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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
25/28

エディのローブ -7

前回のあらすじ

二人は仕立て屋さんを後にしました

 ヴィムとエディの二人は連れだって、八百屋に寄ることにした。


「おういらっしゃい。こんな時間に来るなんて、珍しいじゃないか」


 八百屋のニクラスは、頭を布で包んでいることが多かった。汗が目にはいることを防ぐ目的もあるが、おかみさんや向かいの店から眩しいと苦情がよく出るからでもある。


「ああ。ナタリアさんのところにいってたんだ」

「お、てことは坊主、弟子入り確定か。よかったなぁ」


 腕を組んで、ニクラスは感慨深げにうんうんと頷く。


「そして明日からナタリアさんのところのエルサがうちに来ることになってね」

「お、そっちもまとめて解決か。いいことじゃねぇか」

「あんた! 仕事ほっぽらかして駄弁ってるんじゃないよ! ごめんねぇ、ヴィムちゃん。それで、何を買いに来たんだい」


 店頭の奥は、自宅になっているのだろう。そこから、ニクラスの妻のグニラが顔を出してニクラスを叱り飛ばした。エディから見ると大人、で一くくりの年齢ではあるが、ヴィムよりはヴィムの両親の方に年齢が近い。故に、どうにも今でも子供扱いが抜けないのだ。

 ヴィムは生まれたときから、親子代々この街に住んでいる。だからこういう扱いは慣れていたし、なんなら父親だって祖父と同世代からは子供扱いをされていたのだ。そんなものである、と思っていた。

 ただエディは、驚いたようにヴィムを見上げた。


「そろそろ野菜がなくなりそうだから、明日の朝と昼に一品なにか追加できるようなものを、と思って」

「それなら茄子がいいよ、茄子」

「フロイデンタールからいい茄子が入ってね。こいつを半分に切るだろ、そんで、パン粉とチーズをのせてオーブンで焼けばそれだけで一品だ」


 ニクラスはエディに向けて、簡単だろ? と笑いかけた。確かにそれだけ聞けば簡単だから、エディは頷いた。


「パン粉かあ」

「学院に行く前に、エリーナちゃんが山ほど作っていっただろ。棚の下の方に、凍らせていれておいた、っていってたじゃないか」


 あれかぁと呟くヴィムに、呆れたようにニクラスが思い出せと言う。


「いや、忘れてないですよ。あれはもう使ったので、作らないとなあって」

「古いパンをすりおろすだけで手間でもないんだから、それくらい作れよ。なんなら、エディに作り方教えりゃいいだろう」

「それもそうですね。どうだいエディ、やってみる?」

「ぼく、パン粉作るの得意ですよ! 村でよく、作ってました」


 古くなったパンはカビが生える。その前に食べきればいいのだが、食べきれなかった場合はすりおろしてパン粉にすれば、保存庫での保管が効いた。毎日パン屋にパンを買いに行ける街での暮らしではなく、山の上にある村の暮らしでは、保存が出来る方法は重要だった。

 各家庭において、そういった雑務は大概子供の仕事である。


「そう? じゃあ頼もうかな。ライ麦パン、そこまで古くもないけどまあいいか」


 最後に焼くのを自分でやって、そこまでの茄子を切ったりパン粉を作って乗せたりするのはエディに任せることにした。その内、料理自体を弟子に任せるのだから、今日から始めたって問題はないだろう。


「火を扱うのはローブが出来てからになるけど、それ以外は少しずつ始めようか」

「はい! ぼく頑張ります!」


 エディはそれほど、食に興味があるわけではない。けれど、ヴィムが料理が好きではないことはこれまでの暮らしで分かってきていたから、それなら自分がやろう、と思っただけのことである。

 エリーナはただ、自分が美味しいものが食べたかった。だから色んな人に料理について聞いたし、実践もした。ワイアットはそういうことも学ぶのだな、と思ったからやっただけだった。

 弟子は弟子で、違っていて面白いものだな、と、ヴィムはぼんやりと考えた。


 二人は茄子を買って、一旦家へと戻った。

 戸棚に茄子をしまいながら、ヴィムはライ麦のパンを取り出した。まだ半分ほどは残っている。


「これを全部パン粉にしちゃうと、明日の朝ごはんと昼ごはんがなくなるから、半分ほどパン粉にしようか。夕飯の後でいいけれど、よろしく頼むよ」

「はい!」


 戸棚の下の引き戸を開けて、ヴィムはそこにある壺をエディに見せた。


「パン粉は作ったら、この壺に入れておくれ。この壺には保存の魔方陣が刻まれていてね。パン粉がカビにくくなるし、この壺が起動している間は戸棚自体も全体的に冷えて保存期間が延びる傾向にあるんだ」


 あくまでも傾向であって、劇的に延びることはない。それでも、夏の間春や秋程度には保存が効くのはとてもありがたかった。


「そんな魔方陣もあるんですね!」

「大体は学院の……王都にある王立魔法学院の図書室にあるよ。あそこは、かつての大天才たちが残した色々な魔法の名残がある。

 続きは、夕飯を食べながらにしようか。魔力の練習に関しても、始めないとね」

「いいんですか?」

「エルサが練習をするのに、弟子であるエディができないのはモヤモヤするだろう? なに、どうせもうそろそろ始めるんだ。少し時期が前後しても問題はあるまい」


 ヴィムは他に、おろし金の場所を教えた。同じ戸棚の中にあるのだが、知らなければ見落としかねないからだ。

それから二人は家を出て、ペリーヌのベッティの店へと向かった。



次回は11日18時更新です

1日が終わらない…!


2021.10.05 誤字修正

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