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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
19/28

第019話:Unknown

 DOD内の森林フィールドにおいて……


「ハァァァッ!」


 黒髪の男が戦っている。久々に出現したPK者三人を倒し、白銀に輝く剣を一振りして鞘に納める。赤茶髪の男が苦笑しながら歩み出てきた。


「どうやら、手を貸すまでもなかったな。お前が無課金者(非VIP)だから勝てると思ったんだろ」


「一応、これでも上位三〇名(サーティーズ)なんですけどね」


「その剣の使い心地はどうだ?」


「最高ですよ! 赤ランクの剣なんて、無課金者ではまず手に入りませんからね。ただ……」


「ん?」


「その…… 剣の名前が…… どう考えても厨二病ですよ。『●●●の聖剣』って……」


「何を言う。格好良いじゃないか。Braveじゃないお前に相応しい名前は何か、悩んだんだぞ? 他にも候補としては『ペンドラゴンの聖剣』とか『超絶正義の剣』とか『無双神剣 俺tueee!』とか考えたんだが……」


「……今のままでいいッスよ」


 この二年間、VR内での遊び方、戦い方を教えてくれた師匠は、キャラクター戦闘力だけでなく、信念を貫く在り様まで尊敬できる人物であった。ただ、十代中頃の青少年が罹患する病を未だに患っていることだけが、唯一の欠点であった。黒髪の男は溜め息を吐いた。





 ゴールドシュタイン帝国領ウィンターデンは、アガスティア山脈西端に程近い場所にある。アガスティア山脈は帝国北方から東方まで、弧を描くようにそびえる大山脈であり、山脈東端はリューンベルクに近い。山脈には無数の迷宮が存在していると考えられているが、危険な魔物が数多く出現することから、討伐はおろか山脈踏破でさえ成し遂げられていない。遥か八〇〇年前、国祖ルドルフが山脈の完全制覇目前まで迫ったが、次々と出現する迷宮に手を焼き、やむなく撤退したと言われている。


「なるほどな。八〇〇年にわたり放置されてきたため、ウィンターデンからアガスティア山脈までは魔物が溢れている。それを討伐するために、腕に自信のある冒険者たちが集まってくる。その結果、様々な素材がギルドに持ち込まれ、ギルドも潤うというわけか」


「そういうわけです。真純銀(ミスリル)級に昇格されたばかりとはいえ、ヴァイスさんは六色聖剣お墨付きの冒険者。ここはぜひ、アガスティア山脈の迷宮討伐を……」


「だが断る」


「何でですかっ!」


 ギルドの名物受付嬢レベッカは、キャンキャンと喚きながら机を叩いた。アガスティア山脈に近いウィンターデンは、月単位で新しい迷宮が誕生している。六色聖剣全員を相手にして楽勝できるヴァイスに、討伐を期待するのは当然のことであった。だがヴァイスは、この世界の迷宮(ダンジョン)に興味を無くしつつあった。


(ゾディアックといった未知の魔物には興味があるが、たかが三〇層程度の低レベルダンジョンなんか、どーでも良いわ。ルドルフとかいう「プレイヤー(推定)」も、数が多すぎて諦めたってのが本音だろ? Lv999ダンジョン(スリーナイン)とは言わないが、せめて八〇層以上あるダンジョンを用意してくれ)


 山賊や、ダンジョン外の魔物など、非冒険者に被害が出かねない場合は積極的に討伐(PKK)を引き受ける。だが迷宮(ダンジョン)自体は放っておいても問題ない。何もしなければ魔物が溢れ出てくるそうだが、それはそれで他の冒険者にとっても稼ぎ時だろう。自分が出しゃばる必要はない。


「正直言って、迷宮討伐に興味がない。伸びしろのある冒険者たちが集まってクランを結成し、時間を掛けて攻略すれば良いだろ。レイナたちも徐々に強くなってきているしな」


「ですが、ヴァイスさんなら今すぐにでも可能なのでは?」


「言っておくが、俺が討伐した場合、素材は全部諦めてもらうぞ? 俺は回収が苦手だ。全部棄てることになる」


 それが決め手だった。レベッカは溜息をついて、それ以上の説得を諦めた。





 ゾディアックがいた「ウィンターデン南東の迷宮」を討伐する日程が固まった。僅か十日間だが、六色聖剣全員のレベルが上がっている。これなら前回よりも楽に進めるはずだ。だがこの数日間のレベ上げで、ヴァイスの中に疑問も生じていた。DODとは違い、JOB選択の明確な基準が無いのである。またレベル向上の速度も疑問だった。DODでは、一日八時間として十日間も掛ければ、レベルは百近く上がる。だがレイナたちはせいぜい二〇程度しか上がっていない。あまりにも遅いのだ。


「レベル上昇の仕組みが違うのか? そもそも、ここが現実世界だと仮定すると、レベルと強さの因果関係が違うはずだ。ゲームではレベルが上がれば強くなるが、現実では強くなった結果(・・)がレベル値に反映されていると考えるべきか」


 VRMMOが登場する以前は、経験値稼ぎなどの地味な作業をプログラムに任せる「BOTTER」と呼ばれるチートツールユーザーが存在したが、VRの登場以降はほとんど姿を消した。その理由は、自分で操作しなければプレイヤースキルが身につかず「レベル999の素人」になってしまうからだ。剣術(フェンシング)格闘技(マーシャルアーツ)などの、現実世界の「戦闘技術」を身に着けなければ、VRでも真の強者にはなれない。爽快ウォッカがゲーム内最強位に君臨し続けられたのは、プレイヤースキルによるところが大きかった。


「まぁ少しずつレベルも上がっているし、いずれLv999に達するだろ。ダンジョンでは六色聖剣を前に出して、俺はサポート役に徹するか」


 独り言を呟きながら、ギルド裏手の訓練場へと向かった。





 リューンベルク(ヴァイス)&ウィンターデン(六色聖剣)合同討伐隊が迷宮を降りる。前回は五階層までしか降りられなかったレイナたちだが、謎の魔獣「ゾディアック」の姿は既に消えていた。慎重に降りてきた一行も、六階層を超えたあたりでようやく安心したようだ。黒髪のルナ=エクレアと青髪のミレーユ・カッフェンが周囲を確認する。


「ヴァイスさんの言っていた通り、どうやらゾディアックは姿を消しているようです。魔素の活動が落ち着き、以前ほどに魔物も活性化していません」


「精霊たちも落ち着いてる。これなら私たちでも行けそう」


「そう。ならペースを上げましょう。一気に迷宮を討伐してしまうわよ!」


 レイナたちが活気づいた。ヴァイスは腕を組んだまま頷いた。今回の討伐では、ヴァイスは余程のことがない限り、手を出さないつもりであった。レイナたちは個別のPvPでレベルが上がっている。その効果の検証も兼ねているためだ。一層あたり一時間弱という(普通の冒険者にとっては)ハイペースで攻略を進めていく。第八層でキャンプを張り、数時間の休憩後に再び動き始める。第十一層でレッサーデーモンが出現したが、グラディスが一刀両断した。自分の剣を見て呆れた表情を浮かべる。


「驚いた。これまではレッサーデーモンはそれなりに手強かったんだが、アッサリと勝ってしまったぞ」


「この一月で、全員が飛躍的に強くなっている。レッサーデーモン程度なら余裕だろう」


 ヴァイスの言葉に、レイナたちも頷いた。力、速度、体力、魔力の全てが一ヶ月前とは比較にならない。


「でも、そんな私達が束になって掛かっても、ヴァイスにはかすり傷一つも付けられないのよねぇ。自信を持ってよいのかしら。なんだか複雑……」


 笑顔を浮かべながらもアリシアが軽く愚痴る。ヴァイスは迷宮攻略の殆どを六色聖剣に任せていた。ここまで自己防衛以外に剣を抜いていない。六色聖剣の戦いぶりを見ることで、今後の鍛え方を見極めようと考えたからだ。六色聖剣はバランスの良いパーティーであった。連携がしっかり取れているため、より上位の魔物が出現しても十分に戦うことができるだろう。

 一方、現在潜っている迷宮について、ヴァイスは首を傾げた。DODとは規則性が異なるからだ。


(リューンベルクの迷宮では、レッサーデーモンは地下二十一階で出現した。だがここでは十一階か。これは、この迷宮だけなのか?)


 地下十二層に降りる。四つの光球が迷宮内を照らす。床には、ところどころに発光石があるため、真っ暗というわけではない。ミレーユが精霊を操り、この階の魔物を探査した。


「ん…… この階はレッドアースマンがいる。火系魔法は使わないで」


「大したことは無いわね。行きましょう」


 レイナが進もうとした時に、ヴァイスが手を挙げた。


「ちょっと待て…… レッドアースマン?なんだそれ?」


 DODでは日毎に新しい魔物が出現していた。そのため「|DOD百科事典《Encyclopedia of DOD》」のモンスター欄をコンプリートしたプレイヤーはいない。十年近くに渡って毎日DODにログインしていたヴァイスでさえ、コンプリートは出来なかった。自分に知らない魔物がいたとしても不思議ではない。

だがレイナたちの反応を見ると、それほど珍しい魔物でも無いようである。ヴァイスは首を傾げた。


「レッドアースマンとはどんな魔物だ?」


 六色聖剣全員が顔を見合わせた。エレオノーラ・セシルが少し笑顔を浮かべる。


「ヴァイスさんにも知らないことがあるんですね。レッドアースマンはそれほど珍しい魔物では無いのですが……」


「むしろ冒険者なら知ってて当然。ヴァイスは無知。字も読めないし」


「ミレーユ、それ(文盲)は関係ないわ。ヴァイスだって最近は少しは読めるようになってきてるのよ?」


 レイナが庇ってくれるが、ヴァイスは真剣な表情のままだった。その様子を見て、グラディスが少し驚いたようであった。


「本当に知らないようだな。その様子では『アースマン』も知らないのか? 暴走した土精霊が魔素を吸収して生まれる。泥上で、物理攻撃に高い耐性を持っている魔物だ」


「アースマン? ゴーレムのようなものか?」


「土系という意味では似ているが、外見と攻撃手段が違う。ゴーレムは硬化した肉体による破壊攻撃だが、アースマンは自分の体内に相手を取り込んで精気を吸収する攻撃をする。魔法による遠距離からの攻撃が効果的だ」


「……そうか。なら一度戦ってみるか」


 ヴァイスはこの階層ではじめて、六色聖剣の前に立った。暫く歩き続けると目の前に魔物が出現した。2メートル程の躯で、赤い泥上の液体が流動している。地面を這いながら進むようだ。ヴァイスは魔眼(イビルアイ)を取り出した。


===================

Name:レッドアースマン

Level:Unknown

種族:Unknown

最大HP:Unknown

最大MP:Unknown

状態異常:Unknown

===================


「……『Unknown』だと?」


「ヴァイスッ!」


 理解不能な現象に、ヴァイスは呆然としてしまった。その隙きにレッドアースマンが急速に接近し、ドロドロの腕を伸ばしてきたのだ。間一髪でレイナが雷系魔法を放ち、レッドアースマンを退けた。


「どうしたの? 魔物を前にボーッとするなんて、貴方らしくない!」


「……スマン。切り替える」


 怒りを含んだレイナの声に、ヴァイスは素直に謝罪した。それからヴァイスは魔眼を掛けたまま、出現するレッドアースマンを狩り続けた。物理攻撃、雷系攻撃、水系攻撃などを試す。まるで憑かれたように、レッドアースマンを探しては様々な攻撃を試した。さすがに見かねたのか、グラディスがヴァイスの肩を掴んだ。


「ヴァイス、もう良いだろう。下に行く階段は見つかったんだ。降りるぞ?」


「………」


 ヴァイスは少し沈思したが、頷いた。再び六色聖剣の後ろに下がる。歩きながらヴァイスは考えていた。


(一体、どういうことなんだ? この世界の魔物はDODの魔物では無いのか? 考えてみれば、ゾディアックのステータスがUnknownだったのも可怪しい。オリジナルキャラに反応しないというのなら、レイナたちだってオリジナルキャラだ。ましてレッドアースマンは他の魔物と同様、迷宮に出現するNPCだ。グレーターデーモンや他の魔物のステータスは見れるのに、何故、レッドアースマンは見ることが出来ない? 一体、何が違うんだ?)


 第十三階層にはリザードマンが出現した。DODでも馴染みの魔物である。ヴァイスは魔眼を掛けた。ステータスは普通に、見ることが出来た。


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