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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
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エディのローブ -4

前回のあらすじ

午後の授業は国語でした。多分。

 授業が終わり、エディはタノ司祭とヨハネスとマノロとペリーヌと一緒に教会の門のところへと向かった。そこでヴィムと落ち合い、仕立て屋へと向かうのだ。

 ここはそれなりに大きな街だから、仕立て屋も複数あるという。それでも、これからエディが向かう先を、みんな知っているようだった。

 というのも、糸に魔力を込めて魔方陣を縫いとることができるお針子が、ナタリアおばあちゃんしかいないからだ。ナタリアおばあちゃんが引退したらどうなるのか、というのがその辺りでのもっぱらの話題なのだが、ナタリア自身はまだ引退するのは先のことだと思っている。まだ目は見えているし、糸に針を通すのに困ってもいない。

 ヴィムの作成した魔方陣を縫いとるだけなら誰でも出来るのだから、後はヴィムが糸に魔力を込める方法を教えれば良いと思っていた。

 実のところ、ヴィムもそのように思っている。やる気のあるものがいれば、そのように言ってくるだろうとも思っていた。ただ二人にとって誤算だったのは、ナタリアの引退が囁かれるようになっても、誰も後継になろうとはしていないことだろうか。


「おや、今日はちょうどよく合流できたようだ」


 五人が門にたどり着く頃、ヴィムも教会にやって来た。前回はペリーヌとすれ違ったことを考えると、確かに今回はちょうどよいのだろう。


「こんにちは、ヴィムさん。エディ君から聞きましたよ、今日はこれからナタリアさんのところですか」

「ええ、ばあさんが現役の内に、発注を出してしまおうかと」

「まだまだ現役ではないですかね、ナタリアさんは」


 そう言って大人達は笑うが、エディにはよくわからない。

 首をかしげるエディに、会えばわかるわ、とペリーヌが笑いかけた。ヨハネスとマノロもそれを肯定するように頷く。


「それじゃあ三人は、気を付けて帰りなさい」

「ヨハネス、マノロ、明日の朝エディが買い物に行くと、アントンに伝えておいてくれ」


 通常、エディくらいの年頃の子供が、一人で買い物に行くことはあまりない。しかしエディの場合は魔導師の弟子であり、この街でそれを知らないものはそれなりにいはするが、それよりも、それを知るものも多いから、かえって安全なのである。


「ヴィムさん、うちには来てくれないのかしら」

「今夜にでもうかがうよ。そろそろ食材も尽きるしね」


 エディに用事がなければ、今日この後買い物にいっても良いのだが、あいにくと今日はとても大事な用がある。

 こればかりは日を変更することもできないし、それなりに時間もかかる用事だから、買い物をしてから帰るのは厳しかろうとヴィムは読んでいる。ならば、今日の夕飯はペリーヌの実家の食堂でとっても問題はあるまい。

 メニューを読むのは、エディの勉強にもなることだし。


 それぞれに挨拶をして、ペリーヌとヨハネスとマノロを見送って、ヴィムとエディはタノ司祭に挨拶をしてからその場を後にすることにした。

 教会の門の前は丁字路になっていて、右にいけばヴィムの店に、正面の道はメインストリートになっている。ヴィムは今日は、これまで行ったことのない左の道に行くとエディに言った。


「街のこちら側に行くのははじめてかな」

「はい、叔父さんたちも行ったことはないんじゃないかと」


 彼らが主に向かうのは、メインストリートで開催される市である。そのついでに買い物をするにしても、メインストリートの周辺になるだろう。


「こちら側はものづくり通りと呼ばれていてね、仕立て屋や鍛冶屋なんかが軒を連ねているんだ」


 実際に売り買いをする小売店の類いもないわけではないが、ほとんどは工房である。


「また後日紹介するが、私の店にあるランプのガラス覆いも、この通りにある鍛冶の工房に依頼している。そのうちエディに取りに行ってもらう日も来るだろう」

「はい。仕立て屋さんと鍛治屋さんが同じ通りにあるんですね」

「いや、正確には隣り合わせの通りだよ。ここから見て、あちらにも通りがあるだろう」


 教会の正門から少し行ったところに、左に曲がる通りがある。そこから北門に抜けようという辺りの手前に、もう一本通りがあるようだった。


「あっちの通りが鍛冶の工房が軒を連ねているところになる。鍛冶は火を扱うからね、どれだけ気を付けたとしても、気を付けすぎているということにはならないから、念のため街の中心からは外れたところにあるんだよ」


 夕方には炉の火は落とされるが、それでもしばらくは煙突から煙が立ち上る。

 目の前の通りからは、夕飯の支度だろうか、細い煙が立ち上っていた。その向こう、鍛冶の工房が軒を連ねるとヴィムに説明された辺りからは、もっと太い煙が幾本も立ち上っていた。

 そもそも煙突の太さが違うのだろう。そう思わせるほどに太かった。


「まあ、あちらにはまた今度行くとして、今日はこちらの通りに行くよ」


 ヴィムはエディを振り返らずに、手前の通りに足を踏み入れた。

 この通りもまた石畳が敷かれ、建物もほとんどが石造りだ。窓の枠など一部分だけ木の部分が残っていることもあるが。

 通りの中程まで歩いたところで、ヴィムは一軒の家の、店の前で足を止めた。

 軒先に吊るされた看板に描かれるのは、針と、糸と、それから布。針に通された糸が、布に刺繍を刺しているものだった。


「ここが、私たちのローブに魔方陣を刺繍してくれる、ナタリアさんの店だ。覚えておきなさい」


 お使いで来ることもあるだろうし、一番近いところでは自分のハーフマントを取りに来る時だろう。

 ヴィムは扉に近づき、ノッカーを鳴らした。

 コン、コン、コン。


「はいはい、ただいま」


 ノッカーに応えて、軽やかな女性の声がした。ナタリアの声ではない。引退を示唆されるような老いた声には聞こえなかった。


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