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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
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概論:魔力 -2

前回のあらすじ

食堂でご飯を食べながら魔力講座開幕です

そして前回に引き続き今回もそれからたぶん次回も魔力に関する説明回です

もうしばらくお付き合いください

 テーブルの真ん中にホプスのかごとスープの丼をおいて、ヴィムはスープを取り分ける。


「ありがとうございます」


 湯気をあげるトマトベースのスープは塩が効いていて優しい味がする。大降りの豆をスプーンですくってスープと一緒に口へと放り込む。豆は、上顎と舌で潰すことが出来る程度に柔らかい。


 「さて魔力の話だ」


 ヴィムはかごからホプスをとって、半分にちぎってスープに浸した。


「魔力には純度と強度がある。どちらも共に、高い、低いと表現するのだけれどね」


 エディは丸いオムレツにスプーンを刺した。押し返してくるような弾力のあと、切り口からは挽き肉やニンジンなんかが覗いていた。最初の頃はごちそうだと驚いたけれど、その握りこぶし大の小さなオムレツは、大人たちの二口ほどだった。


「純度も強度も低ければ、使う魔力は減り、どちらも高ければ使う魔力は天井知らずだ。使用することもできないような魔術も存在はしているようだよ」


 煮豆はふっくらとシワがなく、レモンの絞り汁がかけられているのか。さっぱりとした酸味が仄かに香った。


「純度と強度の説明が難しいのだけれどね。

 例えばそうだな、ろうそくに火をつけるのは純度も強度も低いとされる。

 他方、炎だけで剣を作るのは純度も強度も高いとされるのだけれど」


 なんでかわかるかい、とヴィムに振られて、エディは煮豆を詰め込んだホムスを慌てて租借した。ヴィムに差し出されたお茶で流し込んで、少し首をかしげる。


「ろうそくは、ろうそく本体を使うから、低いんでしょうか」


 ヴィムは炎だけで剣を作る、と表現した。そこくらいしか、エディにはわからない。


「そうだね。ろうそくの芯に指をつけるだけで、私たちは火を灯すことが出来る。指をつけたら、ほんのちょっとだけ魔力を流せば、それで終わりだ。

 むしろここで純度も強度も高い魔力を流すとろうそくは溶けるわ下手すりゃ火事になるわでとても怒られるからやめておいた方がいい」

「ヴィーム、やったことあんのかー?」


 酔った笑い声と共に、ヤジが入る。

 エディも少し気になったけれど、聞けなかったことだ。


「私じゃないよ。同期の黒の魔術師の卵がやったんだ」


 ヴィムは天井を指差すと、指先で輪を描いた。


「焦げたよ」


 食堂が静まり返る。いや、まあ、話し振りからしてそうだったろうなとは思ったけどよ、と、聞いた酔っぱらいが酔いの冷めたような声で呟いた。

 魔術師の知的好奇心が元になったいたずらは、規模が違う。


「まあ、学院の実習室の天井なんて焦げ跡沢山ついてるからどれかなんてもうわからないけれどね」


 行ったら見上げてみるといいと、ヴィムはエディに笑いかけた。エディは、笑いを返せなかった。ビックリして。


「話を戻そう。

 炎で剣を作る場合、いや今はやらないから安心して食べてていいよ、エディ。まずはその長さの分の魔力が必要になるし、維持のための魔力も必要になる。この、長さの分が純度で、維持の分が強度だと学院では習うね」


 でもそんなことは誰もやらないから、体感は結局できないけれど、と、ヴィムは笑ってスープを一掬い口へと運んだ。


「純度と強度に関しては、実地でやっているうちに何となくこんなものか、とわかる程度のものだ。ある時急に府に落ちるから、今はそんなものがあるんだな、と思っておいてくれればそれでいい」

「そうは言ってもヴィム、あんたは説明できないといけないんじゃないかい。

 お待たせ、山羊肉のボール煮込みと、鳩肉のレモン漬け煮込みだよ」


 ベッティとペリーヌが、二人の注文したものを持ってきた。


「熱いから気を付けるんだよ。エディ、お皿には触れないようにね」


 ベッティは注意事項を告げると空になった二人の皿を手に取った。


「それじゃあ、ごゆっくり」


 ヴィムは苦笑を浮かべたまま、言うだけ言って去っていったベッティの後ろ姿をただみおくった。


「一応言い訳しておくとね、エディ」

「え、ぼくにするんですか?」

「うん、ベッティにしても意味ないからね。この説明は、色々と触りながら説明するんだ。純度と強度に付いても、その方が分かりやすいからね」

「じゃあ、家に帰ってから?」

「もちろん。それに、一回じゃなく繰り返しここはやるから安心していいよ」


 覚えるまで、何度でも。

 どうやって覚えるかと言われれば、体で覚えるのだ。そうでなければ、調整ができずに困ることになる。


 ヴィムの前に置かれた器には、ぶつ切りにされた鳩の肉の塊と、オリーブの実。それから串切りにされたレモンの実。鳩の肉はナイフを差し込んだら少ない力で簡単にほぐれた。

 エディの皿では、一口サイズの肉団子がごろごろとトマトスープに浮いていた。ホムスに挟んで食べても、美味しそうだ。


「さて、純度と強度に付いてなぜ話したかというと、魔術とはその純度と強度をいじって使うものだからに他ならない。己の体内にある魔力に色をつけ、純度と強度を組み合わせ、顕現させる……結果をあらわすことによって、簡単なところではろうそくに火をつけたり、大きなところでは嵐を呼び起こしたりする訳だね」


 ほぐした鳩の肉をホムスに挟んで頬張る。鳩の肉の臭みも、レモンがすべて覆い隠していた。

 エディはスープをゆっくり飲みながら、考える。魔力に色をつけるっていうのは、どういうことなのだろうと。


「魔力というのは、基本一人一色持っている。私は火のあか。だからなにも考えなくてもろうそくの芯に魔力を押し当てれば火がつくけれど、コップに水をいれるのであれば魔力を変える必要があるわけだね」


 なるほどと、エディだけではなく食堂の客たちも頷いている。市井の魔術師たちはそんなことは教わらない。実践を教わるのみで、それも魔力の変換の仕方を教わることは滅多にない。


「さて、魔力の色変える方法は実践で教えるしかないからここではおいておくよ」


 それを聞きたい! と食堂にいる魔術師たちは思ったが、口には出さなかった。そのためには彼の弟子にならねばならず、ヴィムの弟子になるには、彼らはもう年を取りすぎていた。


「さっきも言ったけれど、魔術師とは己の魔力で現象をおこす者のことを言うんだ」


 使うのは、己の魔力だけである。


「私たち魔法使いはね、エディ。己の魔力で世界に魔方陣を刻み込み、現象を押し留める者のことをいう。

 灯火ともしびは大火を、さざなみは大津波を、微風そよかぜは嵐を、大土おおつちは大地の脈動さえも」


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