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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第014話:モンスター型プレイヤーとのPvP

「さらばだっ!」


 剣が動いた。二人は目を閉じた。だがその瞬間、何かが風のように横を駆け抜けた。大きな金属音が響き、目を開ける。赤茶髪の男が剣を振り、ゾディアックの剛剣を弾き返していた。


「ダラァァァッ!」


 駆け抜けてきた勢いのまま、一瞬でゾディアックとの距離を詰め、腹部を蹴り飛ばした。三メートルはあるかという巨体が床に水平に吹き飛ぶ。岩壁にぶち当たり、壁ごと崩れ落ちた。


「生きてるか?」


 男の言葉に安堵したのか、レイナもグラディスもその場で腰を抜かした。だが左右の逞しい腕が二人を抱えた。逞しい雄の薫りがした。


「どうやら無事のようだな。しっかりしろ。四人が上で待ってる」


 そう言われ、レイナもグラディスも忘我から意識が戻ってきた。その時、ガラガラと石が崩れ、ゾディアックが姿を見せた。まるで二足歩行の牛のような顔には、嬉しそうな笑みが浮かんでいる。


「強い。強いな。嬉しいぞ強者(ツワモノ)よっ! 汝の名を聞こう」


「俺の名はヴァイスハイト・シュヴァイツァー…… なんだお前? 初めて見るキャラだな。ダンジョンマスターか?」


「我が名はゾディアック。我の望みは血湧き肉躍る闘争の喜悦。強き戦士よ、刹那の悦びを分かち合おうぞ!」


 ゾディアックの肉体から闘気の嵐が昇る。抱えられた美女二人は再び、恐怖で身を固くした。だがヴァイスは平然としたまま二人を立たせると、懐から奇妙な眼鏡を取り出して顔に装着した。


===================

Name:ゾディアック

Level:Unknown

種族:Unknown

最大HP:Unknown

最大MP:Unknown

状態異常:Unknown

=================== 


「ゾディアック…… ステータス『Unknown』だと? この世界のオリジナルキャラなのか?」


 首を傾げて眼鏡を仕舞う。コキコキと首を鳴らし、ゾディアックの前に進み出た。その仕草はどこまでも余裕で、目の前の凶獣などまるで眼中にないかのようである。


「二人共、さっさと逃げろ。これからチョイと激しい闘いになる」


 振り向かずに、左手をヒラヒラとさせる。強大な魔獣と、それに平然と対峙している男に見惚れていた二人は、弾かれたように動き出した。


「シュヴァイツァー殿、死ぬなよ!」


 レイナが声を残し、二人の気配は消えた。ゾディアックは剣を構えた。先程まで戦っていた女二人はもはや眼中には無い。目の前の男のほうが獲物として遥かに価値があった。


「さて…… これで心置きなく闘えよう? 準備は良いな?」


「あぁ、ブッ殺してテールスープにしてやるぜ!」


 ダンジョン全体を揺るがすほどの巨大な力同士が激突した。





 第四層に昇ったレイナとグラディスを他の四人が迎えた。ボロボロになりながらも、何とか無事だった二人に、ミレーユなどは泣きながら抱きついた。他の三人も涙を浮かべている。


「胸が痛いけれど、私達がいても何もできない。ここはあの人に任せて逃げるわよ!」


「きっと大丈夫。あの人、強い」


「自分の意志で残ったのです。信じましょう」


 回復魔法により体力を取り戻した六人は、第三層へと戻り、異様な光景を目にした。魔石や素材がそこら中に転がっている。男が、一切を無視して最短を駆け抜けてきた証拠であった。だが回収している余裕はない。そのままダンジョンの出口へと急ぐ。


(もし再び会えたのなら、その時はしっかりと名乗ろう)


 走りながら、レイナはそう心に決めた。


 一方その頃、第五層では二つの怪物が超常的な力をぶつけ合っていた。互いの剣が火花を散らし、常人であれば一撃で死に至る力で、拳が交錯し合う。既に十数合を打ち合う中で、ヴァイスは相手のレベルを予測していた。


(近接戦闘に特化したパワーファイター。レベルは恐らく850前後か。剣術、格闘術ともに超一流。こっちは装備で底上げをしているから互角だが、純粋なHP、物理攻撃力、物理防御力は俺以上かもな。だが「身体強化(ブースト)」は使っていない。いや、使えないのか? DODのキャラでは無さそうだな)


 ヴァイスはLv999のGrand Braveだが、剣士や拳士以外にも魔法職も均等に取得している。「勇者」というJOBを取得するには、物理と魔法の両方のバランスが求められる。そのため、例えば「水無月綾瀬」のように物理攻撃に特化したプレイヤーと比べれば、HPや物理攻撃力/防御力は低くなる。無論、魔法による遠距離攻撃や虚動(フェイント)を入れることで、PvPでは優位に立つことができる。目の前の怪物「ゾディアック」も、総合戦闘力ではヴァイスよりも下である。「楽に」とは言わないが、勝てない相手では無かった。


「グハハッ! 素晴らしいぞ! 我とここまで互角に打ち合えるとはなっ!」


「全く…… やり難いんだよ。お前みたいな(Player)は……」


 ヴァイスは舌打ちした。これがPKKの闘いであれば、ヴァイスは遠慮なく魔法を駆使し、相手を屠ることに集中しただろう。DODの中でヴァイスが好敵手としていたのはPK者ではなく、こうした「特化型プレイヤー」であった。「剣を持たない者に剣を向ける」「魔法を使えない者に魔法を使う」ということに、ヴァイスは何処かで抵抗を感じていた。特化型プレイヤーの多くは、純粋に闘いを求める者が多い。全力で激突し、激しい戦闘の中で充実感を得るのが、彼らの特徴だった。

 そうした「戦闘狂(バトルジャンキー)」からの挑戦状(メール)は毎日のようにあり、時間を決めては闘技場で激突したものだ。彼らは闘争そのものが目的なので、不意打ちが基本であるPlayer Killingはしない。一緒にダンジョンに潜ることも多かった。ヴァイス自身は戦闘狂ではないが、彼らのようなプレイヤーは嫌いではなかった。


「オォォォォッ」


 ゾディアックの打ち込みを剣で受け止める。だが力は相手の方が上であった。受け流しながら横に飛び退くが、それはゾディアックも読んでいたようで、双角を向けて突っ込んできた。頭突きで吹き飛ばされ、壁に打ちつけられる。


「グハァッ!」


 振り下ろされる剣を側転して辛うじて躱す。だがヴァイスも負けてはいない。ゾディアックが振り向いた瞬間には懐に潜り込み、斬り掛かる。鎧のような筋肉が最上位の剣によって斬り裂かれる。

 胸を十字に斬られながらも、ゾディアックは左拳を突き上げた。ヴァイスの胴にめり込み、メキメキと音を立てて吹き飛ばす。ヴァイスは天井に激突し、そのまま床に落ちた。

 片膝の状態で迎撃態勢を取る。口端から血が流れた。一方、ゾディアックも深手を追っていた。拳の一撃を入れるのが精一杯だったようで、追撃はしてこない。胸を抑えながらゾディアックが呻く。


「グウッ! 速さでは汝のほうが上のようだな……」


「マジかよ。結構、手応えあったんだがな」


 血を滴らせながら、ゾディアックは嗤った。ヴァイスも口元に笑みが浮かんでいる。DODでは総合戦闘力第一位であったが、闘技場では幾度も負けている。「水無月綾瀬」とは肉弾戦で戦って負けた。「まーりんモンロー」には魔法戦で勝ったことがない。

 DODのJob「Grand Brave」は剣技も体技も魔法も使える。だがオールラウンダーであるが故に、何か一つに特化したプレイヤーにはその分野では勝てなかった。それでもヴァイスは、ステータスの不利をプレイヤーの技術で補いながら、相手の得意分野に合わせて闘った。それが「Grand Brave」としての誇りだった。


「面白ぇ。眼が紅いせいで、フェイントが読めねぇ。これがモンスター型プレイヤーとのPvPか。しょうがねぇなぁ……」


 これがゲーム内の闘技場であれば、このまま近接格闘戦に付き合っても良い。だがこれはゲームでは無く、現実である。ゾディアックとの闘いの中で初めて、ヴァイスは魔法を発動させた。回復魔法によってHPが回復する。ゾディアックは驚いたような表情を浮かべた。


「貴様ッ 魔法が使えるのか!」


「使えないと言った覚えはないぞ?」


「何故だ? 何故、今まで使わなかった? 我を舐めているのか!」


 技と技、力と力のぶつかり合い。混じりけのない純粋な闘争に酔っていたゾディアックは、男が本気を出していなかったことに腹を立てた。だがヴァイスは首を振った。


「舐めちゃいないさ。ただ、お前は魔法が使えないんだろ? そういう相手には、本当は使いたくないんだ。俺は使ったんじゃない。自分の主義を曲げてまで、使わざるを得なかった。そこまで追い込まれたのさ」


 回復し、立ち上がったヴァイスが構える。だがゾディアックは瞑目したまま動かない。肩を震わせ、やがて大声で笑いだした。


「ガァッハッハッハッ! コイツは驚きだ! まさか我が手加減されていたとはな! だが不快ではない。こんなことは初めてだ! ガァッハッハッ!」


 ひとしきり笑った後、ゾディアックは深く息を吐き、剣を構えた。


「生まれ落ちてより闘いに闘い、数多の強者を屠り続けて幾星霜…… いつの日か、敗れの日が来ると解っていた。さぁ、次が最後の瞬間(とき)ぞ! 汝の最大の力を持って、見事、我を打ち破るが良い!」


 ヴァイスは剣を収めると、両手に魔法を込めた。最上級のS級魔法である。二人の「気」が横溢する。そして決着を迎えようとしたその瞬間……


「そこまでよっ!」


 二人以外の声が響いた。





 二人の間の空間が歪み、黒い穴が空いた。そこから妖艶な美女が現れた。ゾディアックと同じく、山羊のような角が二本、頭に生えている。紫色の長い髪を靡かせ、水着のような際どい服を着ている。背には黒い翼が生えていた。ヴァイスは緊張した。DODにもこれに似た姿をした敵キャラがいた。「魔神」である。もしコイツがゾディアック級なら、厳しい戦いを覚悟しなければならないだろう。だが魔神らしき美女はその気がないのか、ヴァイスを無視してゾディアックに話しかけた。


「ゾディアック、迎えに来たわよ? まったく貴方は千年前と変わらず、格闘バカね」


「アスモデウス…… 我が至福を邪魔するか? 汝といえども許さぬぞ?」


「至福? 私が止めなければ、貴方は死んでいたのよ? 私たちの命は『主』の為にだけある。勝手に死ぬことは許されないわ」


 ヴァイスは懐から「魔眼」を取り出した。


===================

Name:アスモデウス

Level:Unknown

種族:Unknown

最大HP:Unknown

最大MP:Unknown

状態異常:Unknown

=================== 


(これも『Unknown』か。魔神では無いのか?)


「私の確認は出来たかしら?」


 アスモデウスと名乗る魔物が、ヴァイスに笑みを向けた。魔眼を外すと、アスモデウスは左手を軽く動かした。魔眼が破裂するように砕けた。


「勝手に覗くなんて、あまり良い趣味ではないわね? 私の素肌を見たければ、ちゃんと口説かないと」


「口説いたら見せてくれるのか? やれやれ、この魔眼は二つしか持っていないんだぞ」


「まだ持ってるの?」


「得体の知れない相手に、たった一つしかない貴重な道具を出すと思うか?」


 実際には、アイテムボックスの中にはあと五つ入っている。相手のステータスを見る「魔眼」は、課金ガチャの「ハズレアイテム」である。DODでは、無課金者にタダであげたりしていた。だがそんなことを話す必要はない。相手に偽の情報を与えることは、PvPの基本である。アスモデウスは面白そうに笑った。


「フフフッ! 貴方、強いだけではなく頭も切れるようね? ここで潰しても良いのだけれど、それではゾディアックが不満でしょうから、見逃してあげる」


「アンタらの正体は何だ? ゾディアックといいアンタといい、まるで未知の存在だ」


「いずれ闘うかもしれない相手に、そんなこと教えると思う? 知りたければ自分で調べるのね。ゾディアック、行くわよ?」


 アスモデウスはゾディアックの腕に触れた。ゾディアックは真紅の瞳をヴァイスに向け、最後の言葉を残した。


「強き者よ、いずれ再び巡り会わん。次は汝の全能を賭けよ。さらばだ……」


 得体の知れない二つの怪物は、そのまま虚空に消えた。ヴァイスは暫く緊張していたが、やがて大きく息を吐いてその場に座り込んだ。体中の筋肉が徐々に弛緩していく。


「見逃してもらった…… のだろうな」


 そう呟き、地面に大の字になった。


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