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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第四章 沈黙特急
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2 智朗、重火器で撃たれる。そして引き続き井伊に無双させる。

 


 バババババ! 



 戦闘用ヘリコプターは窓の外にホバリングしながら、サーチライトでフロア内を照らしている。井伊を探しているようだ。



「これはない」



 俺は引いた。


 女性一人を相手に戦闘用ヘリコプターは無い。まあ、そこはもしかすると大人数を相手にする予定だったのかもしれない。


 だがもうひとつ。井伊の所属する組織、WECOの敵対組織だか何だか知らないが、これまでその存在が世間に知られなかったのは秘密裏に活動していたからであろう。


 それは今日までの話となる。


 夜だから視認されにくいとはいえ戦闘用ヘリコプターなど、この国の市街の空にそんなものが飛んでいたら大問題である。どんな大組織であろうと揉み消せはしまい。こんな武装組織が明るみに出れば潰されるに決まっている。これは失態であろう。



「……」



 そこで俺は最初のフェスティバロ発生時の人死にが無かったことにされたのを思い出した。



「ひょっとして揉み消せるのか?」



 あれはプルフェのような超常的存在がやったのではなく……。



 ヒュイイイイイイ



 ガトリング砲が回転しだした。まずい。


 デスクの裏に隠れている井伊をあぶりだすつもりなのか、フロア内をガトリング砲で一掃する気のようだ。


 あの大きな砲身から放たれる20ミリ口径の弾丸は、フロアにあるデスクなど軽く貫通してしまうだろう。


 普通の人間が被弾しようものなら何処に当たろうと即死である。


 俺だって直撃したら無事では済むまい。



 ガルルルル!



 ガトリング砲による掃射が始まった。


 人躁術で井伊を走らせたのでは間に合わない。


 俺はすぐに井伊のそばに移動すると、井伊を脇に抱え身を低くし、デスクの影を移動してフロア奥の扉へと急いだ。


 フロア内のデスクや椅子がはじけ飛んでいく。



 バガッ!



 ポッター君が粉砕されたところで逃げるのは間に合わないと悟った俺はフードを深く被り、井伊の体を抱きしめガトリング砲の射線から隠した。


 そして、俺が収納から取り出したのはマンホールの蓋である。


 マンホールの蓋の表には、東和町の擁立したゆるキャラであるトーワちゃんが彫られている。トーワちゃんはニホンオオカミの燻製がモデルの、腰の引けまくった姿が愛らしいキャラクターである。道路工事の際に交換されたものを、町役場の下水道河川管理課が全国に向けて販売したもので、値段は一つ5000円。販売数10枚のところに100名以上の申し込みがあったとか。早めに申し込んだのが良かったのか、トーワちゃんが彫られたマンホールの蓋は無事、俺の手元に届いたのだが、部屋に飾ろうとしたら悠に止められたので仕方なく物置に置いておいたものだ。


 プルフェを物置の地下に運んだ時に目に留まり、裏にはあつらえたかのように取っ手がついていたので盾として使えると判断した俺はそれを強化し、トーワちゃんの盾+5として収納に入れておいたという訳である。


 トーワちゃんの盾+5を戦闘用ヘリコプターの方向に向ける。



 ガルルルル!


 ドガガ!!


「ぐわー」



 トーワちゃんの盾+5に、ガトリング砲の弾丸が直撃し、俺と井伊は弾き飛ばされた。



 ガルルルルル ヒュイイイイ……



 井伊と自らに回復スキルを行使しつつ、井伊を抱きしめたまま動かずにいると、射撃音が止んだ。


 フードを少し上げ、トーワちゃんの盾+5の後ろからヘリコプターの様子を伺う。


 フロア中に破壊されたデスクなどの破片が舞い、戦闘用ヘリコプターを視認できない。ヘリコプターの方もこちらを視認できていないであろう。


 今の内である。


 井伊を抱えたままフロア奥の扉から廊下へと飛び出る。見回すが廊下に人の影は無い。ガトリング砲の射線から逃れるため、廊下を走り、角を曲がったところで分厚そうな壁を背に座り込む。



「はあ……」



 一息つく。だが急いで被弾状況を確認する。


 俺も井伊も怪我をしている様子は無い。問題はトーワちゃんの盾+5である。


 マッハ3弱の初速で撃ち出された20ミリ口径の弾丸が直撃したのだ。トーワちゃんの盾+5に穴が開いてしまったかもしれない。交換されたマンホールの蓋はデザインが変わっていた。もうこのデザインのマンホールの蓋は手に入らないかもしれないのだ。


 だがトーワちゃんの盾+5には傷一つなかった。


 マンホールの蓋時代についた傷は無数にあるので、新たな傷はなかったというのが正しい。


 +5まで強化された盾というものは重火器の弾丸すら防ぐらしい。鋳鉄製の鉄の板だというのに、凄まじい強度である。



 カチャカチャカチャ



 ヘリコプターの音がうるさい中、高い足音が複数聞こえた。


 首だけ出して廊下を覗いてみると、さっきまでいたフロアの扉からポッター君が数体、四つん這いでウゾウゾと出て来るところであった。


 

 ウゾウゾと廊下へ這い出たポッター君達はこちらに向かってきた。


 廊下を覗くのを止め、壁にあるフロアマップを見る。エレベーターが近い。


 俺は井伊を下ろし、壁の後ろに身を潜めた。


 そして人躁術を行使する。



 カツ カツ



 ゆっくりと足音を立てて廊下の中央に移動し、サバイバルナイフ+5と銃を手に、四つん這いで迫るポッター君達を睨むのは井伊である。



 チャチャチャチャ



 ポッター君達の移動スピードが増し、足音が連続する。中には壁を移動しているものまでいる。


 先頭のポッター君の腕が振り上げられ、井伊目掛けて振り下ろされる。



 シパッ!



 それをぬるりと避ける井伊。


 続いて四方八方から次々とポッター君の腕や足が井伊目掛けて振るわれる。


 隙間などありそうもない攻撃の雨の中を抜けていく井伊。


 いつの間にかポッター君達は井伊の居た場所を通り過ぎていた。


 井伊を振り返るポッター君達。


 だがポッター君達のセンサーが井伊を捉えることは無い。


 何故なら既に、井伊のサバイバルナイフ+5が彼らの体を切り裂いていたからである。



 ゴトト



 ポッター君達の首や上半身が床に落ち、彼らは停止した。


 それを振り返らず、廊下中央に平然と立っている井伊。


 強い。


 操ったのは俺だが。



「エレベーターで下に向かえ」



 井伊に指示を出し、監視カメラを破壊させつつ、一緒にエレベーター前へと走る。


 走りながら考える。


 ポッター君達の目にはカメラが内蔵されている。そのカメラに映った映像を見た者は、井伊の事を化け物か何かだと勘違いするのではなかろうか。いや、レベルアップについて把握している者達であれば、井伊がレベルアップしていると逆の勘違いをすることになるかもしれない。


 現在井伊は人躁術が通用するレベル1のままである。


 偽清掃員の連中を殺したが、井伊はレベルアップしていない。人を殺した場合でもレベルアップするはずだが、井伊を操っている俺が殺したことになっているのだろう。


 ロボットに襲われたり、トランクケースに偽装した火器で撃たれたり、戦闘ヘリコプターの掃射を受けたり、大分ハードな世界に身を置いているにも関わらず、井伊は人を殺していないようである。まあそれはあの大地震発生以後に限られるが。



「……殺人によるレベルアップか」



 異界化により、この世界では人を殺すとレベルアップするようになった。


 殺す意思が無くても殺人は発生する。


 車で人を轢き殺してしまったとか、警察官が犯罪者を取り押さえたはずみで殺してしまったとか、医者も時には人を殺すだろう。


 毎日人が殺し殺されているこの世界で、殺人によるレベルアップに気付いた者がいても全くおかしくはない。


 他より早く気づきそうな者達の例としては、殺人鬼や反社会勢力、死刑執行人等が挙げられるだろうか。


 今のところ殺人によるレベルアップについてネットに書き込んだりした者はいないようだが、人を殺すとレベルアップできると知らされたら、ロクでもないことを考える者達は絶対に出てくる。


 プルフェが俺に捕まっていなかったら、そういう者達をある程度制御できたかもしれないが、俺がプルフェを逃がすことはない。


 これまでの感覚からして、レベル1の人間を数人殺したところで大してレベルアップできないと考えている。レベル2までは難しくないと思うが、その程度なら俺にとって脅威ではない。


 大量破壊兵器で何百万人と殺した場合はレベルアップ条件によっては脅威となりうるが、その脅威はプルフェから情報が得られた場合でも存在するだろう。



 ポーン


「うお」



 エレベーターの到着音が聞こえて我に返った。


 見れば井伊がエレベーターの扉の横に立ち、中から出て来る者を警戒しているところであった。


 井伊にはエレベーターで下に向かえと指示を出し、考え事をしながら井伊の後ろをついていったので目的地に着いたことに気付かなかったようだ。考え事をしていると周りが見えなくなる癖はなんとかしたい。


 エレベーターの扉が開く。中には誰も乗っていなかった。


 追跡者の無い事を確認し、井伊と一緒にエレベーターに乗り込む。



『扉が閉まります』



 自動アナウンスの後、扉が閉まりエレベーターが下がっていく。


 だがすぐにエレベーターは停止した。



 ガン



 エレベーターの上から響く音。


 何か落ちてきたようである。


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