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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
11/28

エディの長い一日 -7

前回のあらすじ

手紙をだしに来たら遠くから喧嘩を売られましたがヴィムは無視しました

 ヴィムに喧嘩を売るように、食堂にいる男が何か文句を言っている。ヴィムは苦笑こそ浮かべているが、そちらを振り返りはしない。


「子供連れてさあ、なんだよ」

「ばっかお前、黙れよこの脳みそ筋肉!」

「ああ、んだよルイ。俺間違ってねぇだろうがよ!」

「間違いも大間違いだよ! あのひと灯火の魔導師様じゃねぇか!」

「だからなんだよ、それがよ! そんなえらいのかよ!」


 喧嘩になりつつあるが、食堂にいる他の大人たちは気にもしていないようだ。ちらりとそちらを見るが、誰も止めようとはしない。

 ルイ、と呼ばれた男はヴィムと同じようにローブを着て、文句を言ってきた男を手にしていた杖で殴っている。大して力は入れていないのか、殴られている方は痛いと言っているが、周りは止める気配がない。


「この街では最上級に偉いわ、馬鹿! ともしび、さざなみ、そよかぜ、おおつちの魔法使いはそもそも魔法使いの中でも特に優秀な者しかなれない特殊職だ、たわけ!

 前にも言ったよな、このぼんくら。魔法使いはそもそも馬鹿じゃなれねぇんだよ。魔力のあるとても頭のいい人がなれるの。お前みたいに満足に読書きもできないとそもそも魔導書読めないの。

魔導師って! 言うのは! その! 魔法使いに!! 魔法を!! 教えられる人のことを言うの!!!」


「悪かった、俺が悪かったから! だから本当いてえって!」

「殴ってんだからいてえに決まってんだろ! 殴らねぇとお前覚えねえだろ浅慮で軽率でうかつな、馬鹿なんだからよ!」


 彼等と同じテーブルを囲んでいる他の者達が、周りに頭を下げて謝っている。

 エディは驚いて、師匠を見上げたが、ヴィムは全く意にも返していないようだ。よくあることなのか、それともあの魔法使いの反応が正しいのか。

 エディの視線に気が付いて、ヴィムはエディに笑いかける。


「彼の語彙は凄いな。あんなに同じことを違う言葉で言い募れるなら、魔力が伴えばそれなりに強い魔法使いになれるだろうに」


 魔法使いは、どれだけ難しい魔導書が読めようが、魔力と魔力の扱いによって篩い分けられてしまう。

 どれだけ大きな魔力を持っていても、それをうまいこと扱えなければ三流でしかない。またどれほど持っている魔力が小さくても、それを効果的に操ることが出来れば、一流の魔法使いと名を馳せることもできる。

 そしてそれは、魔法使い同士なら外から見てわかってしまうのだ。

 喧嘩している魔法使いの媒体は、杖だ。それはすなわち、彼の持つ魔力が乏しく、またそれほど扱いがうまい訳でもないということだろう。対するヴィムは、何も媒体を持っていないように見える。実際のところ必要な媒体は彼とは違うというだけなのだが、それを知らぬ者からは、ヴィムの肩書である灯火の魔導師と相まって、崇拝にも似た気持ちを抱かせる。


「あっれ、ヴィムさんじゃないですか。どうしたんすか」

「一緒におちびがいるってことは、新しい弟子がきたの?」


 カラン、カラン。

 ドアベルが鳴って、ヴィムと同じくらいの年ごろの男たちが店に入ってくる。彼等はヴィムに親しげに話しかけてきた。


「やあ、ゾラン。ハルトムート。

 この子はエディ、御推察の通り新しい弟子だ」

「はじめまして。昨日から師匠せんせいの弟子になりました、エディです」


 新しく入ってきた二人組に、エディは頭を下げた。

 この店にいるからには、彼等もゴロツキとか、ならず者みたいなものなのかもしれないが、なんというか、それとは違う雰囲気を持っているなとエディは感じた。


「よろしく。ぼくはハルトムート。

 君のお師匠様とは王都の魔法学院で同期だったんだ。といっても、ヴィムとは専門が違ってね。学院で一緒に授業を受けたことはなかったけれど、よく図書館で一緒に写本をした仲だ」

「その仲っていつも思うけどどうなんだ。

 俺はゾラン。ハルの相棒の剣士だ。よろしく、未来の灯火の魔法使い」


 気さくな二人組は、エディにも気さくだった。見下すでもなく、必要以上に持ち上げるでもなく。おそらくハルトムートという魔法使いが、ヴィムと旧知というのが大きいのだろう。彼等はこの街で、エディの前の三人の弟子を王都へと送り届けていた。


「アンナさん、ヴィムからの依頼は? いや何となくわかるけどさ」


 ハルトムートは柔らかい笑顔のまま、受付のアンナに声をかける。

 今はこれといって仕事もないし、ここで何もせずにいるくらいなら、知人の仕事を受けてもいいはずだ。仕事の内容を聞いてから、相棒のゾランと相談しても問題もない。


「ああ、今貼り出すところです。王都の学院まで、お手紙の配達ですね」


 アンナは宛先を言わない。それは、仕事を受けてから聞くべきだからだ。

 しかし王都の魔法学院出身のハルトムートには、なんとなくだが分かったのだろう。相棒を振り返って、短く意思の確認をする。ゾランが頷いたので、この依頼は二人が受けることとなった。

 そこから先は、いや正確には依頼さえしてしまえば、誰が受けようともヴィムの知るところではない。顔いっぱいに疑問符を浮かべているエディの背中を押して、ヴィムは建物を出ることにした。


「それじゃアンナさん、後はお願いいたします」

「はい、後は冒険者ギルドにお任せ下さい!」


 最後に受付に一声かけ、ヴィムとエディは冒険者ギルドを後にした。


2019/03/23 ゾランとハルトムート関係修正。

 もう一つの話の方で、二人ともヴィムに対して敬語なのはおかしいなと思って書きなおしました。


20190804 一部加筆修正

20190912 誤字修正。なぜそこに気がつかなかった!(報告ありがとうございます

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