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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
12/28

エディの長い一日 -8

前回のあらすじ

冒険者ギルドで依頼を出しました。

ヴィムの知り合いの、ハルトムートとゾランが受けてくれました。

 ヴィムとエディは裏道にある冒険者の店を後にして、メインストリートへと戻ってきた。太陽はまだまだ高く、昼時である。通りに面した店屋からは、いい匂いが流れてくる。エディの住んでいた村では嗅ぎなれない匂いが、辺りに満ちている。いろんな料理店が軒を連ねているから、そのせいだろうか。


「エディ、何か食べたいものはある?」


 前を歩くヴィムが、少しだけ振り返ってエディに問いかけた。そんな事を言われても、エディはこの街に来たのは昨日で、どんな店があるかわからない。学校では特に、そんな話にはならなかった。


「ああ、そうは言ってもどんなものがあるかわからないか」


 ヴィムが正確にエディの考えてることを言い当てる。エディは、その言葉に頷いた。

 ヴィムは、食べたい店はあるか、と聞いたわけではない。肉が食べたい、とか、魚がいい、とか。そういう形で何が食べたいのかを聞いたつもりだった。

 前の弟子のエリーナは、その辺りすごく主張してくれる子だったのでありがたかった。あっちの店がこんなフェアをやるそうだとか、あっちの店の新メニューはヴィムが好きそうだとか、色々調べては連れ出してくれた。

 エリーナの前のワイアットは、料理を教えたら気に入ったらしく、色々と作るようになってしまった。さて、エディはどうなるだろう。

 エディがヴィムの元に来たのは昨日で、ニベル村での五年前の火事をヴィムが収めたのを見て、ともしびの魔法使いになりたいと思ったのだ。彼がヴィムを見る視線にはまだ憧れが詰まっている。そんな尊敬する師匠に、おいそれとわがままを言えるはずもない。


「じゃあ今日はあっちで串焼きを食べよう。おじさんたちから聞いたことは?」

「ヘルガの店、って所が美味しいって言ってるのを聞いたことがあったような」

「ははは、ずいぶん街に詳しいおじさんだ。じゃあそこに行ってみよう。

 エディ、おじさんたちから聞いて行ってみたいと思った店を考えておいてくれ。この街にいる間に、ひとつずついってみよう」

「いいんですか?」

「ああ、よほどの高級店でない限りはね。後まあ、毎日作るのも飽きるじゃないか」


 ヴィムはあまり料理が得意でもなければ好きでもない。だからできるだけ弟子に覚えさせるようにしているが、その為にも美味しい食事をさせる必要はあるとも考えている。美味しい食事をして、それを再現したいと思って貰えればめっけものだからだ。もちろん出来ないわけではないし、苦手ではない、とは、ヴィムの名誉のために添えておく。


 二人はメインストリート沿いにある一軒の店に入った。昼飯時だから、ここも混雑しているが、何とか二人がけのテーブル席を見つけてそこに滑り込んだ。

 ここのランチメニューは一種類で、テーブルに着くとまず籠いっぱいのパンが積み上げられる。


「あら魔導師様。新しいお弟子さん?」

「ああ、昨日来たエディという。よろしく」

「エディです。よろしくお願いします」


 ふくよかな女性と、今日になって何度目かの挨拶をする。ウェイトレスであり、店の看板にもなっているヘルガの言葉に、この街で暮らしているだろう者たちは食事の手を止め、ヴィムとエディの方を見た。そして口々に、挨拶をした。みんな、やきもきしながら待っていたのだ。新しい弟子が来るのを。


「さて坊ちゃん、うちは量が多いけどどうする?」

「半分で頼むよ、ヘルガ。残すのはもったいない」

「残った半分は包みますか?」

「そうして貰えると助かる。夕飯の足しにしよう」

「はいはい。まったく、魔導師様は国から結構いいお給金貰ってるはずなのに、いつまで経っても庶民だねぇ」

「両親は庶民だったからね。どうしても」

「あたしたちとしてはありがたいですけどね。それじゃあ持ってきますから、パンでも齧って待っていてください」


 ヴィムと諸々取り決めて、ヘルガは最後にエディの頭をひとつ撫でて、小さく頑張ってねと笑顔を向けて、厨房へと戻っていった。

 エディがともしびの魔法使いになることを応援してくれる人は、エディの家族や、エディの村人たちだけではない。この街の人達も同様なのだと知って、エディは嬉しくなった。エディの村で火災があったということは、この街でも起きるのだろう。いや、この街が石造りだということは、村よりも火災が頻繁だったのかもしれない。それならば尚のこと、灯火の魔導師に弟子が来て、新しいともしびの魔法使いの見習いが出来るのは、良い事なのだろう。

 期待に応えられるように頑張りたいと、エディは思う。


「さてとりあえず、今日のこの後の事だ」

「その前に、さっき行った所の事を聞いてもいいですか」

「……ああ、そういえば言ってなかったな。あそこは冒険者ギルド、と呼ばれるところだ。聞いたことは?」

「街に行ったおじさんから、少し」


 以前、冒険者たちはならず者と呼ばれていた。定職につくことをせず、騎士にも傭兵にもなれなかった彼等は、国中で持て余された。国は平和で、戦争もない。燻る彼等をどうにか出来ないかと考えられて作られたのが、ごくごく初期の冒険者ギルドだ。

 彼等はあぶれてしまっただけで、決して盗賊行為や山賊行為を働いてはいなかった。そういう者達で話し合い、たまたま己の力を持て余していた領主の三男を見つけて話をし、領主に話がいき、彼等は冒険者になった。彼等の食い扶持は主に、魔物の討伐である。全滅をさせる必要はなく、村や町を襲う個体を倒す。冒険者たちに余裕があれば、山や森に分け入って、それらの個体を間引いた。

 初期の頃は、それらは領主の名の元依頼が出された。彼の男爵の領地は、冒険者たちのおかげで魔獣に襲われることが少なくなり、富んだ。国の事業として敷かれた街道であっても、盗賊や山賊、魔獣に襲われることもあったため、これの護衛も求められた。大きな商会の護衛には傭兵たちが雇われたが、あまり金のない行商人の片道だけといった依頼には彼等は難色を示した。そこに、仕事があった。

 次第に、冒険者制度を取り入れる領地が増えた。あぶれてしまっていた若者たちは、それぞれが得意な事を見つけることが出来た。色々な領地で冒険者たちが出来たが、そこに横のつながりはない。重宝はされたが、彼等はそれでもあぶれた半端者だった。

 今でもそうだ。先刻会ったハルトムートやゾラン、他にも吟遊詩人の歌になるほどの冒険者が頭角を現し、子供たちが憧れたりもするが、それでも。冒険者の過半数は、半端者で、燻っていて、他に何にもなれなかった者達だ。


「エディ一人で行ったら、まだ危ないかもしれない。けれど私と一緒なら問題がない場所、と覚えておけば今はいいよ」

「ぼくが子どもだから、ですか」

「そうだね」


 ヴィムが冒険者ギルドというものについて説明している間に、ボウルに並々と注がれたスープと、串焼きがテーブルにやってきた。串には、肉と、ソーセージと、人参と、芋が刺されている。どれもじっくりと焼かれ、タレが沁み込み、そして仕上げにパセリが散らしてあった。具材はどれもがエディの拳くらいあり、ヴィムの皿にはそれが二本置かれていた。エディの皿には、半分の一本。

 確かにこれは、二本は食べられそうになかった。


20190804 ちまっと加筆修正

したはず。たぶん。

20190912 誤字修正しました。誤字というか誤用。覚え間違えていたわけではないとおもいたい。

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