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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第ニ章 人類の味方
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7 智朗、失敗する。そして勇者達を見る。

 


「な、何あれ……」「え、嘘でしょ?」



 悠の友人が迫る角ウシガエルに気づいた。



「……」



 ”可愛い”が無言のまま俺の手を強く握った。一時的に眠気が飛ぶ。



「皆走れ、学校に避難するんだ」



 悠の手を引き、足をすくませて動こうとしない悠の友人二人に避難を促す。



「グオッ グォッ」


「きゃああ!」



 空から角ウシガエルが降ってきた。


 睡眠不足は注意力の散漫を引き起こす。そのせいか敵の接近に気づけなかった。



 角ウシガエルがその大きな口を開け、俺を狙って舌を出してきた。


 舌は避けようと思えば避けられた。しかし、強烈な睡魔に襲われている俺にはそれが面倒だった。


 悠の手を離す。


 角ウシガエルの舌が俺の体に巻きついた。



「兄さん!」


「3人とも逃げろ」



 舌に引っ張られ、俺の体は角ウシガエルの口に吸い込まれた。


 睡眠不足は判断力の低下も引き起こす。判断ミスしたことにすら気づけない。


 俺は今、いくつの判断ミスをしているだろう?


 ひとつ判断ミスに気づいた。角ウシガエルの舌は避けるべきであった。


 避けれるのに避けなかったがために、俺の服が角ウシガエルの体液でベトベトになってしまったのだ。



 口をアムアムして俺を飲み込もうとする角ウシガエル。



「兄さんを、離せ!」


「ゲゴオオ!」



 悠の声、衝撃、浮遊感。突然開ける視界。


 浮遊感は続いている。後ろを見れば俺の服の後ろを掴んで飛ぶ”可愛い”の姿。


 悠は角ウシガエルを攻撃して俺を吐き出させたようだ。



「悠、外で空を飛ぶのは駄目だと、あれほど言っただろう」


「そんなこと言ってる場合じゃないよ」



 怖い目で睨まれた。


「オフッ」



 悠は俺を地面に降ろした。



「兄さんは二人を連れて学校へ避難して」


「悠はどうするんだ」


「私はあいつらをくい止める」



 そう言い、角ウシガエル達を睨む”可愛い”。カッコイイ上に可愛い。


 悠はこんなにアグレッシブな性格だったろうか?


 体は心の器と言うし、魔物化した体に精神が引っ張られているのかもしれない。



 だがこれはちょうど良い。


 悠のレベルをカンストさせるなら、わざわざテイムした魔物を殺させるより、あの角ウシガエルどもを倒させた方が手っ取り早い。まさに一石二鳥である。



 ……俺は今何を考えた?


 睡眠不足の人間は、意味不明な思考を正しいと思い込んでしまう場合がある。



「悠、危ないからやめろ」


「良いから行って!」



 その時、俺は悠に勇者を見た。



「たあっ!」



 ”可愛い”が角ウシガエルに体当たりした。



「ゲゴオ!」



 吹き飛ぶ角ウシガエル。”可愛い”の体当たりは角ウシガエルに効いているようだ。



「怖い怖い怖い」「ヤダヤダヤダ」



 悠の友人二人がうずくまって怖がっている。


 二人は悠に良くしてくれているので、出来ることなら生きていて欲しい。早急に避難させるべきである。



「悠、危なかったらすぐ逃げるんだぞ」



 角ウシガエルを睨む悠の返事は無い。角ウシガエルは悠より弱いみたいだし、少しなら目を離しても大丈夫だろう。


 俺は悠の友人二人を学校へ避難させた。


 トイレでベトベトの服を脱ぎ、収納から取り出したダサい服に着替えた後、マスクにサングラスをして、隠密スキルを発動しつつ、急いで悠の元へと戻る。



 そこで俺が見たのは三体の角ウシガエルに抑え込まれている”可愛い”であった。


 慌てて助けようと近づいたその時である。



「このお!」



 悠は体を振り、三体の角ウシガエルを振り払った。


 そしてそのままスーッと空中に浮かんでいく。



「うううう」



 握った手に力を込めている様子の”可愛い”。


 周りの空間がわずかに歪む。悠は何かする気のようだ。


 ”可愛い”に対して観察スキルを行使する。


 悠は今、特性浮遊の持つ力を二つ発動している。地面から浮く力と、浮いたまま移動する力だ。


 下に移動する力と、浮く力を反発させて力を溜めている。



「ぐうう!」



 歪んだ空間からパリパリと電気が発生しだす。



「あああああ!!」



 悠が力を解放した。


 浮く力が消え、溜めきった下へと移動する力が、”可愛い”を大きな弾丸へと変えた。



「ゲゴ!」



 弾丸となった”可愛い”の体当たりをもろに受けた角ウシガエルの体は無惨に弾け飛び、残りの二匹も衝撃波で吹き飛んで建物や壁に激突し、絶命した。


 三体の角ウシガエルを倒した悠のレベルは5に上がった。


 これにより悠はファンタシーゾーンに入れるようになった。





 

 ”可愛い”の立つ地面にクレーターが出来ている。


 レベル4時点でこの威力。やはり魔物化によって得られる特性は危険だ。



「ぎゃあああ!」「助けて―!」



 人の悲鳴。角ウシガエルの脅威はまだ消えていない。


 フェスティバロが終わっても、ファンタシーゾーン外へ出た角ウシガエルを全て倒さねば、この騒ぎは収まらないだろう。


 ”可愛い”が声の聞こえた方へと飛んで行く。その後を追う俺。


 学校よりもファンタシーゾーンに近い場所にある住宅街に着く。そこで俺は見た。



「うおおおっ!」「うらあ!」「かかってこい!」


「グオッ グオッ」「ゲロゲロ」「ゲゴオオ」



 ゴルフクラブや消火器を武器に、角ウシガエルと戦う人々の姿を。



 おお、なんということか。


 誰かを守るために、魔物というほぼ未知の脅威に立ち向かう彼らはまさに勇者。


 あるいは俺の敵である。


 観察スキルを行使してみれば、戦っている人達は皆レベルが3以上あった。



「うぐっ」



 戦う人々の内の一人が角ウシガエルにのしかかられた。



「おらあっ!」



 のしかかった角ウシガエルを女性が回し蹴りで蹴り飛ばした。



「気をつけろ!」

「ありがとう」



 よく見ればその二人の顔に見覚えがある。


 金田君と香ちゃんだ。二人の様子を観察したかったが、今は悠が優先である。



 ”可愛い”はその戦いに加勢するべく戦場へと飛び込んでいく。



「なんだあいつは!?」「新手か!?」



 新たな魔物らしき存在の登場に動揺する人々。



「たあーっ!」


「ゲゴーッ!?」



 だが”可愛い”が角ウシガエルの頭にドロップキックを見舞ったのを見て、皆”可愛い”を味方だと認識したようであった。



 そのまま人々は協力して角ウシガエルを倒し続けた。


 角ウシガエルは徐々に減っていき、戦場はどんどんファンタシーゾーンへと近づいていく。




 戦う人々の中には負傷者も多くいたが、俺的には悠さえ怪我しなければ問題無かった。




 ***




 もう残っている角ウシガエルは多くない。


 勇者達の活躍のおかげで、二度目のフェスティバロの被害もそれほど多くなさそうである。



「うー……」



 うめく俺。もうホント眠い。倒れそうだ。


 だが悠が無事に家に帰るまでは眠るわけにはいかない。



「ふわ……」



 俺があくびをしたその時である。



「うわっ! なんだ!?」



 そばで角ウシガエルと戦っていた男の様子がおかしい。



「か、壁!? ぐあっ!」



 男は何かに背中を押され、角ウシガエルの体当たりをモロにくらってしまっていた。



「まさか」



 男が叫んでいた辺りに近寄る。すると体がザワザワしだした。


 観察スキルを行使する。男のレベルは5に達していない。


 今、ここにファンタシーゾーンの境界がある。ファンタシーゾーンが拡大したのだ。



 ここはファンタシーゾーンにかなり近いが、昨日まで境界はもっと山奥だったはずだ。


 これほど急なファンタシーゾーン拡大の理由、それは。



「キシキシキシキシキシキシ」



 聞いたことの無い不快音が辺りに響き渡る。


 ファンタシーゾーン内部に、大型の魔物が出現したようである。


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