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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第016話:大勇者の美学

【小解説】VRMMOの収益構造


VR技術の登場は企業の経営活動、その中でも特に「広告宣伝活動」を一変させた。それまでは、テレビやラジオ、雑誌などのメディア、街頭や電車内の中吊り、インターネットのホームページ、人気ブロガーや動画サイトなど「人が多く集まる」「人目につく」場所や空間で、視覚的聴覚的に訴えるのが広告宣伝であった。


だがVR技術により視覚や聴覚以外に、味覚、嗅覚、触覚を加えた五感全てに訴えることが可能となった。つまり「認知型広告」から「体験型広告」へと変わったのである。新商品を実際に着てもらう、使ってもらう、味わってもらうという広告活動はそれまでにもあったが、VR技術によりより多数の顧客層に、大幅にコストダウンして体験してもらうことが可能となったのである。


 そこで企業が目をつけたのがVRMMO-RPGなどの体感型オンラインゲームでの広告活動である。VR技術で登場した幾つかのプラットフォームの中で、オンラインゲームは最も「生活感」が存在していた。ただ配るのではなく「買う」という行為を自然にさせることで、現実世界での購買にも繋がると考えたのである。


 そこで企業各社はゲーム運営会社と提携し、プレイヤーにゲーム内で体験してもらおうと、広告宣伝料と共に自社が保有するデータを提供した。家電、衣類、食品など様々な消費財がVRMMOに登場した。無論、ゲーム内の世界観を壊す可能性もあるので、特に衣類に至ってはゲームを選ばざるを得なかったが、プレイヤーの課金以外にも収益が得られるため、ゲーム会社は諸手を挙げて歓迎したのである。


 DODにおいても各都市に企業が店を構えていた。本来であれば規制されている十八禁行為もDODでは可能であるため、一般的な消費財の他に避妊具や怪しげなローションなども売られており、密かな人気があったのである。





 DODのアイテム「加熱式石板(ハロゲンプレート)」を並べ、平鍋を置く。木のまな板には熟成させた黒毛和牛肉の塊が置かれている。肉を一センチ程に切って塩とスパイスを振り、牛脂を馴染ませた鍋で焼く。深鍋には鶏ガラスープの素、トマト、玉ねぎ、セロリ、そら豆、舞茸を入れ胡椒で味を整えたスープを用意した。通常のキャンプでは有り得ない光景に、六色聖剣の全員が絶句していた。


「一体なんなんだ? こんな光景は見たことが無いぞ? これがキャンプだというのか?」


「本で読んだことがある。伝説では、異空間収納は『時の流れを遮断する』と書かれていたわ。焼いたパンを収納して一年後に取り出しても、焼き立てのままだって…… まさかこの目で見れるなんて」


 グラディスは頭を抱え、アリシアは興味深そうに異空間から出し入れするヴァイスの様子を眺めていた。肉の焼かれる芳ばしい香りに、ミレーユは我慢できないようだった。


「じゅるり……」


「もう少し待て。ほら、皿持ってろ」


「良いの?私達も食べて」


「一人でこんな量を喰いきれるわけ無いだろ。俺の奢りだ。食わせてやる」


 DODの上位プレイヤーになれば、Goldは有り余ってしまう。Lv999(スリーナイン)ダンジョン以外は単体(ソロ)でも攻略できる爽快ウォッカともなれば、保有額は桁外れであった。そのため街の食材店(某大手チェーン)や魔道具店(某大手電気店)などで買いまくっていた。特に肉に関しては、牛、豚、鳥は無論、羊やイノシシ、熊などが「(トン)」単位でアイテムボックスに入っている。

 木の皿を渡されたミレーユが、肉の前で待っている。やがてヴァイスの手が差し出された。ミディアムレアに焼けたステーキをカットして皿に盛る。木の椀には野菜のスープを入れた。全員に行き渡る。だが誰も手を付けようとしない。信じられない光景に、どうしたら良いのか解らないのだ。ヴァイスは苦笑した。


「毒なんか入ってねぇよ。良いから食え! 闘いの後は腹が減るだろ?」


 ヴァイスはフォークを持ち、食べ始めた。


「私達もいただきましょう」


 レイナに促され、全員が食事を始める。ヴァイスは焼き立てのパンが入ったバスケットを取り出した。全員に回していく。角切りのチーズが入ったロールパンは、石窯から取り出したばかりのように熱く、千切ると湯気と共に小麦の香りが広がった。食事をしながら話をする約束だったが、あまりの美味さに六色聖剣全員が夢中で食べている。


「足りなければ遠慮なくお代わりして良いぞ。肉はまだ山ほどあるからな」


 DODでは「キャンプ」は人気があった。ダンジョン内で焚き火をし、串肉を焼いて食べるなど、現実世界では決して出来ないような「遊び」が無課金で出来るため、相当数のプレイヤーがこうした「キャンプ道具」「食材」をアイテムボックスに入れていた。追加でステーキを焼く。今度はステーキソースで味を付けた。結局、話が始まったのは食事を終え、茶を飲み始めてからであった。


「結論から言えば、(ゾディアック)は生きている」


 ヴァイスが語り始めた。





「魔神…… ゾディアック以外にも、そんな奴が出現したのね」


「アスモデウスの正体は不明だ。魔神のように見えたというだけだ」


 闘いの顛末を一通り説明し、暫くの沈黙の後にレイナが呟いた。だがグラディスは別のことが気になったようだ。鋭い目つきでヴァイスを睨む。


「一つ確認するが、先程の話によると、ヴァイスは魔法を使わずに闘い続けた。使った魔法は回復魔法だけ。相手(ゾディアック)はヴァイスが魔法を使えることに驚いていた…… ということだったな」


「まぁ、そうだな」


「なぜだ? なぜ最初から魔法を使わなかった。お前は逃げられたのではない。逃したんだ!その気になれば、ゾディアックを倒すことも出来たのに、本気を出さなかった! それでも冒険者か!」


「グッディ、それは言いすぎよ」


 レイナがたしなめる。だがヴァイスは否定すること無く頷いた。


「いや、グラディスの言うとおりだ。確かに、最初から魔法を使えば、もっと楽に戦えただろう。決定的な隙を生み出し、倒すことも出来ただろう。俺は本気を出さなかった。その結果、奴を逃がす結果となった」


「だから何故だ!」


 ヴァイスは少し黙った。実際、あの戦いでは常時発動スキルの「身体強化(ブースト)」や「補正(セミオート)」を使っていない。意図して使わなかったのだ。グラディス、そして全員に顔を向る。


「なぁ。お前らに確認するが、ゾディアックの目的は、お前たちを『殺すこと』だったのか?」


「なに?」


「俺にはそうは思えなかった。俺が現れた途端、ゾディアックはお前たちへの興味を失った。そればかりか、俺が戦いやすいようにお前たちが立ち去るのをわざわざ待っていた。アイツの目的は『全力を尽くして闘うこと』であって、相手を殺すことでは無い。相手が死んでしまうのは『闘いの結果』に過ぎない。あのゾディアックは、純粋な『戦闘狂(バトルジャンキー)』なのさ」


「それがどうした。そんなことは関係……」


「関係あるさ。お前、剣を持たない丸腰の相手に剣を向けるのか? 俺にも、善悪や羞恥の判断基準がある。もし相手が、理性を持たないただの魔獣、あるいは相手が婦女を暴行し殺害する山賊や、手段を問わず人を殺すことを目的とするような殺人鬼なら、俺は遠慮せずに剣や魔法を使う。だがゾディアックはそうした奴らとは違う。目の前に子供がいても、アイツは無視して通り過ぎるだろう。美しい女性がいたとしても、相手が弱ければ何もしないだろう。まして行商人を襲って金品を強奪するような真似はしないだろう。ゾディアックがお前達に闘いを仕掛けたのは、お前たちが強かったからだ。闘うに足る相手と見込まれたからだ。さて、グラディスに問う。ゾディアックは『悪』だろうか?」


「………」


 グラディスは沈黙せざるを得なかった。ヴァイスハイト・シュヴァイツァーという男の考え方がなんとなく理解できた。自分たちはパーティーである。仲間を護るための闘いならば、たとえ相手が何であろうと容赦はしない。だがヴァイスは単独(ソロ)である。彼はパーティーメンバーとしてではなく、一人の「戦士」としてゾディアックに向き合ったのだ。良し悪しではない。価値観の違いであった。レイナが心配そうに声を掛けてきた。


「グッディ?」


「……納得はしていない。納得していないが、理解はした。その上で言う。お前は、バカだ」


「自分でも理解してるよ。俺はバカだな」


 ヴァイスは自嘲するように嗤った。





 そこは、まるで皇帝の私室を思わせるような豪華な部屋であった。金髪の男が革張りの椅子に座り、背もたれに頭を載せて目を閉じている。そこに紫髪をした美女が入ってきた。アスモデウスであった。男の前に跪礼して報告する。


『主よ。アスモデウス、御前に参上致しました』


 男は眼を開けると、アスモデウスを見下ろした。


「ゾディアックは無事か? 手傷を負ったと聞いているが……」


「ハ…… 些か深手を負っておりましたので、治癒に集中させております」


「ゾディアックは歴戦の猛者だ。アレにそれ程の傷を与え得る人間が存在するとはな」


「強力な魔法も操れるようでした。かつての『我らが宿敵』を彷彿とさせる男でした。二人掛かりでも勝てたかどうか……」


「それ程か…… 解った。その者についてはいずれ手を打つとしよう。だが今は残りの二柱を探すことが優先だ」


「一柱については、既にメドは付いております。どうやらエルフ族の森の方にいるようで、近日中に吉報をお持ち出来るでしょう」


 男は頷いて手を振った。アスモデウスの姿が消える。男は再び、背もたれに頭を載せ、眼を閉じた。


「これは宿命か? やっと目覚めたと思ったら、また『プレイヤー』が出現するとはな」


 呟いて、小さく嗤った。


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