エディのローブ -5
前回のあらすじ
エディとヴィムは仕立て屋さんに来ました。
ローブに刺繍を施してくれる刺し子さんは高齢と聞いていたのにドアの向こうからした声は以外に若い?!
「はいはい、ただいま」
その店の軒先に吊るされた看板は、布に刺繍を刺す針。扉にかけられたノッカーを、ヴィムは三度鳴らした。
それに軽い声で答えがあって、パタパタと軽い足音とともに扉が開けられた。声は若く、まだ引退をささやかれるようには聞こえなかった。足音も同様に軽い。
不思議そうなエディの前に姿を現したのは、エディの母親と同じ年頃の女性だった。
「待ってましたよ。もう街はあなた達の噂で持ちきりですもの」
にこにこと優しく微笑んで、女性は二人を店内へと招き入れた。
「はじめまして、新しいともしびの魔法使いの卵さん。私はナタリアの娘、シャルロッタよ」
「僕は、エディです。はじめまして」
店に入ってすぐのところは、広いスペースになっていた。
作業台を兼ねているのだろう、大きな机と、その周りに木の椅子がいくつか。ヴィムは勝手しったる他人の家とばかりに、手近な椅子を窓のそばへと引っ張っていって座り込んだ。確かに、この店で彼のやることはな、何もない。
「さてどうやらあなたのお師匠様はこの店について何も教えてはいないようね」
「シャルロッタ。私がエディに説明できることなんて、たかが知れてるだろう?」
窓の外から店内に視線を戻して、ヴィムはシャルロッタに笑いながら抗議の声をかけた。シャルロッタもそれに笑んで答えるから、どうやら二人は悪い関係でないのだと思われる。
「だからといって教えないのは、あなたの悪い癖よ。あらかじめ教えてもらっていれば、それだけ不安ではなくなるのだから」
「教育としては、何でも先回りして教えるのもよろしくない部分があってね」
「そうねぇ、それはそれで真実だから、たちが悪いのよねぇ」
笑いながら、シャルロッタはテーブルの上においてある紐を手に取った。
部屋の窓以外の側面には、たくさんの布が丁寧に丸められて積まれていた。色毎に、そして材質毎に棚が分けられているのだが、それはディにもヴィムにもわからないことだった。
「それじゃあ私が先生の代わりをしようかしらね」
「よろしくおねがいします」
ちょっとどうすればいいのかわかっていなかったエディは、ほっとしてシャルロッタに頭を下げた。今まで服を買ったことなどないし、仕立てたことなんて村の誰からも聞いたことがない。むしろ今度おじさんに会ったときに、自分が教えるべきではないだろうか。
「まずそうね、これからあなたのハーフマントを仕立てるのだけれど、仕立て屋さんに来たことはないわよね」
「はい。村の誰からも、話にも聞いたこともないです」
「そうねぇ、服を仕立てるのなんて、貴族でもなければ基本的にはないことよ」
黒の魔術師や色の魔法使いは、必要に応じてローブを仕立てあることもあるし、必要に応じて貴族のように振る舞うこともある。特に高位の魔導師になれば、貴族位を貰うこともあるが、それは今は関係ないことである。
「服を仕立てるときは、できるだけ脱いでもらうのだけれど、今回は上に羽織るハーフマントだから、そのままでいいわ」
こくこくと、エディはシャルロッタの言葉に頷く。
「それじゃあまずは肩の幅を図るから、後ろを向いてちょうだい」
シャルロッタに促され、エディは背中を彼女に向ける。
シャルロッタは手にした紐をピンと引っ張って、エディの背にあて何か呟き、その呟きを手元の布の切れはしに書き綴った。
それからエディの首から腰までをはかり、胴回りをはかり、横を向くように行って方から手首までの長さをはかり。肩回りをはかりってはメモを埋めていった。
「はい、これで計測はおしまい。お疲れさま」
「ありがとうございました」
慣れないことをして確かに疲れた。それでもエディは腰を折って、シャルロッタに頭を下げた。
「さてそれじゃあお茶でもいれてきますから、少し座って待っていてくださいね」
シャルロッタはエディに椅子をすすめ、自分は手早く机の上を片付けた。筆記具を箱に戻し、エディの体を計った紐もまとめて同じ箱へと入れる。メモした布は汚さぬようにと畳んでエプロンのポケットへとそっとしまった。
奥へと続くドアを潜り抜けて、シャルロッタは部屋を後にした。
評価ブクマありがとうございます。
筆が乗らずに今回少し短くなりました。
具合? 悪いよ!
体調崩していたりドラクエやっていたりポケモンやったりしていました
ウールーかわいすぎか。