朗、エレベーターでアクションする。そして引き続きエレベーターでアクションする。
ギシィ……
エレベーターのワイヤロープが軋む音がする。
ギュイイイイン ガガガガガ!
電動ノコギリが回転するような音の後、金属を削る音。
上に落ちてきた何かが、エレベーターの上部に穴を開けようとしているのだろう。
このままではまずい。だがエレベーターは動かない。
上に落ちてきた何かは、恐らくエレベーターの扉を無理やりこじ開けてエレベーターシャフトへ侵入したのだろう。
エレベーターの扉が無理やり開けられたりした場合、異常を検知してエレベーターは停止する。
そうして停止してしまったエレベーターを動かすにはどうしたら良い?
こういう時は落ち着いて非常用ボタンを押すのだ。
エレベーターの行先階ボタンの上にある電話の受話器マークのボタンを井伊に押させた。
するとボタンが点灯した。外部と繋がったようである。
『どうされました?』
ボタンの下のスピーカーから男性の声。常に待機しているオペレーターなのだろうか。
こういうことは初めてなので緊張する俺である。
まあ応答は井伊にさせるのだが。
ガガガガガ
「エレベーターが止まってしまったのですが」
『そうですか。ええと……、少しお待ちいただけますか』
「はい」
おお、何とかなるかもしれない。
ガガガガガ
『もしもし』
「はい」
『あと少しで爆弾をお届けできると思います』
なんだと。
ガガガガガ ギュイイイ!
エレベーターの天井から金属製のドリルが突き出てきた。
ドリルが引っ込むと、天井には直径10センチほどの穴が開いていた。
『死ね』
オペレーターの男は冷たく言い放った。
エレベーターのコントロールは既に、奴らの手の内だったようだ。
おのれ。よくも騙してくれたな。まあ、応答中に天井からガリガリ音がしっぱなしで、それでオペレーターが慌てない時点で気づけという話ではある。
ウィィン カコッ
機械が動くような音の後、天井の穴から何か丸い物体が落ちてきた。
落ちてきたのは丁度穴の大きさと同じくらいの直径の、黒い球体である。
球体の表面に円形の溝が一つあり、中で赤い光が点滅している。
偽オペレーターの男が言っていた通り、これは爆弾であろう。
爆発の威力はわからないが、井伊を殺せる力を持っていることは間違いない。このような密室では爆発の衝撃から井伊を守ることは難しい。
仕方が無いので俺は爆弾を収納することにした。収納できるものとできないものをきちんと調べたわけではないが、毒ガス噴霧器が収納できたのだ。これも可能であろう。
素早く爆弾を手に取り、収納に入れる。
シュン
爆弾が消え、エレベーター内を静寂が支配する。
「……」
ウィィン カコッ
暫くすると、機械が動くような音の後、天井の穴から黒い球体が落ちてきた。
上にいる何かが先ほど投下した爆弾は不発だったと判断したのか、再度爆弾を投下してきたようである。
仕方が無いのでそれも収納する。
シュン
爆弾が消え、再びエレベーター内を静寂が支配する。
「……」
カコッカコッカコッ
爆弾の三連続投下である。
シュンシュンシュン
爆弾が消える。
「……」
ガゴン!
エレベーターが揺れた。
上にいる何かは爆弾を投下するのを止めたようだ。
バツッ!
ワイヤーがちぎられたような音が聞こえ、ガクッとエレベーターが下がる。
まさかエレベーターを落とすつもりか。
バツンバツン!
ワイヤーが切られていく。いかん、全て切られる前に止めなくては。
だが俺が相手をするわけにはいかない。ならば天井の穴を広げて井伊を行かせるか。
いや待て、ロープ式のエレベーターであっても、ガイドレールに非常止め装置が付いているはずだ。ロープが切れてもすぐに落下するわけではない。扉を開けてエレベーターシャフトに逃れる時間くらいはあるだろう。
「あ」
そういえばエレベーターのコントロールは奴らの手の内だった。非常止め装置の無効化が可能だったりしたら――。
バツン! シュゴッ!
ワイヤーが切れる音と共に、エレベーターは落下を始めた。
ゴオオオッ!
落下していくエレベーターの中、俺は浮遊感に襲われていた。
考えている時間は無い。
俺はすぐに、エレベーター内の監視カメラと壁を破壊した。するとエレベーターシャフト内のコンクリートの壁が、凄い速さで上に流れていくのが見えた。
エレベーターの籠の下側、金属製で丈夫そうな個所を片手で持つ。そして、もう片方の手で収納から取り出したバール+5の曲がっていない方を逆手に持ち、コンクリートの壁に向かって突き刺す。
ズガガガガガッ!
バール+5がコンクリートの壁を破壊していく。
「ぬおおおっ!」
両の手に凄まじい負荷がかかる。籠の重さは1トン以上だろうか。
その落下を支えようというのだ。下手をすれば腕がちぎれ跳ぶ。流石に無理かと思ったが、意外と問題なかった。
だがエレベーターの落下は止まらない。
突き刺した瞬間は抵抗があったのだが、突き刺した後はコンクリートの壁が豆腐のように割れていく。
落下速度は若干落ちているが、まだ速い。このまま落下したら井伊が危ない。
仕方が無いのでバール+5を収納し、トーワちゃんの盾+5をコンクリート製の壁に押し付ける。
ガガガガガッ!
トーワちゃんの盾+5がコンクリートの壁を破壊していく。
だが落下速度は十分に遅くできたようだ。
ドシャア!!!
衝撃とともにエレベーター内の明かりが消える。
エレベーターが最下層へと到達したのだ。
「ぶはあ」
息を吐き、後ろを見ると井伊が倒れていた。
すぐに助け起こし、回復スキルを行使しつつ、平らな胸に耳を当てて心臓の音を聞く。
「よし死んでないな」
目を開けた井伊を下ろしエレベーターの扉に手を掛け、無理矢理開く。
ギギィ……
扉から光が差し込んできたが、それは扉の上の方だけであった。
ここは最下層だと思うのだが、エレベーターシャフト内には下方向に余裕があるのだろう。少々オーバーランしたようである。
開いた扉の隙間を覗き、外の様子を確認する。
すぐそこに自動販売機が見える。正面に自動ドアがあり、その向こうには太いコンクリート製の柱が何本も並んでいて、間には車が止めてある。
どうやら地下駐車場のようである。人がいる気配は無い。
まずは井伊を外に出す。扉の隙間は大分狭いが人が一人通るのには問題ないだろう。
「出ろ」
俺の指示に従い、最下層の床に手をかけて出ようとする井伊。
「うー」
腕の力だけでは登れず、壁を蹴り蹴りする井伊。
「……」
仕方が無いので手でお尻を押してやる。
「んっ」
「……」
外に出た井伊に周囲を警戒させ、俺も外に出る。
後ろを見ればワイヤーロープが切られたエレベーターの上部が見えた。
自動ドアを抜け、すぐに柱の影へと身を潜める。
奴らはエレベーターのコントロールを乗っ取っていた。監視カメラも乗っ取っていてもおかしくない。エレベーターから出る井伊の姿は既に捉えられているだろう。ならばすぐに、ここへやってくるはずである。
奴らが非常階段から来ると予測した俺は、先制攻撃させるため井伊を走らせた。
その時である。
ドガン!
エレベーターの方から大きな音がした。
上から何か落ちてきたようだ。
ウィィン ドスドスドス
エレベーターの入り口扉から出てきたそれを見て、俺は目を疑った。
それは犬のような見た目の四足歩行ロボットであった。
色は基本的に白で、関節部などが黒い。足には二つ関節があり、前足も後ろ脚も内側に曲げられている。胴体部の側面には迷彩柄のリュックのようなものが着けられている。背中後ろ、腰のあたりに360度センサーらしき装置。背中前側にはクレーンのようなものがあり、先端が手のような形をしている。これはおそらくマニピュレータであろう。
間違いない。
こいつはヒュージドッグ。ネットの動画で見たことがある。外国で開発された、絶対に転ばない4足歩行ロボットだ。
動画では開発者らしき男が何度も蹴り倒そうとするのだが、足でうまく力を逃がし、絶対に転ばないのだ。転ばないようにバランスを取る姿がなんとも健気で、俺のお気に入り動画の一つである。
ウィィン
ヒュージドッグの背中のセンサーが動いた。
駐車場のど真ん中、銃を構えて立つ井伊の姿を捉えたようである。




