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Grand Brave ~転生勇者の無双伝説~  作者: 篠崎冬馬
第一章 英雄王の聖剣
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第010話:小さな違和感

 地下十三階、一ツ目の魔物「サイクロプス」が出現する。だがヴァイスの一振りで首が飛んだ。ヴァイスがそのまま進もうとすると、トマスから呼び止められた。


「サイクロプスだと? コイツは通常、地下二十階くらいにいるはずだぞ?なんで十三階にいるんだ?」


「どうした?」


 夜明けの団の仲間内で話し合っている。ヴァイスは取りあえず、それが終わるまで待っていた。一通り話し合いが終わったのか、トマスがヴァイスに説明した。


「ヴァイス、お前は迷宮に潜るのは初めてだから知らないだろうがな。実はこの一月ほどで、迷宮内の魔物に変化が出始めているんだ」


「ほう。どんな変化だ?」


「本来、もっと下の層にいるはずの魔物たちが中位層以上に上がってきている。また上層の魔物も一回り手強くなっている感触があるんだ。二週間前に潜ったダンジョンでは、いつも狩場にしていた地下十七階よりもずっと手前で、目的の魔物が出現した。ひょっとしたら、下層では見たこともないような魔物がいるかもしれない」


「ふむ、解った。念のため、注意しながら進むか。取りあえず地下二十階まで行こう。サイクロプスがそこにいたのなら、二十階では別の魔物がいるはずだ」


 ヴァイスは再び進み始めた。相変わらずの圧倒的な速度だが、昨日ほどではない。夜明けの団のペースを掴んだのか、無理のない速度で進む。エビル・トロールやバティス・キマイラなどを屠り、途中で休憩を入れながらもおよそ十時間で地下二十階に入った。トマスたちの顔色が悪い。


「ヴァイス、ちょっとマズイぜ? 魔物の気配が違う」


「ほう?この迷宮は何階まであるんだ?」


「不明だ。俺達は地下二十一階まで潜ったことがある。さっきアンタが一撃で倒したバティス・キマイラの群れに襲われて撤退したんだ。だが大抵のダンジョンは深くても二十五階程度までのはずだ。あと少しなのは間違いないと思う」


「解った。とにかく慎重に進もう」


 慎重と言いながらも、ヴァイスは普通に歩き出した。トマスは舌打ちして、仲間たちに指示を出した。


「密集陣を組め。どこから襲ってくるか判らんぞ」


 少し進んだところで、目の前に赤い炎が浮かび上がった。やがてその炎は巨大な魔物の形となった。身長は三メートル以上、赤い肌をし、四本の腕を持ち、頭からは二本の角が生えている。真紅に光る瞳は鋭く、眼の前の人間を威圧していた。


「な、なんだよありゃ」


「ふむ、レッサーデーモンか。コイツは魔獣じゃない。魔物だ。魔石を落とす」


「や、やべぇぞありゃ。あんなの、見たことねぇ! ありゃ、きっと伝説の魔神だぜ」


「いや、魔神じゃない。ただの悪魔だ。お前たちはそこで守備陣を取っておけ。すぐに終わる」


ヴァイスはごく普通の様子で、レッサーデーモンの前に立った。






 DODのダンジョンは、それぞれに適正レベルが設定されている。Lv1から始まり、Lv100、Lv200と上がっていき、最大はLv900である。ダンジョンでは階層が下がっていくに連れて出現する魔物のレベルも上がっていく。例えばLv1のダンジョンでは、Lv1からLv99までの魔物が出現する。自身のレベルが上がれば、それだけ下の階層に進むことができるのである。当然、出現するアイテムや素材、入る経験値などは高レベルの魔物ほど良くなる。プレイヤーは時に単独(ソロ)で、時に集団(パーティー)でダンジョンに入るが、Lv900ダンジョンは集団での攻略が必要である。それは出現する魔物の「属性」が極めて多岐に渡るためである。DODではLv800ダンジョンあたりから、物理攻撃が全く通じない魔物や、逆に魔法に完全耐性を持つ魔物などが出現し始める。Lv900ダンジョンはそれが顕著であり、最低でも四、五人以上のパーティーで攻略する必要がある。


「レッサーデーモンか。確かLv180前後だったな。ドロップアイテムは魔石の他に『下級悪魔の血』だったか? どれ……」


 ヴァイスは悠然と進み出て「魔眼」を装着した。


===================

Name:レッサーデーモン

Level:212

種族:Demon(悪魔)

最大HP:16424

最大MP:20551

状態異常:無

===================


「レベル二百超えだと?そ んなレッサーデーモンは初めて見たな。トマス! もう少し下がれ。コイツは範囲魔法を使う!」


「グオォォォォォッ!!』」


 レッサーデーモンが雄叫びを上げる。ビリビリと空気が振動する。トマスたちは円形陣を組んだまま数十歩以上離れ、そこで盾を構えた。自分の前に立つ茶髪の人間に向けて、レッサーデーモンは両手から火炎系の攻撃魔法を繰り出した。凄まじい炎が一直線に伸び、ヴァイスを飲み込んだ。


「ヴァイスッ!」


 トマスが叫ぶ。だが助けようが無い。放射された炎は自分たちに迫るほどであった。離れている自分ですら、灼熱の温度で肌が焼けそうであった。やがて炎が収まる。トマスたちはおずおず盾の隙間から顔を覗かせた。あれ程の炎に灼かれれば、普通なら黒焦げである。消炭すら残っていないかもしれない。だがトマスは自分の目を疑った。豪炎に飲まれたはずのヴァイスは微動だにせず、そこに佇んでいた。レッサーデーモンも自分の炎が効かないことに首を傾げた。


「グガッ?」


「火炎系のD級魔法『火炎放射』か。やはりDODの魔法と同じだな。残念だがその程度の魔法では俺には効かない』


「ガァァッ!」


 再び、炎が繰り出される。今度は壁一面までも飲み込む紅蓮の炎だ。先程のように一直線の放射ではなく、眼の前の対象を燃やし尽くすような炎である。だが煉獄の炎の中で、ヴァイスは平然としていた。


「B級魔法『マナの轟炎』、レッサーデーモンがコイツを使うとはな。魔物全体が強化されているというのは本当のようだ。鬱陶しいな。消させてもらうぞ? 水系魔法『氷結地獄(コキュートス)』!」


 同じB級の水系魔法により、炎は氷によって包まれた。それまで業炎で焼き尽くされていた壁は、一瞬で凍結してしまった。レッサーデーモンは自分の魔法が全く効かないことが、理解できないようであった。


「魔力無効化空間。B級以下のあらゆる魔法を無効化する常時発動(パッシブ)スキルだ。勇者レベル80で習得できる。もっとも、味方からの回復魔法や補助魔法も無効化してしまうから、俺のような単独(ソロ)プレイヤー向けのスキルだがな」


 レッサーデーモンは魔法攻撃を諦め、四本の腕で殴りかかってきた。三メートル以上はある巨体からの一撃である。常人であれば吹き飛ばされるだろう。だが拳はヴァイスには届かなかった。顔面の直前で止まってしまう。レッサーデーモンは幾度も殴り掛かるが「見えない壁」に護られているように、ヴァイスの手前で全て止まってしまった。ヴァイスは悠然と剣を抜くと、一瞬で懐に入り、レッサーデーモンを下から上に切り上げた。正中線で綺麗に左右に分かれた。


「ヴァイス! 大丈夫か?」


 戦いが終わり、トマスたちが駆け寄ってきた。血溜まりの中に、大きな魔石が転がっていた。


「俺は平気だ。魔石の回収を頼む。その血はレッサーデーモンの血だ。素材なのでそれも回収してくれ」


 ガラス瓶一本分の血が集められる。魔石は様々な道具を動かす原動力になる。この大きさなら相当な高値がつくだろう。トマスたちの喜びようを見ながら、ヴァイスは小さく呟いた。


「レベル二百超えのレッサーデーモンか。となればダンジョンマスターは……」


 ヴァイスたちは再び、下層を目指し始めた。






 地下二十四階でダンジョンの雰囲気が再び変わった。これまでのような岩肌ではなく、整備された石畳のようであった。トマスが唾を飲み込んだ。


「ヴァイス、ここが最下層だ。俺たちもダンジョンを一つ攻略しているが、その時に見た最下層と同じだ。こんな石畳があって、一本道の先に扉がある。その先にダンジョンマスターがいる」


「二十一層でレッサーデーモン、二十三層でアークデーモンだった。となれば最下層は……」


「予想できるのか?」


「あぁ。扉には俺一人で入る。トマスたちは待っていろ。俺の予想通りなら、チョイと激しい戦いになる」


「これまで全部一撃で屠ってきたアンタが、激しい戦いって言うのかよ。どんな相手だよ?」


「上位悪魔だろうな。恐らく……」


 やがて石造りの扉の前に立つ。扉から言い様のない気配が漂っていた。まるで漆黒の瘴気が漏れ出ているようである。ヴァイスは感心したように顎を撫でた。


「DODではこうした『気配』までは再現されていないからな。こういうのって、本当にあるんだな」


だがトマスたちは額から汗を流し、膝をガクガクと震わせていた。トマスたちだって、帝国内でもそれなりに知られるベテランの冒険者たちである。大規模な野盗討伐に参加し、命を懸けたこともある。巨大化した凶暴な魔獣を討伐したこともある。今はまだ真純銀(ミスリル)級だが、いずれは真純金(オリハルコン)級になると期待されている冒険者パーティーだ。

だがそんな彼らでも、これほど圧倒的で絶望的な気配と対峙したことはない。腰を抜かさなかったのは、目の前に涼しい顔をした男がいてくれるからだ。自分たちだけなら、とっくに逃げ出している。


「ヴァイス、ヤバイぜこりゃ…… いくらアンタでもこの敵はヤバイ。撤収したほうが良いぜ」


「心配するな。激しい戦いとは言ったが、勝てないとは言っていない。ここで待っていてくれ。そうだな。まぁ五分もあれば終わるだろう」


 そう告げると、ヴァイスは扉を押し開いた。向こう側は漆黒の暗闇であった。迷うこと無く、ヴァイスは足を踏み入れた。重い扉が音を立てて閉まった。





 漆黒の闇の中に、ヴァイスは立った。背後の扉が閉まると左右に青い炎が灯った。それは壁に沿うように手前から奥に順番に灯っていき、やがて部屋の全体像が現れた。部屋はかなり広かった。縦横は五十メートル以上あり、天井も三十メートルくらいの高さになっている。そして部屋の中央に、一体の悪魔が鎮座していた。ヴァイスは魔眼を装着して確認した。


「フンッ。やはり『グレーターデーモン』か……」


===================

Name:グレーターデーモン

Level:507

種族:Demon(悪魔)

最大HP:50179

最大MP:47750

状態異常:無

===================


 Lv500超え、つまり自分にダメージを与え得るレベルである。この世界に来て初めての「闘い」に、ヴァイスは思わず、口元に笑みを浮かべた。


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