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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
19/28

エディのローブ -2

前回のあらすじ

ご飯を食べてるときに、エディはヴィムから耐火のローブを仕立てに行くと言われました

 翌日。

 エディは朝起きてから一連の家事をこなして、教会へと向かった。


「おはよう」

「おはようございます!」


 教会の門のところには今朝もタノ司祭がいて、エディに、ヨハネスに、マノロに、ペリーヌに挨拶をしてくれる。エディは教室へ向かって歩きながら、鐘楼にも頭を軽く下げた。

 この街に来てからまだあの鐘が鳴らされるのを聞いたことはないが、あの鐘楼に詰めている人たちが、この周辺の村にとって重要であることに代わりはないし、あのときあの鐘楼に人がいてくれたからこそ、自分の生まれ育ったあの村は全焼を免れたのだ。

 そう思うと、自然と毎朝頭を下げていた。


 そう間を置かずに、ヨハネスとマノロ、ペリーヌが教室にやってきた。


「エディおはよう!」

「おはよう」


 まだ街に来てそれほど時間は経っていないが、エディは三人と仲良くなっていた。


「それでは今日は、算術を学びましょう」


 全員に小さな黒板と、黒板消しと、それからチョークを渡して、タノ司祭もまた大きな黒板を手にした。


「エディは前回のおさらいとして足し算を」

「はい!」


 タノ司祭はそう言って、流麗な筆致で数字を黒板に書き出す。一桁の数字同士の足し算と、それから少し難しい繰り上がりの足し算。

 エディ以外の三人の家は商店なので、足し算は得意だ。教会で学ぶよりも前から、親がやっているのを見て覚えていた。

 一方のエディはヴィムの弟子になってからはじめて学び出したが、算数を始めたといったら買い物に行く度にヴィムに計算をさせられるようになった。

 焦ることなく行えば、三桁の算数までなら行えるようにもなってきている。


「マノロは引き算」

「はーい」


 二桁の引き算と、三桁の引き算。

 マノロは算数が嫌いではないから、特に難しいとは感じなかった。もっとも、タノ先生が黒板にかいた数字を自分の黒板に書き写す方が難しかったのだが。

 どうしても、3と5と8がうまく書けないし、1と7がにてしまう。そのせいで答えを間違えることも度々あった。


「ヨハネスとペリーヌは、掛け算と割り算だね」

「はい」

「はい」


 エディやマノロより年嵩の二人は、エディから見たらとても難しいことをしていた。どうしたらそうなるのか、という説明を受けていないから、特にそう感じるのかもしれない。

 四人はタノ司祭が書いた問題をそれぞれの小さな黒板に写して、問題を解く。

 チョークが黒板に当たる音と、それを消す音と、考え込んで唸る声だけが教室に響く。タノ司祭は机の間を歩いて、悩んでいる子供にヒントを小さな声で与えた。

それによって、しばらくしたら子供たちは続々と問題を解き終わり、タノ司祭を呼ぶ。タノ司祭は子供達の石板を覗き込み、あっていたらその旨を伝えて誉め、間違っていたらその旨を伝えてどこを間違えたかを教えた。


「それじゃあ、次の問題にいこうか」


 全員が問題に正解したところで、タノ司祭は大きな黒板をまた手にとって、次の問題を書き出した。

 エディには足し算を、マノロには引き算を、ペリーヌとヨハネスには掛け算と割り算を。タノ司祭の助言なしに解けるようになるまで、それは繰り返された。


 午前中はそんな風に過ごして、ペリーヌは店の手伝いをするために帰り、エディとマノロとヨハネスはそのまま教室でお弁当を広げた。

マノロとヨハネスの弁当はいつもと同じ、薄く切ったライ麦のパンを軽く炙ったものに、薄切りのハムを挟んだものだ。

 エディの弁当も似たようなものではあるのだが、こちらは購入したパンの内何が残っているかによって変わってくる。具材も同様で、前日の残りだったり当日の朝食の残りだったり、それもなければ何かを適当に挟んで持ってきていた。


「僕今日の帰りに、仕立て屋さんに行くんだ」


 机の上にお弁当を広げて、エディは嬉そうはにかみながら、二人に言った。


「ナタリアおばあちゃんのところかな」

「ローブだ! 弟子の場合は、ハーフマントっていうんだっけ?

 俺の父ちゃんも似たようなの持ってるよ!」


 この街で、ヴィムが行く仕立て屋と言えば魔方陣の刺されたローブを取り扱うナタリアのところだけである。


「うん、師匠せんせいもその人のところだって言ってた」


 今日のエディのサンドイッチは、残っていたライ麦のパンを軽く焼いたものに、ハムとベーコンの切れ端を挟んだものである。何故二種類かと言えば、一種類だけだと足りなかったからだ。

 おそらく今日、仕立て屋さんに行った後に買い出しにも行くのだろう。


「僕のローブは、師匠せんせいと同じようなものではなくて、自警団の人たちと同じだって師匠せんせいは言ってたよ」

「そうか、エディはまだ魔法使えないから」

「うん、ただ師匠せんせいの近くで魔法を見るためだけだからって」

「へぇー」

「なるほどなぁ」


 サンドイッチを食べ終わった三人は、教会の中庭で遊ぶこともある。若い神官が混ざって鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたりする。彼らは、成人したてというだけであまりヨハネスと年が変わらないものも多いのだ。

 そして彼らの大半はこの街の孤児院出身であるがゆえに、ヨハネスやマノロとも仲がよかった。


次回更新は火曜日18時です

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