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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第三章 陰謀の定石
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5 智朗、逃げる。そして森の中で一息つく。

 

 独多のかざした手が目前に迫る。


 独多に対しては最早、この先味方になるかもしれないという考えは無い。


 俺にとってプルフェの存在を知られる恐れのある相手は全て敵である。


 そして独多はレベル3の超能力者。これ以上力をつける前に殺しておきたい。


 だが今の俺の力では独多を殺せるかどうか微妙である。



 どうする?


 逃げる。



 だが念力で浮かされたままでは移動もままならない。なんとかせねば。



 シュパッ!



 独多の背後にナイフが迫る。


 俺が人躁術でデントを操り、独多に向かってナイフを投擲させたのだ。


 だがナイフは独多に到達せず、空中で静止した。念力で防がれたようである。



「ん?」



 ナイフを防いだ後に眉をしかめる独多。


 その様子から見て、独多は自分に向けてナイフが投擲されたことに気付いていなかった。


 やはり自動防御か。つまり独多には意識外からの攻撃も通用しない。



「デント君?」



 独多が後ろを振り向いた。だがデントは既に独多の死角へと移動させている。


 そのままデントを独多へと襲いかからせようとしたが、独多の体に手が届く前にデントの動きが止まった。


 独多はしゃがみこんだ。そして独多の足元で変な格好で止まっていたデントに顔を近づけ、観察し始めた。



「君、操られてるのか」



 ツンツン



 独多がデントの顔をつつく。


 デントは止まったままブルブルと震えている。


 俺の人躁術による指示が独多の念力に抗おうとしているのだろう。


 メチメチと嫌な音が聞こえた。


 どうやらデントの体のどこかの筋繊維が切れたようだ。



「え? あわわ……」



 独多が慌てている。


 この隙に水色の魔石を収納から取り出す。



「!」


「ぐ!?」



 それに気づいた独多が俺の内臓を念力で締めあげてきた。


 だが魔石は落とさない。回復スキルで治せば良いのだ。脳以外の臓器なら多少損傷しても構わない。


 即死させられたり記憶や思考を読まれる前に、この状態をどうにかするのが先決である。


 魔石を思い切り握りしめる。



 バキィ!



 俺の握力によって魔石が圧壊。内包されていた力が一気に周囲へと溢れ出る。



 ドパッ



 水の中にいる。


 独多の様子は視界がにじんでわからない。


 水を掻く。


 移動できる。


 独多の念力はまだ俺を拘束しようとしているが、水を掻いて移動することでその力から逃れられるかもしれない。


 力の限り水を掻き、鉄扉へと向かう。


 もう少しで鉄扉へとたどり着くというところで、念力による拘束の力が消えた。


 独多から離れたからか、独多に何かあったのか、わからないがチャンスである。



 水の中にぼんやりと、閉じた鉄扉にしがみついている女性の姿が見える。


 デントに独多を攻撃させた際、同時に井伊を全速力で鉄扉に向かって走らせておいたのだ。


 この研究所に潜入した目的は独多が魔石についてどこまで知っているかを調査することだったが、独多乃緒の力を見た今、これ以上の調査は難しいと思われる。であればせめて井伊から独多が何者なのかを教えてもらいたい。なので彼女は連れて行く。



 井伊を俺の肩にしがみつかせる。胸が当たる。平坦である。


 井伊を肩に抱えたまま手刀で鉄扉を破壊。


 水と一緒に部屋の外に流れ出る。



「ぶはぁ!」



 井伊を担いだまま階段に向かう。


 地下二階に向けて一気に跳躍する。



「ぁ……」



 井伊が小さく呻いたので顔をチラ見したところ、気絶しており顔は真っ青であった。


 急なGを掛け過ぎたようだ。跳躍しながら井伊に対しノールックで回復スキルを行使する。


 そして地下一階、地上階へと移動。


 建物の壁を蹴りでぶち抜いていき、何とか外に出た。


 だがまだ安心はできない。


 クラブキーを抱えようとしたとき、独多は突然俺の後ろに現れた。


 奴は瞬間移動も使えるのかもしれない。


 即座に跳躍し、研究所から離れた。




 ***


 


「ふー」



 息をつく。森の中である。研究所からは大分離れた。


 追跡者の気配はない。独多乃緒からは逃げ切ることができたようだ。



 井伊を肩から下ろし、顔を見るとまた真っ青だったので回復スキルを行使する。


 そして俺に対しても回復スキルを行使しておく。独多の念力に締め上げられた内臓に痛みは無いが、念のためである。



 やや落ち着いたところで、状況を整理する。



 俺は独多乃緒が魔石についてどこまで知っているかを調査するため研究所に潜入した。

 そこで俺と同じように独多乃緒目当てで潜入していた井伊を発見し、後をつけることにした。

 井伊が向かった先でデントとクラブキーという強化人間二人と戦闘。

 そこに独多乃緒が登場し、俺は念力で空中に拘束され、プルフェの存在を知られてしまいそうになる。

 なんとか念力による拘束から逃れ、井伊を抱えたまま研究所から脱出し、森の中で休憩中。

 逃走時、俺の家の場所が知れないように別の方向へと走ったため、帰宅に要する時間を考えると俺の活動可能時間の時間切れが間近である。



 状況整理終わり。



 強化人間はまだ良いとして、超能力者が本当に存在するとは。


 井伊も彼らがあのような力を持っているとは知らなかったのではなかろうか。彼女もそれなりに戦闘技術を持っているようだが、強化人間相手に戦えたとは思えない。警報が鳴って潜入に気付かれている中、強化人間が待ち構えていると知っていて地下に突っ込んでいったのだとしたら、彼女は自殺志願者である。


 独多乃緒も姿を現すつもりはなかっただろう。クラブキーが倒されたことで焦って出てきたように感じた。超能力の存在を世間に知られたくはあるまい。メリット無さそうだし。


 井伊が彼らの力を見る前に、俺が人躁術で操って意識を奪ってしまったので、強化人間の存在も、独多乃緒が超能力者であることも、彼女はまだ知らないと思われる。




 井伊は地面に横たわったまま、うつろな目で虚空を眺めている。


 彼女は全身に黒いボディースーツを纏っており、目の部分だけが見えている。


 これでは顔がわからないので額とスーツの隙間に指を入れ、首から上をスーツから露出させた。


 井伊の顔を見る。


 やや唇が厚めだが目鼻立ちは整っていて美人である。若く見えるが、諜報員みたいな仕事をしていて十代ということはあるまい。童顔なのだろう。髪は黒く、後ろでまとめられている。まとめを解いたら長そうだ。ついでに胸を見る。やはり平坦である。スーツで胸を抑えつけているというわけではないようだ。



 井伊には聞きたいことがたくさんある。人躁術で操れるので拷問などする必要は無い。


 だがその前に、井伊の服または体に何か仕掛けられていないか確かめる。


 諜報員なら色々仕込んでいてもおかしくない。



「フルストリ」と念じ、囁きを使って井伊に命ずる。



『起きろ』



 井伊が起き上がる。



『質問に答えろ』



 俺の指示に井伊が頷いた。



『自分の位置情報を報せる機器や録音録画機器を持っているか?』



 井伊は首を横に振った。


 GPSやボイスレコーダー的なものは持っていないか。



『爆弾とか自殺薬は?』



 井伊は首を横に振った。


 奥歯に薬仕込むとかしないのか。


 いや待て、本人に内緒でいつの間にか仕込まれてるとかあるかもしれない。


 うーむ。


 観察スキルを行使する。



 装備:軽量型耐爆ボディースーツ



 このボディースーツ、耐爆仕様だったのか。


 スーツに興味が湧いたが見ている時間はない。頭の中に表示されている井伊の装備欄に意識を集中し、装備詳細を表示する。


 〇軽量型耐爆ボディースーツ

 〇腕時計(耐衝撃構造)

 〇レディースタンクトップ

 〇プロキオン・ローターさんパンツ(位置情報発信機付き)


 装備詳細を見ておいて良かった。井伊の穿いているいるパンツは位置情報発信機付きのようである。井伊の位置情報は彼女の仲間には知られているということだ。ここには長居しない方が良い。そもそも俺には時間がないので長居する気は毛頭ないが。



 それにしても、プロキオン・ローターとはなんだろうか?


 ローターって、なんだか怪しい響きのような気がする……。


 井伊を見る。



「……」



 彼女はうつろな目で虚空を眺めている。


 人躁術により、今の井伊は俺の言うことを何でも聞く状態である。



 何でもだ。


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