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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第四章 沈黙特急
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1 智朗、井伊に会いに行く。そして井伊に無双させる。

 

 夜、とある高層ビルの外壁に張り付いているダサい服にマスクとサングラスをつけた男が一人。


 俺である。



 ビュオオ!



 風が強い。


 下を見れば街灯の光で道路が照らされている。その道路の上を走る数台の車。


 対してビルの窓の明かりはほとんどが消えており、暗い。


 ここは井伊の組織、WECOの1グループが一時的な拠点としているフロアのあるビルである。まだ拠点が移されていなければの話だが。


 現在の俺の目的は井伊に会うことである。


 先日は時間が無かったため、井伊から十分に情報を得ることができなかった。今日は時間があるのでたくさんの情報を得られるのではないかと思っている。


 井伊のレベルが上がってたりして人躁術が効かない場合はどうしようか。



「プリン食わせたら話してくれたりしないかな」



 無理だろうなあとか考えながら外壁を登っていく。


 たまに明かりの付いている窓がある。ためしに覗いてみたら大きなフロアにスーツの男が一人でパソコンのディスプレイを睨んでいた。



「残業お疲れ様です」



 バシャアアン!



 国を支える労働者への労いの言葉を言い終わったところで、ガラスの割れる大きな音がした。


 5階ほど上のフロアの窓が割れたようである。


 そこはまさに、俺が向かっていたフロアであった。



 外壁に身を寄せて落ちて来るガラス片を避けた後、急いで登る。



 ドンドンドン! チュチュチュイイン!!



 銃声のような音に弾をはじくような音。一体、中で何が行われているというのか。


 割れた窓の端に手をかけ、中を覗く。


 フロア内の照明はまばらに点灯しており、暗かった。だが俺の目には見えた。


 そこに居たのは初めてあった時と同じように、軽量型耐爆ボディースーツに身を包んだ井伊であった。


 井伊は両手で大きな銃を構えていて、その銃口はフロアの奥へと向けられている。


 銃口の先を追った俺は見た。


 四つん這いで、目の前のデスクの上をかき分け、井伊に迫らんとする白い人型ロボットの姿を。


 WECOの敵対組織が差し向けたロボットだろうか。驚いた。この国で対人兵器としてロボットが運用されていようとは。


 井伊とロボットは戦闘中であり、デスクや椅子の並んだフロアには井伊とロボット以外いないようである。ここはWECOの1拠点のはずだが、井伊の仲間達は逃げたのだろうか。



「ん?」



 ロボットの顔に注目する俺。何故ならそのロボットの顔に見覚えがあったからだ。


 俺が見たことのあるそれは直立の姿勢のみだったので、顔を見るまで気づけなかった。



 これはポッター君だ。



 ポッター君とは、とある会社が発明した、感情を認識する人型のロボットである。


 レンタルが可能で世界で初めて量産された人型ロボットという話題性もあったことから、色々な会社が受付や作業所に導入し、新規作業員へのガイダンスを担当させたり、レストラン等に導入して案内業務を行わせたり、一時期社会的なブームとなった。


 だが人の顔を絶妙に気持ち悪く模した顔と、大分踏み込んで使わないと良さがわからないという理由から、すぐにレンタルされなくなり、あっという間にブームも去った。


 見かけなくなって久しいポッター君。それが今、四肢を触手のようにうねらせて四つん這いとなり、井伊に向かって突進しデスク上のラップトップパソコンや敷居を蹴り落としている。


 これはポッター君の侵入者撃退用のオプション機能か何かだろうか。こんな機能があるなら宣伝すればもう一度ブームが起こせそうである。



 ドガガッ!



 ポッター君が井伊の目前にまで迫る。



「くっ!」


 ドンドン! チュチュイイン!!



 井伊が発砲した。弾はポッター君に命中したが外装に弾かれた。ポッター君の体は防弾仕様のようである。どう見ても白い樹脂製なのだが、そう見えるように特殊な技術が使われているのだろう。



 ピュン!



 ポッター君の腕がしなり、井伊に向かって伸びた。



 バシィッ!


「がはっ!」



 ポッター君の腕に弾かれた井伊が吹き飛ぶ。吹き飛んだ先は窓、俺の居る方向であった。


 スローモーションで宙を舞う井伊の体。


 この勢いでは井伊は窓から外に飛び出て落下してしまうであろう。


 このままでは井伊が死んでしまう。ポッター君から情報を得るのは難しいと思われる。井伊を助けるべきだ。


 だが待て。


 独多乃緒という超能力者の存在を知った今、ポッター君の後ろに何が居るのかわからない。


 井伊を助けるのは良いが、下手に助けたら俺の存在に気付く者がいるかもしれない。


 井伊に観察スキルを行使する。



 レベル:1



 よし。


 俺は井伊に人躁術を行使した。


 

 井伊の体が窓の外に飛び出す。だが落下前に人躁術で操り、片手で窓枠に捕まらせることに成功した。


 俺はすぐに井伊の真下へと移動した。


 そうして上を向けばピチピチのボディースーツに包まれた小さなお尻が見えた。


 手を滑らせて落ちないように井伊のお尻を腕で支え、弾き飛ばされた時に骨折でもしていたらまずいので回復スキルを行使する。


 井伊の手に銃は握られていない。フロア内に落としてしまったようである。


 人躁術で操るとはいえ、ポッター君相手に無手は辛いと思われる。仕方が無いので収納からサバイバルナイフ+5を取り出して井伊の手に握らせた。


 こんなこともあろうかと、先日手に入れた外国製のサバイバルナイフを強化しておいたのだ。


 俺の肩を踏み台にし、井伊がビル内へと戻る。


 待ってましたと言わんばかりに、ポッター君の腕が襲い来る。


 人躁術を行使。



 シパッ!



 水平に飛び、華麗に避ける井伊。



 ゴトッ!



 ポッター君の腕がフロアの床に落ちる。井伊が避けると同時にサバイバルナイフ+5で切り落としたのだ。


 その事態に動きを止めるポッター君。人の感情を認識する機能でもって、状況分析でもしているのだろうか。



『はじめまして、ポッターです』



 ポッター君は四つん這いから起き上がり、井伊に挨拶しながら襲い掛かった。


 ヌルリとポッター君の足の下を抜け、ポッター君の背中に張り付く井伊。


 ポッター君の背中にサバイバルナイフ+5が突き立てられる。



 バカッ!



 ポッター君の背中が開いた。背中から何か武器が出て来るとかそういう構造だったわけではなく、サバイバルナイフ+5によって切り裂かれたのだ。


 背中を割られ、中身の部品やケーブルをも切り裂かれたポッター君はガクガクと故障したロボットらしい挙動をした後、停止した。防弾仕様の体とは言え、サバイバルナイフ+5には抗ずることができなかったようである。


 床に落ちている銃を拾う井伊。



「……なんとかなったか」



 ポッター君が動かないのを確認し、窓からフロア内に入った俺は一息ついた。



「ふう。……ん?」



 だがすぐに複数の足音が聞こえてきたので俺はデスクの影に身を隠した。


 バアンとフロアの奥にある扉が開き、出てきたのは数人の男達。全員清掃員のような恰好で、手には小さめのトランクケースを持っていた。清掃員としてこのビルに潜入していたのだろうか。



「太郎を破壊しただと」

「この女、どうやって」

「殺せ」



 男達は破壊されたポッター君を見て驚いたようだ。太郎とはポッター君の愛称だろうか。言動からして彼らも井伊の敵で間違いないだろう。


 男達は一斉にトランクケースの横を井伊に向けた。トランクケースの横には直径1センチメートルほどの穴が開いていた。


 まずい。これはトランクケースに偽装した火器だ。


 人躁術を行使。



 ドガガガ!



 スローモーションが始まる。


 無数の銃弾が井伊に向かっていく。


 井伊は向かってくる銃弾に対し、当たる面積を最小にするため後方に跳躍。その体勢のまま銃を男達に向け射撃。



 ドン  ドン  ドン  ドン  ドン



 スローモーションの中、井伊の銃から放たれた銃弾が男たちの眉間を貫いていく。


 トランクケースから放たれた銃弾の中には、井伊の体を捉えていたものもあったがサバイバルナイフ+5で弾き落とさせた。


 空中で回転し、フワリと床に降り立つ井伊。


 フロアに侵入してきた男達は全員死亡。


 サバイバルナイフ+5と銃を手に持ち、無傷のまま立っているのは井伊のみである。



「終わったかな」



 静かになったのを確認し、フロア内を見回す。


 デスクと椅子が並んでいる。ポッター君のが走り回ったため荒れているが、デスクは30センチメートルほどの高さのある敷居で仕切られており、デスクの上にはラップトップパソコンが置いてあったりなかったり。壁側にはコピー機や掲示板。コーヒーメーカーにオフィスグリコ。共用の冷蔵庫もあるようだ。


 どこにでもある会社のオフィスといった感じである。本当にここが井伊の組織、WECOの1拠点なのだろうか。


 井伊に聞いてみようとしたその時である。


 何かバラバラという音が聞こえてくる。そしてそれはだんだんと大きくなる。


 嫌な予感がしたので井伊をデスクの影に移動させる。


 暫く様子を伺っていると、やがて音の主が姿を現した。



 バラバラバラ!



 大きな音で空気が振動する。サーチライトの光がフロア内を照らす。


 ヘリコプターである。


 だがそれは撮影用や輸送用のヘリコプターではない。


 二重反転式ローターに、角ばったコクピット。側面にガトリング砲とミサイルを備えたそれは、どう見ても戦闘用ヘリコプターであった。



「ええ……」



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