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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第002話:キャラクター名設定

【小解説】MMO-RPG


MMO-RPGとは「Massively Multiplayer Online Role-Playing Game」の略称であり、日本語では「大規模多人数同時参画型オンラインRPG」と表記される。その名の通り、ネットワーク回線によって複数のプレイヤーが一つの世界に参画するゲームである。こうした「N人参画型通信ゲーム」は、一九七〇年代には既に存在し、MUD(Multi User Dungeon)と呼ばれていた。


九〇年代半ば、パーソナルコンピュータが世界中に普及するにつれ、オンラインゲームも進化する。テキストベースのゲームであったMUDではなく、グラフィックベースのゲームがネットワーク上で遊べるようになった。九〇年代後半には、MMO-RPGの始祖と呼ばれるようなタイトルが複数、発表されている。


 その後、処理速度やネットワーク回線の高速化により、MMO-RPGはより鮮明なグラフィックと壮大な世界観となっていった。だがゲームの進化に比して、その収益構造(ビジネスモデル)は黎明期からほとんど変わっていなかった。


「人件費の安い国でプロトタイプが作られ、最低限のデバッグ(バグのチェック)が行われた後に、基本無料としてリリースされ、運営と呼ばれるゲーム管理者がバグの報告などを受けて、メンテナンスを行い、プレイヤーの中でもごく一部の課金者によって収益を得る」


という収益構造である。そのため一定期間内に期待水準まで課金者が増えなければ、サービスを停止してしまうというタイトルが後を立たず、またゲーム同士の差別化も難しくなった。似たような世界観、似たようなシステムのゲームが増え、MMO-RPGそのものから離れてしまうというケースも散見される。

こうした「Pay to Win(勝つために支払う)」という特徴は、特に日本でリリースされたMMO-RPGに多い。そもそも開発国は人件費が安く、例えばアバターなどは着せ替えツールでしか無い。アバターに課金してステータスを強化するというシステムは、課金を促すために存在すると言っても過言ではない。


 スマートフォンの登場以降、特に日本国内においてはMMO-RPGは衰退の一途を辿った。ブランド力のあるタイトルは生き残っていたが、オリジナルの劣化版に過ぎない「東亜諸国産」は衰退し、二〇一〇年代後半では多くのオンラインゲーム会社が、前年比マイナスの売上となっていた。


 このMMO-RPGの衰退に歯止めが掛かるまでに、さらに三〇年の時間を要した。ビジネスモデルそのものが根本的に異なる「VRMMO-RPG」が登場した時には、かつてのオンラインゲーム会社の殆どが消滅していたのである。





「……え?」


 爽快ウォッカは思わず周囲を見渡した。そこは一面の草原であった。遠くに丘が連なり、森なども見える。自分は確かに出口から出たはずである。本来なら街に戻っているはずだった。そもそもDODは「Dungeon」と付いている通り、地下迷宮や天空島、巨神塔などの探索がメインである。こうした草原フィールドはギルドクエストなどで出るが、大抵は川辺でバーベキューをしたり釣りをしたり、つまりは

「遊び場」であった。


「どうなってるんだ? ここは……」


 爽快ウォッカはここで異変に気づいた。普通であればあるはずの左上のウィンドウが、出ていないのである。慌ててコンソール(制御卓)を呼び出そうとすると、縦に細長いウィンドウが出現した。だがそこには、異様な表記がされていた。コンソールの最上部に、ただ一行だけが表記されている。


「%$#”’()&%$’()」


「……バグか?いや、その前にログアウトボタンが無い! チャットも、メールも無くなってる! え、え、えぇぇっ!」


 爽快ウォッカは頭が混乱した。慌てて迷宮に戻ろうと振り返ると、そこは三メートル程進んだところで行き止まりの洞穴であった。深呼吸をしてもう一度、コンソールを呼び出す。


「%$#”’()&%$’()」


 同じ表記であった。恐る恐るそこを押そうとするが、その手前で止まった。これがバグであるなら余計なことはしないほうが良い。


「そうだ! アイテムボックスッ!」


 DODではコンソールやアイテムを保管するアイテムボックスなどは、プレイヤーが考えるだけで呼び出すことができる。これはプレイヤーの思考が電気信号となって読み取られるからだ。爽快ウォッカの呼び出しによって、アイテムボックスが浮かび上がる。上部には武器、防具、アクセサリー、戦闘補助、素材、冒険用品といったタグが並ぶ。一つのタグの中には、横に10列、縦に250行、計2500個の枠が並び、一枠に一種類のアイテムを9999個まで入れられる。普段はあまり開くことがない。戦闘中にいちいち選んではいられないからだ。例えば回復用の薬である「ポーション」と考えれば、それが手元に出現する仕組みとなっている。アイテムボックスを開くのは、店で買物をしたときくらいである。


「あれ? ここは文字化けしてないぞ?」


 上部のタグにはしっかりと日本語で「武器」「防具」と書かれている。試しに「戦闘補助」から「ポーション低」を選択すると、目の前に赤い液体が入った小さな瓶が出現した。10秒以内に取らないと元に戻ってしまうため、手を伸ばして掴む。念のため、頭で考えてみる。すると同じように、ポーションが手元に出現した。


「アイテムボックスは機能しているのか。ではGoldやLoonは?」


 アイテムボックス下部には金貨と紙幣のボタンがあり、必要な額を考えるだけでそれが出現する。金貨ならGold、紙幣ならLoonが出現する。Goldを押して一枚と考えると、金貨一枚が出現した。DODの金貨である。Loonを押そうとしたら手が止まった。Loonボタンが消滅しているからである。呆然としたあと、怒りで理性が吹き飛んだ。


「ふざけんなっ! 今日課金したばかりだぞっ!」


 DODの運営をひとしきり罵倒すると、思わず座り込んだ。このバグが自分だけに出現しているのか、それともプレイヤー全体なのかを検証する必要がある。いずれにしても誰かとコンタクトを取りたかった。このままではログアウトも出来ない。


「街に戻れば誰かいるだろう。どっちに行けばいいのかな。あの丘に登れば見えるかも……」


 爽快ウォッカは祈るような想いで、丘を目指した。小高い丘を登る間に、微妙な疲労感を覚える。本来、DODは精神的な疲労はあっても肉体的な疲労は無い。クラックツールを使えば痛みや疲労をリアルに感じることもできるが、カネを掛けてまでそうした負の感覚をリアルにする必要は無い。一部の「特別な趣味者(マゾヒスト)」ぐらいである。だが、本来感じないはずの感覚があるのだ。爽快ウォッカは嫌な予感しかしなかった。


「まさか、ゲームが現実になった? いやいや、有り得ないだろう。有り得ない。何かのトラブルだ」


 そう言い聞かせて丘を登りきった時、眼の前の光景に愕然とした。ゲーム内では見たこともない山々の麓に、大きな街が見えた。その周りは畑が広がっているようである。収穫時期なのか金色に波打っていた。


「なん……だと?」


 爽快ウォッカは呆然とした。10年間プレイしているが、こうした光景は見たことがない。アイテムボックスから「遠観の眼鏡」を取り出す。要するに双眼鏡だ。麦畑と思われる場所では、農夫のような男たちが刈り取り作業をしていた。街を見ると、かなりの人々が行き来している。DODではリアリティーを出すためにNPCにも表情を持たせているが、あれほどの人数をランダムに動かし、それぞれに表情を持たせるのは難しいはずである。爽快ウォッカは双眼鏡を仕舞うと、その場に座り込んだ。あまりの出来事に、何も考えることができなかった。ただ呆然と目の前の光景を眺める。


「………」


 何となしに、コンソールを呼び出す。相変わらず細長い黒一色のウィンドウである。その最上部には文字化けしたバグが……


「キャラクター名を設定してください」


 そこには確かに、日本語でそう書かれていた。





 瞬きをしてそれを見つめる。一旦、ウィンドウを閉じて再びコンソールを呼び出す。同じ言葉が表示されていた。


「キャラクター名を設定してください」


 爽快ウォッカは恐る恐る、その表示を押した。すぐに次のウィンドウが表示される。「名」「姓」と小さな二つのウィンドウが出る。爽快ウォッカはホッとした。こうした表示が出る以上、これはゲームの世界である。つまり運営者がいて監視している。幸いなことに、これから三連休である、バグは気に入らないが、いずれプレイヤーにも出会えるだろうしログアウトもできるだろう。


「面白い。転生モノの新しいサービスかな? 遊んでやるか!」


 キャラクター名を考える。姓と名がある以上、これまでの「爽快ウォッカ」は使えない。


「やっぱり、格好いい名前がイイよなぁ~ とするとドイツ人っぽい名前かな。ラインハルトとか……いやベタ過ぎるな。濁点がつくのが格好いいんだよなぁ。ヴァ…ヴァ…ヴァイスハイトとか?」


 名前の欄に「ヴァイスハイト」と記入される。頷き、姓を考える。


「ドイツ人の姓…やっぱりバイクとかベルクとかバッハとかが付くやつかな?シュタインベルク…いや、語尾が伸びるのもあったっけ。シュナイダーとか。うーん…… シュヴァイツァー?」


 姓の欄に「シュヴァイツァー」と入る。


「ヴァイスハイト・シュヴァイツァーか。なんか勇者っぽいかな? 悪くないけど長いか? うん、ヴァイスと呼ばせよう!」


 名前を確定させるとコンソールが消えた。普通であれば種族や職を選び、チュートリアルなどが始まるはずである。首を傾げてもう一度呼び出そうとする。だがコンソールが浮かばない。


「あれ? あれれ? これもバグ? ダメだこのゲーム。ログアウトしたら二度とやらねー まぁ取り敢えず、PvP装備に変更するか。装備改変は機能するのかな?」


 コンソールが出ないため確認できないが、DODは装備固定という機能がある。プレイヤー同士の戦いのための装備一式や週一度のボス戦での装備など、いちいちアイテムボックスから取り出して組み合わせていたら面倒なので、予め設定しておくことで考えるだけで変更できる。


「うん、これも生きてるな。アイテムボックスが機能しているから大丈夫だと思ったよ」


 様々な姿に変化していく。その中から、総合戦闘力を最大化する「対人戦闘装備」を選ぶ。剣、鎧、指輪など装備すべてが「(レッド)ランク:Lv999」という最上位装備だ。特に、剣と鎧に至ってはDOD全プレイヤーの中で自分しか持っていない。


「出来ればスキルも試しておきたいんだがな。もしLv999に囲まれたら、身体強化(ブースト)補正(セミオート)が無いとキツイぞ……」


 爽快ウォッカから改め、ヴァイスハイト・シュヴァイツァー(通称、ヴァイス)は装備を改めると、遠くに見える街を目指して歩き始めた。




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