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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
14/28

エディの長い一日 -10

前回のあらすじ

買い出しを終えて、店に帰りました

店で、魔道具について説明をしました

 ヴィムとエディは買ってきた食材を棚に収め、物置から必要なものを取り出し、今度はストックを収めた。


「それじゃあエディ、店に行こう」


 小さな黒板とチョークをエディに持たせたまま、ヴィムは店に入る。店はまだ、クローズのままだ。それでもドアのガラスにかけられた布は外し、店内のランプの灯りが外へと漏れるようにする。必要があれば、これで入ってくるだろう。鍵は開けてある。入って来なくても、中をのぞき込んでノックなりなんなりしてくるはずだ。

 街の人間は知っている。ここが、魔法のランプを取り扱う店であるよりも、ともしびの魔法使いの弟子を育てる場所であるということを。


「ここにあるランタンは、魔法の炎が入っているランタンだ」


 店の左右には棚があり、カウンター側から見ると右側に火の入ったランタンが行儀よく陳列されている。淡いオレンジ色の炎のランタン、それからエディが貰ったのと同じ緑色の炎のランタン。


「おいで。

 ここに値札が書いてある。まだエディには読めないだろうが、この札には値段の他にいつまでもつか、が書いてある」


 棚に貼り付けてある文字の描かれた紙を指で指示しながら、ヴィムが説明をする。

 一番安いものはオレンジ色の炎が入ったランタンで、あと一週間ほどしか持たないという。


「……これは、君の村で起こった火事の時の炎だ」


 売れ残りは多くない。

 落雷から発生した炎は、五年もこの棚で、ある店の窯の中で、教会の灯りとして、どこかの家の食卓を灯して、ある冒険者の命綱として輝いた。それから、エディの姉弟子の魔法の媒体として。


「魔法の炎は水では消えない。特にあの時の火事は、嵐の中でも消えなかった。雨が、風が、あの炎を煽ったが消えなかったんだ」


 だから、安くはない。安くはないが、残り一週間だからここにある中では一番安い。


「後でひとつエディの部屋に持って帰りなさい。これは君の力にはならないが、君の心の力にはなるだろう」


 エディの父と祖父を奪った時の炎ではあるが、このランタンに封じ込めることによってそれ以上の命を奪うことをしなかった。きっと、エディの思い出になるだろう。


「ありがとうございます」


 そっと手に取ってみると、それはあの緑色の炎と違って、踊ったりはしなかった。


「さて話をもどそう。

 同じ色をしているが、こっちは先日ニベル村の近くであった火事の炎だ。こっちは新しいが、火の規模が小さいうちに収めることが出来たから、一年ほどしか持たない」

「これも魔道具、なんですか」

「ああうん、そうなる。そうなるんだが、あの棚や鞄とは違う」


 どう説明したものかな、とヴィムは視線を足元にさまよわせた。

 

「あれらは、魔法を刻んだものだ。棚に彫刻、布に刺繍。けれどこれらは、ランタンをよく見てみるといい。ランタンに魔法陣は刻み込んでいないだろう?」


 ランタンそのものに魔法陣を刻み込み、魔法の炎が灯るようなものを作ることもできるだろう。けれど、ヴィムの店に置いてあるランタンは違う。


「これは、魔法で炎を封じたランタンになる。一般人にとっては同じものでも、私達魔法使いにとっては異なるものだ」


 魔法を刻んだものは、起動の際に魔力をそれなりに使用する。ヴィムの鞄も同様で、抜き出す時には魔力は不要だが、入れる時には魔力を使う。ヴィムのような魔導師にとっては些細な魔力だが、一般の者にとっては入れるだけで疲れるだろう。

 一方でこのランタンは魔力を必要としない。燃え盛った炎を封じ込める際には大量に魔力を必要とするが、それをランタンに入れる際にはそれほどの魔力を使わない。一度封じ込められてしまえば、後は炎が消えるまで灯ったままだ。

 故に、広義では魔道具になる。しかし狭義では魔道具にはならない。という状況になっているのだ。


「説明を続けよう。

 このオレンジ色の炎は、大体が森林火災のものだ。この街には、古くから灯火の魔導師がいる。その頃から、家は石を積み、街路に石畳を敷き、小火程度なら有志の消防団が消し止めてしまう」

「すごいですね」

「ありがたい事だ」


 そのため、ヴィムの仕事は森林火災の消火に終始することが出来ている。それほどの規模になってしまえば、ヴィムでなければ消せない、というのもあるが。


「この街の四方は山に囲まれ、森が深い。風も強く、一度火が付けばすぐに広がってしまうことも少なくない。火災の原因は多岐にわたる。エディの村であったように、落雷。この間は風が強かっただろう。おそらく風で葉が擦れたことによる発火、だろうな」


 そんな事で発火するのかと、エディは驚いてヴィムの顔を見上げた。この辺りは乾燥していて、簡単に火がついてしまうというのもあるにはあるが、それだけではない。


「気持ちはわかるよ。私も初めて聞いたときは耳を疑った」


 火を熾す際には、火打ち石で火花を飛ばす。それと同じように、擦り合わせることで火花を飛ばすのだと、ヴィムはエディに説明した。説明したが、エディはどこか納得できないようだった。納得できない、というよりは、理解できないという方が、近いだろうか。


「一方でこの緑色の炎。こいつは、魔獣の火喰いトカゲの炎だ」


 この辺りの山には、火喰いトカゲと呼ばれる魔獣が群れている。こいつらの炎は通常と違い緑色をしていた。喉の奥に火炎袋があり、こいつを利用して獲物を焼いて食べる。その際、火が木々にうつり火事となる。長く、そうされてきたが近年そうではないことが判明した。

 獲物をしとめる際にこの火炎袋から火を吐くのはその通りなのだが、その程度なら木々に燃え移りはしないのだ。ごくたまに火喰いトカゲは大量発生し、彼等の食事となる獲物がいなくなり、仕方なく共食いをすることになる。その際、同種である火喰いトカゲをしとめるために、通常より大量の炎を吐き出す。それも、大量の火喰いトカゲが、だ。

 火喰いトカゲの炎は、通常の火災の炎と違い踏んでも水をかけても消えることはない。魔法で消化するしかないのだ。


「昨今、この火喰いトカゲは一定数にまで増えなければ問題ないということが分かったんだよ。それを発見してくれたのが、この街の冒険者ギルドの連中だ」


 彼等としても、それはメリットである。

 すなわち、常に火喰いトカゲを狩りに行く仕事がある、ということだ。


「彼等は森の奥に分け入り、火喰いトカゲを討伐する。討伐の証としてトカゲを持ち帰ってくるんだ。私にはよくわからないが、薬になったり色々と使い道はあるらしい」


 この街の周辺は山だから使用できないが、火炎袋は武器として使用することもできる。魔法の炎が溜めこまれた袋であるわけだから、それなりに高価に取引されているようだ。革も炎に耐性のある防具が作れるし、綺麗な爪や牙はアクセサリーの材料になる。

 食肉にだけ適さないのが、冒険者たちとしては一番辛いところだったのは、内緒の話だ。


「腕の立つ者だったり、慣れた者だったりすれば問題ないんだが、たまに駆出しが失敗して、とどめを刺しそびれた状態で街まで持ち帰ってしまう。

 こいつは街で生き返って暴れた火喰いトカゲの炎を封じたものだ」


 火喰いトカゲの炎は、魔法の炎である。

 魔法の炎を封じ込めた魔法のランプは通常の火災のランプより長持ちし、十年は持つだろう。だから、値段も他の二つに比べると割高になっている。


この調子だとだいぶ先になりますが、火喰いトカゲを封じるエピソードも書きたいと思っています。

いつになるだろう。


2019.03.30 誤字脱字言い回しとか少し書きなおし

20190804 誤字など修正しました。すでに一度やってるのにまだある不思議。

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