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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
16/28

エディの長い一日 -12

前回のあらすじ


お店でこれからの説明をしている時にお客さんが来ました

 赤子を産むという姉の見舞いを兼ねて実家に一度帰るという冒険者のルンゲに、一番安価なランタンを売ったヴィムとエディは、店内の説明に戻ろうとした。夕方ではあるが、まだ窓の外は夕焼けになってはいない。


「どこまで説明したんだったかな」

「こっち側の棚の説明の前に、看板の紋章について教えてもらいました」

「ああ、そうだったか。それじゃあ、そこから再開しよう。

 こちらの棚にある物は、魔法がかかっている物ではない。色々なものはあるが、ここにある物は街の他の場所でも入手することが可能だ。油に関しては、専門に扱ってる店から買いはしたが、もう長い事ここにあるから、油屋を案内したほうがいい」


 メインストリートにある油屋や雑貨やなど、普通のランタンを取り扱う店をヴィムはエディに教えた。とはいえ今は口頭だけなので、後日店舗に一緒に行こうと約束をする。仕事に必要な店はヴィムが教えるつもりはあるが、その内教会で一緒に学んでいるヨハネスやマノロ、ペリーヌと一緒に遊ぶようになって、彼等から街の事は学ぶだろう。

 かつてヴィムが、幼馴染のベッティやダリウス、アントン達と遊んでいた時のように。


「朝、学校に行く前か朝食の前、どちらでも構わないから、店内にはたきをかけてほしい。上から下へ、埃を落とすんだ。

 魔法のランタンも、魔法のかかっていないこれらも同じように、どちらも売り物だから綺麗にしておいてほしい」


 まあ、どちらもあまり売れていないのが現状ではあるのだが。


「明日からは、弁当を持って学校に行く。昼を挟んで午後も勉強をして、帰ってきたらここのカウンターで書き取りの練習をするといい。その進行具合を見て、魔法の勉強を始めよう」


 いいね? とヴィムはエディに問いかけた。

 エディに否やなどあるはずもなく、彼はただ力強く頷いた。


「それじゃあ勉強を始めよう。と言いたいところだが、実はまだ説明が残っている。

 教会の鐘楼は見ただろう?」

「はい。風向きによっては、ぼくの村まで聞こえてきました」

「ニベル村はそんなに遠くないからね。そうか、聞こえるのか。

 あの鐘は、朝昼夜と時間を告げるほかに、火事があった時に教えてくれる。法則はまた詳しく教えるが、その三度意外に鳴らされた時、私達は現場に行かなくてはならない」


 ヴィムは灯火の魔導師である。そのためにこの街にいる。


「さて、私達が相対するものは炎だ。

 ……そうだな、説明するより、現物を見せた方が早いか。私の部屋へ行こう」


 店内から居住区へと入り、台所のドアの向うにある扉を押し開けると、そこがヴィムの私室である。昨日家の中を案内された時に教えられ、その際何かあったら声をかけるようにとエディは言われているが、昨日の今日でそこに声をかけたことはなかった。

 部屋の中にあるクローゼット開けると、何枚かのローブの他に、赤いローブが四枚かけられていた。肩口には、消防団の紋章が縫い取られている。


「火事の現場に赴くときは、このローブを着る。

 これには、二種類の魔法が縫い込まれている。裾のところに刺繍があるだろう」


 裾をぐるりと縁取る、銀糸の刺繍。その上には、金の糸で同じようにぐるりと刺繍が施されていた。


「この刺繍は、ただの裾飾りに見えるかもしれないが、糸に魔力を通し、魔法を刻んでもらっている。

 銀糸の魔法陣は、耐火、耐熱。火の元に直接行くからね、近づくだけでもすごく熱い。この魔法陣は、完全に熱さを遮断してはくれないが、かなり軽減してくれる」


 ちなみに今羽織ってみても、その恩恵を受けることはできない。


「こちらの金糸は、魔法を効率よく使うための魔法陣だ。

 この辺りは特にね、現場が山の上だったりする。山を登るだけで疲れ果てて、うまく消火できないなどあってはならない。これは、その為のものだ」


 エディにはまだよくわからない。疲れていては、魔法が使えないらしいということは分かる。なんとなく。しかしそれだけだ。まだ彼は、魔法を習っていないのだから。


「さてそんなローブがここには四着ある。

 魔法陣の刺繍の数が増えればそれだけ、効果が重複して強くなる。そういう風に魔法陣を配置し、刺繍をしてもらった」

師匠せんせいが、この魔法陣を作ったんですか」

「昔からある図案に、私が手を加えたんだ。この街は周り中が山で、すぐに火災の規模が大きくなっていく。火元にたどり着くまでに山を登らなければならないし、尾根を超えなければならない時もある。

 私だけじゃない、消防団の人達も同じだ。ああ、彼等の上着にも、同じように耐火耐熱の魔法陣を刺繍してもらったよ」


 その上着があるからこそ、彼等は自分たちで小火位なら消化してしまう。

 この街の家々を石造りにし、石畳を敷こうとしたのは、ヴィムの祖父やその先代たちである。工事が終わったのも、ヴィムが産まれる前の話だ。灯火の魔導師のローブに耐火耐熱の魔法陣が刻まれているのも以前からあった。

 しかし同じ魔法陣を、消防団の上着に刻んだのはヴィムの代になってからだ。


「エディのローブも、後日作りに行く。君は弟子だから、私のこれと同じようなローブではなく、ハーフマントになるけれどね。

 エディ、そのローブが出来るまで、君を現場には連れて行くことが出来ない。何故かはわかるね?」

「はい。危険だからです。

 ……あの、そのローブが出来たら、ぼくも行ってもいいんですか?」

「もちろん、駄目な時は駄目という。五年前のニベル村の時にように嵐の時なら連れては行かない。先日のニベル村近くの時のように、晴れていたら連れて行こう。あれは夜だったから、連れては行かなかっただろうが」


 本格的なともしびの魔法使いとしての勉強は、王都にある王立魔法学院に入学してからになる。けれどその前、こうして灯火の魔導師の弟子となった時に、師匠のすぐそばでその魔法を見るのも勉強である。


20190804 誤字修正

20190916 本文一部修正。具体的には、ローブを作りに行く日を明日から後日に変えました


やっとここまできたぞ!

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