表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第ニ章 人類の味方
11/85

1 智朗、目標を絞る。そして学生達の喧嘩を観戦する。

 


「プギィ!」


「ん? ……気のせいか」



 ランニング中の男性が魔物の断末魔に振り返ったが、気にせずに走っていった。


 男性に俺の姿は見えていなかったようだ。


 何故かと言えば俺が取得した隠密スキルの効果である。



「便利だなあ」



 このスキルを取得したことで、俺の姿が人々に察知されることは無い。


 おかげで昼間から堂々と魔物を狩れる。



「さて解体するか」



 倒した魔物を解体スキルで解体する。魔物の体が自動的に捌かれていく。


 そして出てきた素材を収納するため「ストカド」と念じて収納画面を開く。


 素材を収納した後、自然公園の中にある森の中から出た。



「はあ……」



 公園のベンチに座りながら、俺はため息をついた。


 ファンタシーゾーン出現及び魔物の存在。これらの情報はネットやテレビによって全国に拡散された。


 おかげでファンタシーゾーンを見てみたい、魔物を捕獲したいという連中が全国からこの町に押し寄せている。


 警察も大勢が魔物探しに駆り出されたらしく、獣が潜んでいそうなところを長い棒でつついて回っていた。


 空はヘリコプターが飛び、バラバラとうるさい。



 魔物の襲撃であれだけ死人が出れば町の中は閑散としそうだが、魔物を見に来ている人達でむしろ活気づいている。


 彼らは死ぬのが怖くないわけでは無い。世間では、人死には無かったことになっているのだ。


 テレビの報道でも死んだ人達のことを言わないし、ネット上にあげられた動画でも、魔物に人が殺される場面は無い。


 何者かが隠蔽したのだ。何者かの正体も隠蔽の理由も俺にはわからない。


 プルフェは導く者は一人だと言っていた。


 だが他にも別の役割を担う人外が居て、そいつが隠蔽しているとかだろうか?




 魔物を倒すとレベルアップするという情報も、地方板で見ただけにとどまっている。


 書き込みのあったスレッドを探したが、いつの間にか見れなくなっていた。


 同じような内容のスレッドが立たないところから見て、情報を書き込んだ者も、見た者も、スレッドを消した者も、独占した方が良い情報だと考えたようだ。


 そいつらは今、この町のどこかで魔物を探して回っているに違いない。


 魔物の返り討ちにあって死んでくれれば良いのだが、彼らもそんなに間抜けではないだろう。



 やがて人々の中にレベル5を超える者が現れて、ファンタシーゾーンの攻略が始まると思われる。


 この動きは止められない。


 別に俺はファンタシーゾーンの拡大阻止を邪魔するつもりはない。


 拡大を放置すれば世界がファンタシーゾーンに飲み込まれてしまう。そうなれば最低限のインフラすら望めなくなってしまう。


 人は一度慣れた生活水準を落とすことに酷くストレスを覚える。俺も近所のコンビニが無くなるのは困る。


 だからファンタシーゾーン攻略は止めない。むしろある程度は協力した方が良い。



 目標をもっと小さく絞る。


 悠の姿を元に戻すことを阻止できれば良いのだから、それらに関連する情報を一切人々に与えない。


 これが今後の俺の目標だ。



 プルフェから聞いた悠を元の姿に戻す方法は一つ。それは魔物化解除薬の投与である。


 この薬はアイテム作成で作ることが出来るが、プルフェの情報が無ければアイテム作成画面が表示できないであろう。


 材料の取得にも魔物から素材を得る解体スキルが必要だし、とりあえずスキル取得方法について知られなければ大丈夫そうである。


 今できそうなことは、材料が取れる魔物を駆逐することくらいであろうか。


 魔物はファンタシーゾーンからどんどん湧いてくるようなので、全滅させることは無理なのかもしれないが、やらないよりはマシだろう。


 目標が決まり、気持ちに余裕ができた俺は悠の見舞いへと向かおうとした。


 その時である。



「金田ぁ! 覚悟しろテメエ!」



 男の罵声が聞こえた。


 見れば学生服の男の集団。服の感じからして大半が不良学生のようだ。


 どうやら一人の学生を不良達が取り囲んでいるようである。


 不良の中で一番身長の高い奴が、取り囲まれている学生、おそらく金田君を怒鳴りつけたようだ。


 金田君は不良達に睨まれていたが、それに臆す様子はない。



「吠えてないでかかってこいよ腰抜けが」



 ポケットに手を突っ込み、変な顔で挑発する金田君。朝から喧嘩か。元気いっぱいだな。


 だがどう見ても金田君は強そうではない。中肉中背ですらない。小肉小背。


 武道をやっているようにも見えないし。あの自身はどこからくるのだろうか?


 ひょっとしたら……。


 ここは相手の情報を見ることのできる観察スキルの出番である。


 まずは他の不良達を観察する。


 レベル:1


 レベルの初期値は1のようだ。


 そして金田君を観察する。


 レベル:2


 やはり、彼は魔物を倒してレベルアップしていたようだ。



「飯食えなくしてやるあああ!」



 学生達の喧嘩が始まった。



 ***


 

 学生たちの喧嘩が終わった。結果は金田君の圧勝であった。


 初めは背の高い学生と金田君の一対一だったが、話にならなかったので途中から金田君対他全員みたいになっていた。


 しかし、レベル1の差であの人数相手に圧勝出来てしまうのか。


 まあ、学生同士の喧嘩など、少し力が強くなっただけで全然違うだろうから、こんなものなのかもしれない。


 金田君も流石に拳銃を持った相手には勝てないだろう。


 ……俺はどうなのだろうか?



 金田君が倒れている学生達の近くにしゃがみこんだ。ヤンキー座りだ。



「お前等、明日から不良止めて真面目になれ」



 金田君の彼等への要求はかなり無理があるものであった。



「だ、誰が真面目になんか……」



 抵抗した不良を金田君が殴った。泣くまで殴った。



「お前等の顔覚えたぞ。毎日見張るからな。少しでも不良っぽい事してみろ、泣くまで殴ってやる」



 彼らも不良である。泣かされるというのは最大の恥辱であろう。



「ひ、ひいい!」



 不良の一人が逃げようとした。



「どこ行くんだ。これから学校だろ」



 金田君は不良を全員引き連れて公園を出ていった。


 中々面白いものを見せてもらった。


 だから近い未来、レベルアップした不良達に彼が復讐されないことを願う。



 ***



「兄さん、これ」



 ”可愛い”が俺にスマホを向けてきた。


 スマホにはダサい恰好をした男が、ヌートリアをバッタバッタとなぎ倒しているところが映し出されていた。


 まさか悠はこれが俺だとわかったというのだろうか? それは嬉しいが困る。



「こ、この人がどうかしたのか?」


「人を助けて、何も言わずに去るって、格好いいね」


「あ、ああ。そうだね」


「この服、兄さん持ってなかった?」



 ギクリ。



「ん? 持ってたかな? 捨てちゃった気がするなあ」


「そう……」


「ははは……。そうだ悠、今日は良いものを持ってきたんだ」


「良いもの?」


「これだ」



 そう言って俺は懐から手の平くらいの大きさの箱とトンカチを取り出した。



「なにそれ?」


「これを持って」



 ”可愛い”にトンカチを持たせる。


 トンカチを両手で持った姿が非常に可愛い。


 箱の上部を指差して言う。



「この箱のここをトンカチで叩いてくれ。強めに。ああ、音は出ない素材だから大丈夫」


「?」



 ”可愛い”がトンカチを振りかぶる。可愛い。


 トンカチが箱の上面に向かって振り下ろされ、箱の上蓋が沈む。



「んっ」



 その瞬間、”可愛い”はビクッとした。可愛い。



「兄さん、何これ?」


「あれ? おかしいな、ビックリ箱なんだけど、壊れたのかな?」



 そういいつつ悠に観察スキルを行使する。


 レベル:3


 悠のレベルが一気に3まで上がった。成功だ。



「仕方ない。また今度買ってくるよ」



 何食わぬ顔で箱を懐に入れる。



「……」



 悠はぼーっとしている。自分の身に何が起きたのかわかっていないようだ。


 先ほど悠にトンカチで叩かせた箱には魔物が入っていた。


 ファンタシーゾーン内で捕獲したスズメバチのような見た目をした魔物だ。


 素早さ特化の魔物で、かなり強いためファンタシーゾーンから出られないはずだが、魔物を従えることのできるテイムスキルを行使してテイムしたところ、ファンタシーゾーンの外に連れ出せるようになった。


 そいつを瀕死状態にして箱に詰め、悠にトンカチで叩かせたというわけである。


 強者が魔物を弱らせて、弱者がそれを狩ってレベルを上げる。


 いわゆるパワーレベリングが可能だという事が証明された。



「……」



 ベッドに横になっていた”可愛い”が起き上がった。



「悠?」



 ”可愛い”は布団から足を出し、地面に降り立った。


 布団から足を出すところが官能的だったので、俺は素数を数え始めた。



「立てる……」



 歩き出す”可愛い”。



「歩ける……」



 ”可愛い”の顔が少し明るくなった。神々しい。



「兄さん私、歩けるようになったみたい」



 ”可愛い”が俺の袖に掴まった。


 ”可愛い”はそのまま上目遣いで俺の目を覗き込んできた。


 あ、溶ける。


 脳が、溶ける。



「ハッ!」



 危なかった。もう数瞬、我に返るのが遅かったら、俺の脳は溶けて鼻から流れ出していただろう。


 廃人になってしまう所だった。



「良かったな。悠」


「うん」



 ”可愛い”は笑顔をみせつつもすぐに俺から離れた。


 残念。


 だがこれで悠に身を守る力を持たせることが出来た。


 問題は、いくつまでレベルを上げさせるかである。


 カンストまで上げたらシンカできなく……、いや、元の姿に戻れなくなるとか、無いだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が独特で面白い。 ちょくちょくあるギャグやブラックジョークが、飽きを感じさせず、引き込まれるように読ませてくれる。 [一言] 主人公がサイコパスで、万人受けしないと思いますが、嵌る人は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ