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妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない  作者: レイディアンと
第一章 人類の敵
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1 智朗、近所の見回りを始める。そしてハクビシンと戦う。

 


「ぎゃー」



 人気のない夜道を一人で歩いていたらモモンガに襲われた。


 仕方ないので持っていたスコップで応戦した。


 人間は野生動物に勝てないと聞くが、モモンガとの戦いはまさに死闘であった。



「はあ、はあ、危なかった……」



 たまたま足元にあった石につまづいて転ばなければ、勝っていたのはモモンガの方だったかもしれない。


 モモンガ相手に本気で戦って死にかけたなど、人には言えない。



 地面に倒れたまま動かないモモンガを見る。


 鋭い歯が剥き出しの凶悪な顔で、頭には角らしきものが生えていた。



「モモンガの顔ってこんなだっけ?」



 モモンガにもいろんな種類がいる。こんな顔のモモンガもいるだろう。


 滑空して襲い掛かってきたし、手と足の間に膜があるし、こいつはモモンガで間違いない。


 何故こんなところにモモンガが居るのだろう? どこかの家のペットが逃げ出したのだろうか。


 何故襲い掛かってきたのだろう? 俺が何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。


 そういえばモモンガは夜行性である。



「懐中電灯で照らされて怒ったのかな?」



 スコップでつついてみたが、モモンガは動かなかった。


 身を守るためだったとは言え、小動物を殺めてしまった。



「うむむ……」



 これは動物愛護法に抵触してしまうかもしれない。


 こいつがペットだったとしたら飼い主に恨みを買われる可能性もある。


 そう考えた俺は証拠隠滅することにした。



 その辺の地面にスコップで穴を掘り、モモンガを埋める。


 埋めている途中、モモンガはまだ生きていたらしく動き出した。



「ぎゃー」



 スコップで何度か殴りつけたらまた動かなくなった。


 その瞬間、少しの爽快感を味わった。自分にそういう趣味があったのかと驚いた。


 生き物を殺して悦に入ってしまったなど、ゆうが聞いたらどう思うだろうか。


 もしかしたら口を聞いてくれなくなってしまうかもしれない。



「それは悪夢だ。気を付けよう」



 モモンガを埋めた地面をスコップでパンパンと叩き、出てくる気配の無い事を入念に確認した後、家路についた。






 歩きながら考える。


 数日前、結構大きめの地震があった。


 それを境に、この町に人を襲う謎の怪物が出没するという噂が立ち始めた。


 ネット上では怪物の身長は3メートル以上だとか、怪物は口から火を吐くとか、怪物に襲われた人が怪物化しただとか、真偽不明の情報が飛び交っていた。


 偽情報に踊らされないように、信頼できる所からの情報しか信じないようにしているが、怪物についての情報は非常に少ない。


 比較的信憑性の高い情報は、怪物は人の多い場所には出没しないという事と、怪物は必ず夜に出没するという事だけ。


 夜は危険なので出歩かないようにと連絡が来たり、近所の学校では生徒を早く返したりしていた。


 人々はこの騒動を一時的と見ており、暫定的な対策で事態の収束を待つ構えのようだった。


 怪物の目撃情報があった場所の近くを警察が調査していたり、自治体が猟師の人に駆除を頼んだりしていたが、怪物が捕獲や駆除されたという話はまだ聞かない。



 家族が怪物に襲われたりしたら大変なので、俺は自主的に近所の見回りをすることにした。


 そして、その見回りの最中にモモンガに襲われたというわけである。



「今日も遭遇しなかったな」



 見回りを始めて今日で三日目だが、まだ怪物には遭遇していない。


 俺の予想では、怪物の正体はアライグマである。


 何らかの原因で大きく成長し、大型犬ほどの大きさになったアライグマが人を襲っているのだ。


 見た目に反してアライグマは凶暴だ。


 大型犬ほどの大きさのアライグマが近所を徘徊しているさまを想像してみてほしい。


 襲われたらただでは済まないであろう。


 おお、なんと恐ろしい。

 


 ***



「ぎゃー」



 次の日の見回り中、今度はハクビシンに襲われた。


 ハクビシンも夜行性であるため、懐中電灯で照らしたのが悪かったのだと思われる。


 襲ってきたハクビシンをスコップで殴り倒したところ、モモンガの時と同じような爽快感を味わった。


 この感覚、ひょっとしてこれはズー・サディズム(動物加虐性愛)というやつなのだろうか。


 そんな趣味、俺には無いはずだなどと否定しても仕方がない。


 己が心のあるがままを受け入れるのは、人生を楽しむ秘訣である。


 ただし、他人に知られないように気を付ける必要はある。



「はあ、はあ……」



 地面に倒れたハクビシンを観察する。


 手には大きな爪。切れ長の目に鋭い牙。頭に角。



「ハクビシンの顔ってこんなだっけ?」



 ハクビシンの写真を思い浮かべるが、角は生えていなかった気がする。


 しかし、キリンの頭に何本角があるか知らないように、ハクビシンの頭に角があるかどうかなど、いちいち気にして生きていない。


 ハクビシンは確か「白鼻芯」と書くと記憶している。


 その字の通り、顔の中心、鼻筋が白いのでこいつは間違いなくハクビシンであろう。



 ハクビシンとの死闘を思い出す。


 何故だかスコップが凄く軽く感じて、ブンブン振り回したりできた。


 しかし、それでもほぼ互角の戦いだったので手心を加えることなど出来なかった。


 ハクビシンを埋めながら、「やらなければやられていた。不可抗力だ」と自分に言い聞かせた。


 ハクビシンを埋め終わった後、顔を上げて戦慄した。



「うげ」



 いつの間にか周囲を数匹のハクビシンが取り囲んでいたのだ。


 恐らく、今埋め終わったハクビシンの仲間であろう。この戦いは避けられない。


 襲い掛かってきたハクビシン達を全てスコップで殴り倒した。



「はあ、はあ……」



 ハクビシンを殴り倒すたびに強い爽快感を感じ、自分の中の何かが目覚めてしまう気がして俺は怖くなった。


 ハクビシン達の死体を埋めながら考える。


 こんなに野生動物に襲われたことなどかつて無い。


 おそらく野生動物達も怪物アライグマの出現に気が立っているのだ。


 気が立っているところを懐中電灯で照らされたら俺だってキレる。



「仕方ない」



 野生動物に襲われるのも十分に危険なので、保健所とかに連絡した方が良いかと思ったが、動物の対処に来た人に埋めた動物の死体を見つけられたら面倒なのでやめた。



「俺は面倒は嫌いなんだ。なんてな」



 ハクビシン達の死体を埋め終え、俺は見回りを続けることにした。




 街灯で照らされた、大きめの道路の脇を歩く。


 夜は危険だと周知されているからか付近に人影は無い。


 まあ元々、車もほとんど通らない場所だ。


 俺は今、スコップを担いでいる。服装はパーカーにジーンズ、スニーカー。不審者である。



「通報されたりしたらどうしようか」



 俺なら通報する。


 とかそんなことを今更になって考えていたところ、スマホに知らない番号からの着信があった。


 知らない番号からの着信など普段なら出ないが、何故だか胸騒ぎがしたので出た。



「もしもし」


「ああ、良かった繋がった。」



 男性の声。



粘大智朗ねばだい ともろうさんですか?」


「はい、そうですが」


「落ち着いて聞いてください。あなたの妹のゆうさんが怪物に襲われました」


「え」


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