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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第005話:ステータス確認

【小解説】VRの功罪


 完全なヴァーチャル・リアリティ(VR)を実現させたアヴァロン・システムの普及は、それまでのゲームを一変させた。従来は、視覚と聴覚のみを刺激していたゲームが、VRゲームでは五感全てが刺激される。肉を食べていないのに肉の味が口に広がり、触れてもいないのに女性の柔肌を感じることができるのである。アヴァロン・システムによるVRの確立は、サービス産業そのものを大きく変えるものであり、社会的混乱が予想された。そのため厳しい規制が課せられ、VRゲームでも極端な性的行為などは法によって禁じられたのである。だが現実社会では叶わないことがVRによって実現し、現実のように感じられるということは大変な魅力であった。例えば「幼児愛好」などは現実社会では違法であり厳しく罰せられるが、VRであれば実際の被害者は出ないのである。AI技術の進歩に伴い、人間の音声や感情表現なども現実と変わらないほどになっていたため、VRによる性的サービスの展開は一瞬で広まった。


 西暦2055年頃には、VR端末をクラックするクラックツールが蔓延し、各国は取り締まりを諦めざるを得なかった。「個人の自己責任」の範囲で、そうしたクラックツールの使用が黙認されたのである。それから十年で、VRは社会に欠かすことのできないものになった。実世界では見向きもされないような五十代の主婦が、VR世界では二十歳の若い女性となり、奔放な性行為で欲求を満たす。十歳前後の可愛らしい女の子を侍らせ、欲望の赴くままに幼児愛好の劣情を叩きつける。AI技術を使い、昔のAV(アダルトビデオ)動画データから擬似的な「本人」を生み出し、若かりし頃の夢を叶える、などの使い方が蔓延し、それに伴い急速に実社会での「人との出会い」は減少した。


 「VRは人々を幸福にした。だが同時に、どうしようもなく堕落させた」と語る哲学者もいる。その言葉の是非はともかく、VRの登場は数億人の「引き篭もり」を生み出したのは事実である。





 リューンベルクでも上等な宿の個室で、ヴァイスは目を覚ました。冒険者ギルドを出た後は、街を見て回ったりした。この宿に決めたのは外見が良かったことと個室が空いていたためだ。後で知ったが、一定以上の冒険者は宿ではなく部屋を借りるようである。だがこの世界に来たばかりのヴァイスが知るはずもなく、一泊銀貨三枚という高い宿賃を支払うことになった。金貨三枚を先に渡しているので、十泊はできる。その間に街の様子を知り、物価相場を把握し、せめて数字だけでも読めるようになっておきたかった。だが部屋を出て一階のロビーに降りると、カウンターの女将から声を掛けられた。ギルドからの呼び出しである。受付に行くと、ミリアが仕事の詳細を説明してくれた。


「山賊討伐?」


「そうです。最近、公国の北にある山に山賊が住み着いているのです。北から小麦や毛皮などを運ぶ行商隊が幾つか襲われ、近隣の村々にも被害が出ているため、公国から早急に討伐するよう指示がありました」


「そうした討伐は、通常は国自体が動くのではありませんか?」


「確かに仰る通りなのですが、公国の軍は警備隊という色合いが強く、街中での喧嘩や窃盗などを捕まえるのが主な仕事なのです。こうした討伐は冒険者ギルドに依頼が来るのです」


「なるほど、理解しました。では地図をいただけますか? 早速、討伐してきましょう。ですがどうやって、討伐完了の確認をするのです?」


「手配書が回っています。山賊の頭領は、北では名が知れていたそうです。六色聖剣が討伐するという噂を聞いて、拠点を変えたみたいですね。頭領の首を持ってきて頂ければ、確認ができます。報酬は金貨十五枚、あと頭領には金貨二十枚の懸賞金が出ています」


「合計で金貨三十五枚ですね。解りました。引き受けしましょう」


 手配書と地図を受け取り、ヴァイスは討伐へと向かった。






「で、アウグストの旦那。俺たちはソイツの後をつけて、その仕事っぷりを確認すれば良いんだな?」


 冒険者ギルドの三階にあるギルドマスターの部屋では、ミスリル級冒険者パーティー「夜明けの団」のリーダー、トマス・オールディンが足を組んで座り、ギルドマスターと話をしていた。


「そうだ。奴が死んだのならそれで良し。命からがら逃げてくるようであれば、お前たちで奴を取り押さえろ」


「成功しちまったらどうする?」


「相手は少なく見積もっても五十人以上の山賊だぞ? 単独で行って成功すると思うか?」


 トマスは肩を竦めて笑った。


「もし成功したら、ソイツは化け物だ。アダマンタイン級と言われても信用するね」


 トマスの冗談に、アウグストは苦笑いしかできなかった。




 ヴァイスは徒歩でリューンベルクの街を出た。昨夜のうちに、宿の部屋である程度の法則は確認していた。まず魔法は普通に発動した。移動魔法の一つである「飛翔(フライ)」を部屋で試したが、発動条件はDODと同じであった。つまり「頭で考えるだけで発動する」である。だがステータス・ウィンドウはやはり出なかった。魔法「鑑定(アプレイザル)」ではウィンドウが出現するが、コンソールを利用したステータス表示は無いようである。悩んだ挙句に思い出したのが「魔眼(イビル・アイ)」というアイテムであった。これは掛けただけで相手のステータスを視ることができるというものである。だが自分で自分を視ることは出来ない。そこで鏡を使って見たところ、思いもかけず成功したのである。


========================

Name:ヴァイスハイト・シュヴァイツァー

Level:999

Job:Grand Brave

最大HP:85177

最大MP:54093

状態異常:無

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 DODでは対人戦を盛り上げるため、他者のステータスを簡単に知ることはできないようになっている。そのためこうしたアイテムが用いられていた。もっとも、それでも知ることができるのは相手のレベルと最低限度の情報だけである。相手がどのような魔法、スキルを有しているか、攻撃力や魔法防御力はどの程度かなどは表示されない。これは対人戦にスリルとリアリティを持たせるための配慮だ。実世界においては、そもそもステータス数値など無いのである。

 DODの対人戦では、いちいち魔法やスキルを選択している時間などない。プレイヤーは自分のステータスやスキル、魔法をすべて覚えばければならない。覚えていければ対人戦では一方的に負けて終わりである。当然ながらヴァイスも、自分の持つ117種の魔法、84種のアクティブスキル、29種のパッシブスキルを全て覚えている。

 自分のレベルに安堵したヴァイスは、他者に魔眼を使うことで相対的な強さを測ろうと考えていた。だが魔眼はアイテムであるため、使用すれば相手にも見えてしまう。ギルドなどでは使えないと考え、街から出て通りすがりの人間を視ようと思っていた。


 歩いていると、前方から農夫らしき若い男が牛に荷車を牽かせていた。ヴァイスは早速、魔眼を装着した。


(正直、格好悪いんだよなぁコレ…… どれどれ)


========================

Name:ハリス・ボッシュ

Level:37

Job:Farmer(農夫)

最大HP:1025

最大MP:55

状態異常:無

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(ほう。見たところ二十歳くらいだが、レベル37で最大HPが1025ねぇ。DODに農夫という職はあったかな?まぁザコだな。緑プラテットを倒せるかどうか、といったところか)


 ブツブツと呟き、一人頷く顔に奇妙な装備をつけた鎧姿の男に、ハリスは身震いをした。目を合わせないように顔を伏せ、急ぐように横を通り過ぎた。その後もヴァイスは何度か魔眼をつけては過ぎゆく人を確認した。夕暮れ時にはヴァイスは大体のレベル観を把握した。つまりこの世界は「ザコばかり」ということである。


「まぁ冒険者を見ていないから暫定的な結論だが、恐らく俺は世界最強だろう。同じプレイヤーが出ない限りはな。宿に設置したリブート人形が無駄になってしまったな。まぁいいか」


 DODでは、死亡した場合にプレイヤーの累積経験値が一割下がる。それを防ぐための課金アイテムがリブート人形だ。使い捨てで一箇所にしか設置できないが、たとえ死んでもペナルティ無く設置場所から復活することができる。PvPに明け暮れるプレイヤーとして、必須のアイテムであった。


「山賊か…… DODにも似たような奴らがいたな。久々に「Grand Brave」の力を見せてやる。俺は…P(Player)K(Killing)は許さない」


 日が沈み、あたりが闇に包まれた後、ヴァイスは飛翔(フライ)を使った。





「いやぁぁぁぁっ!」


 女性の泣き叫ぶ声が洞窟内に響く、男たちの卑下た嗤い声が続いた。先日襲った行商隊にいた娘を山賊全員で姦しているのである。女はグシャグシャな顔をして叫ぶが、もう声も枯れていた。


「一通り全員で回したら二回戦行くぞ? 飽きたら殺すからな。せいぜい死なないように愉しませろや!」


 女の髪を掴んで男が嗤う。顔を背けたくなるような悲劇は夜遅くまで続いた。遠くからの悲鳴を聞きながら、洞窟の周囲を見回っている二人組の男が舌打ちした。


「全く。俺達の番まで回ってくる前に、壊れちまうんじゃねぇか? たまには最初の一発目を頂きたいぜぇ。お前ぇも、そう思うだろ?」


「い、いやその僕は……」


 まだ若い男が首を振った。もう一人が舌打ちをして、その背中を蹴った。


「一発ヤッちまえば、肚も据わるんだよっ! お前ぇいつまで山賊ゴッコの気分でいるんだ? そんなんだから、カシラもお前のこと信じねぇんだよ!」


 若い男はレオン・サムディズという名であった。農家の三男坊の生まれで、いずれは家を継いだ長男にこき使われながら、一生農夫で過ごすことが見えていた。それが嫌で家を出たが、運悪く山賊に捕まり、生きるためにその仲間となったのである。レオンは苦しんでいた。本当なら山賊などしたくない。だが抜けようとしたら殺されるに決まっていた。逃げ出そうとしても、四六時中誰かが一緒である。この場で逃げようとしても、背中から斬られて死ぬだけだろう。自分は剣すら与えられていないのだ。


パキッ


 木枝が折れる音がして、二人は静かになった。やがて草むらから鎧を身に着けた男が出てきた。背丈は180センチ以上で茶色の髪と鳶色の瞳をしている。そして腰には立派な剣を刺していた。月明かりに照らされた男の姿は、冒険者というよりはどこかの騎士の様に見えた。男は奇妙な装備を顔につけると、二人を見た。


「な、なんだテメェはっ!」


「フム…… 片方は盗賊だな。もう片方は……農夫だと? まだ盗賊になっていないというわけか」


 男が大声で何かを叫んだ。だが次の瞬間には頭が完全に潰れていた。茶髪の男が手にしていた太い木の棒には、血糊と頭皮がこびりついていた。レオンは腰を抜かし、その場で尻餅をついた。


「お前、盗賊をやりたいのか? 他人から盗み、婦女を犯し、殺したいのか?」


 男が何を言っているのか、理解できなかった。レオンはただ泣きながら首を振り、許しを乞うように地ベダに伏した。


「お前はまだ、堕ちてはいない。山賊などやめて、真っ当に生きろ」


 目をつぶって地面に伏すレオンには、男の声しか聞こえていない。やがて、男が歩いて行く足音が聞こえた。レオンはホッとし、そして急いでその場から逃げ出した。


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