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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
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弟子の来た日 -2

前回のあらすじ

弟子になりたい少年、エディが来ました。

 五年、待った。

 奉公に上がることができるのは、十歳になってからだ。


 エディは覚えている。今でも夢に見る。

 あの日、炎に向かって行った父と祖父の姿を。燃える大木を。そして燃えた大木が、折れて、崩れたのを。音までまるで耳にこびりついているかのように覚えている。

 息を飲む母の声も、泣く妹の声も、大人たちの怒号も。

 そこに来た、揃いの赤い服を着た男たち。麓の街から、ニベル村までは道が整っている。獣道ではなく、踏み固められているから、普段なら子供でも歩ける距離だ。けれどあの日は違った。数日続いた嵐で道はぬかるみ、大人の男の足でも登ってくるのにはいつもより時間がかかる。

 そんな道を、そんな天候なのにもかかわらず来てくれた。

 後で、大人達が言っていた。火が出てから到着までの時間を考えると、彼等はすぐに気が付いて、そしてすぐに来てくれたと。到着した時、彼等はずぶ濡れだった。家の中から見ていた村人よりも、彼等は濡れていた。

 赤い上着の人達は、大人たちと話していた。赤いローブの魔導師様は、村人たちとは一言も話さずに、粛々と火事を収めてくれた。

 ぱん!

 雨の音も風の音もうるさかったのに、距離もあったはずなのに。魔導師様の鳴らした音が耳に届いた。


「おかあさん、ぼく、あのまどうしさまみたいになりたい」


 まどうしさま、というのだと大人達が言っていたから、そう伝えた。それが何を意味するのかは分からなかったけれど、そう思った。


 今日、エディは憧れの人の弟子になった。

 受け入れてもらえた。


「それじゃあエディ、これを持って付いてきなさい。君の部屋に案内しよう。

 ユーリさん、村の人達に、街まで来ることがあったらエディに顔を見せてくれるように伝えていただけますか」

「よろしいのですか」

「ええ。そろそろ弟子を取らないと、王都の学院からお叱りを受けそうでしたし」

「いえ、そちらではなく。その、エディはあなたの弟子になるのですから」

「構いませんよ。せっかく近くにいるのですから、折を見て顔を出してあげてください。いや毎日来るのは流石にご遠慮願いますが、それほど頻繁でもないでしょうし」


 ヴィムは音もなく立ち上がり、ランタンが陳列されている棚へと向かった。

 丸いガラスに、蝋燭立てのような片手持ちの金属製の取っ手が付いただけの簡素なランタンが、丁寧に並べられた棚の上でゆらゆらと瞬いている。ヴィムはそのランタンの中から一つを選び、エディに渡した。

 それは、さっきエディが見ていた緑色の炎。その中でも、エディの前でゆらゆらと揺れたもの。ヴィムが手にしたときはそれほど揺れなかったが、今、エディの手に渡ったその緑色の炎は、大きくなったり小さくなったりくるくると螺旋を描いてみたりと、不思議な動きをした。

 エディはそれを渡されたことにも、それから炎の動きにも驚いてヴィムの顔を見つめるが、ヴィムはユーリと話していてエディの方を見ていない。


 弟子入りをした場合、半年や一年は里心がつくからと親族に合わせない場合も多い。ユーリは、その事をヴィムに問うているのだった。


「その程度で出ていくのであれば、魔法使いにはなれません。

 十二歳になれば王都へと学びに行くことになります。そこで魔法使いとして最低限のことを修めた後は、この街には私がいますから、ここではない場所へ行くことになるでしょう。そうなると、もう会えない可能性もありますから、会える内に会っておくべきだと私は思います」


 ヴィムがこの街に戻って来たのは、ヴィムの祖父から跡継ぎに指名されたからだ。それまでは、他の場所にいた。最初の弟子を取ったのも、そういえば彼の地でだった。

 灯火の魔法使いというのはそういうものだ。灯火の魔法使いが必要で、そしていない場所に配属される。

 そこに本人の意思はなく、国の定めに従うのみだ。


「魔導師様、ありがとうございます。エディ、また顔を見に来るから、それまで励めよ」

「ありがとう、おじさん。ぼく、がんばるよ」


 ユーリはもう一度エディの頭を撫でて、ヴィムに深く頭を下げた後、村で暮らすための大量の荷物を持ってヴィムの店を後にした。ユーリがエディの顔を見に再度この店に顔を出すのは、七日後の事である。

 ヴィムとエディはユーリを見送った後、店の奥のドアを開け、住居部分へと入る。

 先刻ユーリにすすめた椅子はついでに物置にしまい、それもエディに見せておく。


「掃除用具なんかは一通りここにあるから、必要なものが出来たらその時に見に来なさい」

「はい」


 祖父がいた頃も含めて弟子たちが馴染むのは、まずはこの物置だ。ここに何があって何がないのかを把握するところかはじまる。ヴィムもそうだった。


「エディの部屋は二階になる。左の扉が私の部屋だ。ああ、この家からの出入りは店のドアを使うように」


 ヴィムの部屋からは外に出る扉があるが、それを使うのは主に夜間急ぎで出る時のみになる。普段は店にいるし、出歩く時もそちらの扉を使って問題はない。弟子たちがここにいるのは、十歳から十二歳からの二年間。十二歳になったら、王都にある魔法学院へと入学させるから、店の外に出すのは基本的にヴィムと一緒か、店が開いている時間のみだ。

 二階に上がり、エディの部屋を教える。今、弟子はエディのみだから、二階の他は空き部屋である。慣れるまでは寂しい思いをするかもしれない。


「私は店番をしているから、荷物の整理が終わったら下においで。食事に行こう」


 一人分の食事を作るのは億劫で、しばらく前に弟子を王都の魔法学院へと送り出した後はもっぱら外食だった。それに伴い、今、この家には食材がない。


以前見た話で、前回のあらすじが前書きにあって分かりやすかったので、自分も入れようと思った次第です。


20190721

少し加筆修正をしました。

大筋に変更はありません。

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