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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第009話:はじめてのダンジョン

【小解説】DODにおけるダンジョンのルール


 VRMMO-RPG「Dead or Dungeon」は、そのタイトル通りダンジョンをメインステージとしている。21世紀初頭のPCゲームとVRゲームの最大の違いは、視野の広さである。DODを含めたVR-RPGは、プレイヤーの視界は実生活と何も変わらない。背後は見えないし「次の部屋の様子」も判らない。初期のVR-RPGでは、薄暗い部屋に入った瞬間、奇声を発する悍ましい化物に襲われて失神したプレイヤーが出たこともあった。ヴァーチャル・リアリティが解禁された当初は、こうした「あまりにも現実的過ぎて、遊戯(ゲーム)にならないソフト」が幾つか散見されている。


 DODが傑作とされている一つの要因は、「リアリティとゲームの融合」にあった。マッピング機能による敵NPCの所在把握などは、他のゲームでも存在していたが、DODではダンジョンごとに「ダンジョンマスター」という独自のAIが設定され、「ダンジョンが変形する」「罠の位置が変わる」など、時間経過によってダンジョンそのものが変わるようになっていた。その分、マッピング機能や敵NPCの所在把握など、プレイヤーが視覚的に安心化を得られるような工夫がされていた。同時に敵NPCを徘徊させ、足音や奇声などで現実感を出し、プレイヤーの恐怖心を煽る部分も存在している。VRにおけるゲームバランスの一つの指標を打ち立てたのがDODであった。


 そしてDOD最大の目玉が「ダンジョンレベルのファジー設定」である。これは、プレイヤーの平均レベルによってダンジョンに出現する魔物のレベル値が上下するという設定で、全プレイヤーの平均レベルと、そのダンジョンに現在潜っているプレイヤーの平均レベルなどから決定される。例えば「レベル200」ダンジョンでは、たとえ同じNPCでもレベル151~299の数値範囲でレベルが変動する。その分、得られる経験値なども増えるため、ギルドによっては高レベルプレイヤーが同行し、新規参入プレイヤーの促成を図ったりもしている。


 VR技術と人工知能(AI)技術によって、DODは「異世界転生」と呼ばれるほどのリアリティと、傑作ゲームとしての完成度を両立させた。アドベンチャーゲームとして、あるいは十八禁ゲームとして、サービス開始から十年以上に渡って、DODは人気ランキングのトップに君臨し続けている。





 ギルドマスターから「名義貸し」の話を聞いたトマスは、怒りの表情を浮かべた。「夜明けの団」のメンバーは、リーダーのトマスを入れて四名である。いずれもゴールドランクの中でも上位に入る腕利きの冒険者たちだ。それだけに自信も自負心も強い。


「俺だって、ヴァイスの強さは認めてるよ。俺らが束になって掛かっても、ヴァイスには勝てねぇよ。だが俺らにも、冒険者としての誇りがある。何にもしないで手柄だけお零れで頂くなんざ、冗談じゃねぇ! 俺らも行けるところまで同行させて貰うぜ!」


 結果としてヴァイスは、トマスたち夜明けの団と合同で「公国東の迷宮」を討伐することになった。迷宮の入り口で、討伐の仕方について確認を行った。


「出て来る魔物は俺が倒す。トマスたちは素材と魔石の回収を頼む。言っておくが、有り得ないほどの早さで進むぞ。しっかり付いてこい」


 そして現在、迷宮の第八層に達している。ヴァイスは涼しい顔で魔物を屠っているが、トマスたちは息切れをしていた。凄まじい速度で魔物が屠られていく。まるで無人の野を歩くように、ヴァイスは迷宮を進んだ。


(フーン。この世界でははじめてのダンジョンだが、DODのスタンダード型と変わらんな。「塔型(タワータイプ)」や「天空城型(ラピュタタイプ)」も存在するのか? ひょっとしたら発見されていないだけで「Lv999《スリーナイン》」もあるかもしれん)


「ハァッ…ハァッ…ヴァ、ヴァイスッ!ちょっと待ってくれ!」


 考え事をしながら進んでいると、息切れをしたトマスが止めてきた。立ち止まって振り返る。自分は余裕だが、他の四人は体力が限界のようであった。


「少し、休憩を入れよう。素材回収も必要だろうからな」


「有り得ねぇだろ。一層あたり三十分も掛かってねぇぞ?」


 ヴァイスは一時間ほどの休憩を入れた。素材回収はトマスたちに任せる。DODではドロップアイテムなどは自動的にアイテムボックスに入る。だがこの世界ではそうした機能はない。こうして魔物を解体して素材を回収するスキルなど、ヴァイスは持っていなかった。


「俺は素材回収が上手くないのだ。トマスたちが居てくれて助かった。礼を言う」


「ヴァイス。助言させてもらうなら、アンタは回収の専門家を雇ったほうが良いぜ? こんだけ魔物を狩りながら、素材回収しないなんて勿体ねぇよ」


「そうだな。考えておこう」


 DODとは異なる現実の問題に、ヴァイスも素直に頷いた。結局、迷宮は第十一層まで攻略し、そこでテントを張ることになった。ヴァイスとしては一層あたり三十分として最下層の第二十五層までノンストップで進むつもりであったが、それは「何も回収せず魔物を屠りっぱなし」ということが前提であった。素材回収をする以上、遅くなることは仕方がないことである。出入り口が狭く、中に入ると広くなる部屋を見つけ、ヴァイスは頷いた。


「ふむ、丁度よい広さだ。ここに結界を張る。今日はここまでにして、ここでキャンプをしよう」


 トマスたちがいるため、アイテムボックスは開かない。だが大体のアイテム名は覚えているため、考えるだけで手元に出現する。ダンジョン内に安全地帯(セーフティーゾーン)を生み出すアイテム「地上最強女子の加護」を取り出す。手に持てる程に小さい、女性の上半身を模った奇妙な像を出入り口の地面に置くと、薄明かりが灯った。


「これは、ダンジョン内に安全地帯を形成するための道具だ。出入り口に置いて稼働させれば、魔物たちが入り込むことはない。もっとも、絶対というわけではないがな」


 より高レベルのダンジョンになれば、この道具は通じ難くなる。課金アイテム「安心戦隊」を使えば問題ないが、使用回数制限があるため、できれば使いたくはなかった。


(まぁレベル600くらいまでは、彼女にセキュリティーを任せれば大丈夫なはずだ)


 腰に手を当てて胸を張る胸像を見て、トマスは首を傾げた。こんなアイテムは聞いたことが無いからだ。ダンジョンでキャンプを張る場合は、できるだけ目立たないようにし、交代で見張りをするのが普通である。だがヴァイスは何処に隠し持っていたのか、奇妙な石の薄板を取り出し、そこに鍋を置いた。


「お、おいおい。そんなの何処に持っていたんだよ?」


「秘密だ。まぁ手品の類だと思っておいてくれ。さて、鍋の用意をしてある。お前たちも食べろ」


「アンタ、本当に何者だ? こんなキャンプ、聞いたことねぇぞ?」


 普段は硬いパンと木の実、干し肉程度を腹に詰め、浅い眠りを繰り返すのがダンジョンのキャンプである。だが男は温かい食べ物、取り分ける器、さらには酒まで用意していた。どうやら空間から勝手に出現するようである。手品としか思えなかったが、仲間の一人が首を傾げながら呟いた。


「異空間収納…… たしかそんなスキルがあるって伝説を聞いたことがあったな」


 冒険者たちには、幾つかの伝説が伝わっている。国一つを消滅させる極大呪文、幾ら切りつけてもかすり傷すら付けられないという攻撃無効、そして異空間に無限にモノを収納でき、熱いスープも冷めること無くいつでも取り出せるという異空間収納…こうした伝説は、「あったら良いな」という冒険者の願望が生み出したものと考えられていた。だが目の前の男を見ていると、その伝説は本当なのではないかと思えてきた。

 エール麦酒を飲み、肉が入った熱いスープを飲み、焼きたてのようなパンを食べ、夜明けの団の一行はダンジョン内ということを忘れて寛いでしまった。それぞれが床に横たわり、一眠りする。ヴァイスは甲冑装備を解除したかったが、さすがにそこまで見せるわけにはいかない。仕方なく同じように、床に横たわった。


(まぁ、コレも慣れか。枕ぐらいなら出しても良いかな?)


 低反発枕に頭を載せると、すぐに眠気が襲ってきた。





 香ばしい香りで、トマスは目を覚ました。他の仲間たちも起きている。目の前には信じられない光景があった。鍋を温める機能を持つ黒い石版を四つ置き、それぞれに鍋を置いて料理をしている。平鍋には燻製肉の薄切りを三枚焼き、そこに卵を二つ割り落とした。もう一つの平鍋では、厚めに切られた白パンが焼かれている。トマト、玉葱、芹那などを入れた野菜スープの鍋が湯気を昇らせ、ケトルで湯を沸かし、茶を入れていた。


「……おい、ここは迷宮(ダンジョン)だよな? なんだこれ? なんで迷宮攻略中に料理が始まってるんだ?」


「おはよう。お前たちの分もあるぞ。皿に置いていくから、順番に食べてくれ」


「いやいや、俺のツッコミを軽く流すな! 迷宮内で料理って、なに考えてんだ?」


「なにを言う。肉体を動かし、疲労しやすいダンジョンだからこそ、しっかりとした食事が必要だろう?ダンジョン内でのキャンプが危険視されるのは、安全地帯が形成できないからだ。魔物が侵入できない安全地帯さえ確保すれば、料理をしても問題ない」


「いや、色々とツッコミたいところが満載なんだが?」


「いいから食え。この程度で驚いていたら、俺に付いてくるのは難しいぞ?」


 五名で食事をしていると、思わずDODを思い出す。PK者たちとの闘争は、こうしたダンジョン内でも多かった。まちまちのレベルの中で、それぞれが役割を分担しながら戦ったものだ。顔も名前も知らないゲーム内で知り合っただけの仲間だったが、それでも実世界(リアル)での孤独な食事よりも美味いと感じた。あの時と同じ味に、目頭が少しだけ熱かった。食べ終わった皿や使用した鍋は、そのまま異空間に収納する。洗うのは後だ。トマスたちにはどうやらコンソールが見えないようで、鍋がいきなり消える様子に、唖然としてた。


「ヴァイスのそれ、凄え便利だな。俺もそれ欲しいな。やり方、教えてくれないか?」


「すまない。これは俺の生まれながらのスキルで、教えられるものじゃないんだ」


「そうか。まぁいいさ。いずれ、収納力が大きい『魔法の革袋』を買うつもりだからな」


 魔法の革袋は、DODでは無課金者向けに用意されていた素材収集専用の袋だ。重課金者であったヴァイスはアイテムボックスの収容力を限界まで広げていたが、無課金者ではアイテムボックスに限りがある。素材集め専用の袋として売られていたが、課金者でも使う者がいた。パーティーでダンジョンに潜れば、素材配分で揉める場合があり、一つの袋に一括して入れておけば後々でトラブルになり難いからだ。


「では進むぞ。できれば今日中に攻略したい」


 夜明けの団のメンバーたちの一様な苦笑いを無視して、ヴァイスはダンジョンに躍り出た。


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