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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第013話:六色聖剣の危機

【小解説】 DODの装備

 VRMMO-RPG「Dead or Dungeon(DOD)」の装備は大きく四種類に分けられる。


1.「初期配布宝箱」やNPCの店で買える無課金装備

2.課金ショップやガチャなどで手に入る課金装備

3.ダンジョンの魔物が落とすドロップ装備

4.素材を組み合わせて出来上がるオリジナル装備


 装備には「レベル」と「ランク」の二種類が存在している。レベルは装備できるプレイヤーのレベルを意味している。たとえ重課金者であろうとも、キャラクターのレベルが低ければ高レベルの武器は装備できない。一方、ランクは装備の「質」を意味している。最低の「白ランク」から始まり「緑」「青」「紫」「オレンジ」「赤」と五段階のランクが設定されている。たとえば同じロングソードであっても「白ランク」と「青ランク」では上昇する攻撃力の数値が違ったり、状態異常耐性などの効果付与がされていたりする。


 基本的には、課金をすることによってより強い装備が手に入るが、DODで最も強い装備は、2~4の組み合わせと言われている。まず強力な魔物が稀に落とす「レア素材」を手に入れ、その素材を素に高レベルの鍛冶師、錬金術師に装備を作ってもらい、更に課金アイテムである「強化素材」によって装備を強化することで、オリジナルの装備が完成する。オリジナル装備は紫ランク以上が保証されており、効果付与が複数ある場合が多い。DODの高レベル鍛冶師の中には、ゲーム内通貨である「Loon」を受け取って装備を作る者もいる。無論、どれほど高レベルの鍛冶師であっても赤ランクの装備を作り出すことは容易ではなく、大抵の場合は成功報酬で取引がされる。


 このように、DODでは様々なJOBのプレイヤーが、それぞれの形でゲームに参画し、一つの経済圏を形成していた。こうした自由度も、DODが人気を博した一つの要因となっている。





「オォォォォォンッ!」


「ッ…… 密集迎撃陣!」


 魔獣の咆哮で空気が震えた。普通の人間であれば恐怖のあまり失禁し、その場で腰を抜かしてしまうだろう。だがさすがは真純金(オリハルコン)級の冒険者たちである。一瞬の驚愕の後は、たちまち陣形を整えた。相手の姿から「肉弾戦専門(パワーファイター)」と判断し、物理防御陣形を取る。近接戦闘を担当するレイナとグラディスが前に出て防御陣形を張り、後方からエレオノーラが弓を射掛ける。アリシアは魔術による物理防御結界を、ミレーユは精霊召喚によって攻撃と防御を担当し、エクレアが回復を担当する。


「みんな! 倒すことには拘らないで! 隙を見て一気に撤退するわよっ」


 レイナの指示を聞くまでもなく、勝てる相手ではないことは全員が察していた。それほどに、眼前の未知の魔獣から放たれる気配は圧倒的であった。額に汗を浮かべた美女たちが、確定的な「死」と対峙する。だが魔獣は襲い掛かってこなかった。ジッと伺うように、レイナたちを観察している。そしてフォンッと剣を一振りすると、驚いたことに言葉を発した。


「フム。我の姿を見て瞬時に『肉弾戦』の体制を取ったか」


「……喋った?」


 ミレーユが驚いたように呟いた。遥か太古の伝説では、人語を操る魔神や高位の竜族について語られているが、実際に言葉を発する魔獣は初めてであった。驚くメンバーたちをグラディスが一括した。


「気を抜くな! いつ仕掛けて来るか判らんぞ!」


 だが魔獣は言葉を続けた。


「我が名は『ゾディアック』…… 血と汗の芳香を感じて来てみれば、まさかこのような『ただの牝共』だったとはな」


 「牝共」などと呼ばれれば、気の強いグラディスなどは本来なら激昂する。だがこの時に限っては、そんな余裕は無かった。レイナは剣を構え、頬に汗を垂らしながらも何とか返答した。


「だったら、見逃してくれないかしら? 私たちはもう帰るところなの。貴方と戦うつもりは無いわ」


 相手に知性があるのなら、交渉によっては無傷で帰れるかもしれない。だがディアックと名乗る魔獣は、そんな期待を一笑に付した。


「悪いがそうはいかん。永きに渡る眠りから目覚め、久方ぶりに嗅いだ闘争の香り。獲物を逃すと思うか?」


「ッ……」


 「死の化身」が一歩を踏み出す。その瞬間、レイナが叫んだ。


「総攻撃ッ!」


 そレイナとグラディスが左右に分かれ、挟み撃ちで斬り掛かる。エレオノーラが強弩を釣瓶撃ち、アリシアとミレーユによる攻撃魔法、エクレアの神聖魔法が襲いかかる。どんな魔物も屠ってきた必殺の一斉攻撃であった。だがゾディアックは凄まじい雄叫びと共に、腕を振り回した。竜巻のような風が発生し、矢を吹き飛ばし、振り回した拳はレイナとグラディスを弾き飛ばし、咆哮が攻撃魔法を打ち消した。レイナとグラディスは壁に打ちつけられたがすぐに立ち上がると、再び斬りかかる。ゾディアックは圧倒的な速度で動くと、剣を横薙ぎしてグラディスを襲った。辛うじて剣で防いだが、弾き飛ばされ壁に激突する。その隙にレイナが背中を切りつけたが、その躰は鋼鉄のように硬かった。驚愕する間もなく、巨大な足が腹部を襲った。


「風の精霊よ。鋭き剣となりて邪を討ち滅ぼせ!」


「A級火炎魔法『炎戈竜(アグナコトル)の轟炎』!」


「大弓技『精密三連斉射』!」


「主よ、光翼を持って汝が正義を顕現し給え『神域の光柱』!」


 風と炎に神聖属性が加わり、ゾディアックを炎で包む。そこに魔力を載せた矢が襲いかかる。炎の中で、矢は確かに突き刺さった。だがゾディアックは燃え上がる炎の中で腕を交差させ、打ち消すように左右に広げた。炎は一瞬で掻き消され、胸に刺さったはずの矢も、筋肉によって押し出された。ズンッと一歩踏み出し、少女の前に出る。太く巨大な剣が振り上げられた。


「あ、あっ……」


 ミレーユは動けなかった。少女から見れば遥か上から、勢い良く剛剣が振り下ろされた。


 ギインッ


 ミレーユの前に、レイナとグラディスが立っていた。二振りの剣を交錯させ、剛剣を何とか防いでいた。


「四人とも撤退! ここは私たちで防ぐっ!」


「いや……」


 手を伸ばそうとしたミレーユをアリシアが抱えた。エレオノーラとエクレアも振り返らずに走る。


「いやーっ! レイナ! グッディ!」


「バカッ! 二人の想いを無駄にする気なの? ここは逃げるのよ!」


 抱えられながら叫ぶミレーユにアリシアが怒鳴った。すぐに動くことが出来たのは、日頃から撤退の順番を決めて訓練をしていた賜物である。階段を駆け上り、第四層を進む。後方では再び、大きな音がした。


「レイナ、グッディ…… ゴメンッ!」


 アリシアは走りながら呟き、目尻から雫を飛ばした。





「ガハッ」


 レイナとグラディスは血を吐きながら立ち上がった。脚がガクガクと震えている。目の前の怪物は全くと言って良いほど、何のダメージも受けていない。自分たちは此処で死ぬだろう。冒険者となった時から、こうした日が来ることは覚悟をしていた。ゾディアックは赤黒い瞳を二人に向けて頷いた。


「フム、『ただの牝』という先程の言葉は訂正しよう。我の剣を此処まで防ぐとはな。だがそろそろ限界であろう。せめてもの情け…… 次の一撃を以て汝らを屠ろう」


 金髪と銀髪の美女が互いに視線を躱す。お互いにハーフ・エルフとして生まれ、助け合いながらここまで来た。親は違えども、親友であり相棒であり姉妹であった。四人が撤退してから多少の時間は稼げた。今頃はきっと、脱出できているだろう。ボロボロになりながらも、二人の口元には笑みが浮かんだ。


「ありがとう。グッディ……」


「私もな……」


 巨体が目の前に立つ。剣が構えられた。トドメの一撃だからこそ、手加減はしない。それが「屠る者」が持つべき最低限の礼儀である。分厚く巨大な剣に闘気が宿り、そして振り下ろされた。


「さらばだっ!」


 二人は目を閉じた。





 三人の美女が第四層の中を走る。後ろから下級悪魔(インプ)の群れが襲ってくる。エレオノーラは走りながら矢を射掛けた。


「ミレーユッ! しっかりしなさい!」


 だがアリシアに抱えられた少女は呆然としたまま、反応しなかった。ただ涙が止めどもなく溢れていた。


「クッ! 来たときよりも数が増え、強くなっています!」


「二人のためにも、こんな所で死ぬわけにはいきません!」


 上に登る階段を目指して一本道を走った。後ろから追いかけてくる魔物に気を取られていると、エクレアが立ち止まった。


「いけません。前からも……」


 第三層にいたアンデッド系魔物「スケルトン」が第四層にまで下りてきて、前から襲い掛かってくる。アリシアはミレーユを床に置くと、魔法杖を構えた。地べたに座ったまま泣いている少女を守るように、三人は前後に陣を組んだ。


「諦めませんよ。私たちは『六色聖剣』なのですから!」


 エクレアが檄を飛ばした。一本道の前後から、魔物が一斉に襲い掛かってくる。三人は死を覚悟しつつ、身構えた。だがその時、変化が起きた。ドカンッという音と共に、前方から襲ってきたスケルトンたちが弾け飛んだのだ。やがて、スケルトンを薙ぎ倒しながら凄まじい速度で駆けてくる赤茶髪の男が見えた。その(さま)は文字通りの「粉砕」である。剣の一振りで、スケルトン数体が木っ端微塵に砕け散っていく。呆然とする三人の横を風の如く駆け抜けると、左手を構え魔法を発動させた。


「A級火炎魔法『炎戈竜(アグナコトル)の轟炎』!」


 爆音と共に、超高温の業火が一本道の果までを覆い包む。その威力にアリシアは眼を剥いた。自分が放った時と比べ、明らかに威力が桁外れている。魔法の威力は、術者の「基礎魔法力」に比例する。目の前の男は有り得ないほどの膂力を持つ剣士であると同時に、帝国最高位の魔術師を遥かに超える魔法力を持っていた。

 やがて炎が静まる。強化されたインプたちは一本道の彼方まで完全に焼き尽くされ、灰すら残っていない。突然現れた男は三人に顔を向けた後、床に座り込んだ美少女を見た。


「魔物……では無いな。冒険者か?」


「あ、貴方は……」


「俺か? 俺はヴァイスハイト・シュヴァイツァー。リューンベルクのギルドに依頼されて、調査のために来たんだが、何か様子が変だな?」


 三人は言い知れぬ安堵に包まれた。男がいるというだけで、こんな安心感を持てるのだろうか。いや、それもあるだろうが、この男が持つ雰囲気が違うのだ。圧倒的な強者の余裕。どれほどの敵が出現しようと、この男は泰然としたまま顔色一つ変えずに、アッサリと屠るだろう。まるで、巨大な山脈を目の前にしているかのようであった。

 ようやく落ち着き、アリシアが説明しようとすると、その前にミレーユがヴァイスにしがみついた。


「私達のために、レイナとグッディがまだ戦ってるの。お願い、助けて……」


 男は片膝をついて、泣きながらしがみつく青髪の美少女に視線を合わせた。その頭を撫でて微笑む。


「二人はどこだ?」


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