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灯火の魔導師  作者: 稲葉 鈴
10/28

エディの長い一日 -6

前回のあらすじ

午前中のお勉強が終わりました

明日は一緒にご飯を食べようね、とエディは約束しましたとさ

 教会の門のところで合流して、ヴィムとエディはメインストリートを歩く。道の幅は広く、通りに敷き詰められた石畳にはどうやら、タイルを埋め込んで何かの柄を作っているらしい。歩く人が多すぎて、それが何かはエディにはわからない。


「腹が減っているだろうが、その前に一か所行きたい場所があるんだ。それほど時間はかからないから、少しついてきてくれ」

「はい!」


 きょろきょろとメインストリートにある店を眺めながら、ヴィムの後ろについて歩くことしばし。メインストリートよりももっと人の多い、広場に出た。吟遊詩人が何人か歌っていて、店を構えていない行商人が露店を出して商売をしている。


「この広場には、毎月十のつく日に市が立つ。丁度昨日が市の日で、今日はまだ少し店が残ってるな」

「はい、昨日はおじさんが、その市に買い物に来たついでに、ぼくを連れてきてくれたんです」


 エディの言葉に、なるほどとヴィムは口の中で小さく呟いた。エディは近隣の村の出だから、そういったことは知っているかもしれない。最も、大人たちの話しぶりから聞きかじった知識だろうから、知っているだろうと教えなくていい訳でもない。

 知っていればまた今のように、補足してくれるだろう。


「この街では、市の日だけ露店を出していいわけではない。市の開かれる日以外は露店を出してはいけない、という街もある。教会に申請すれば、いつでも露店を開けたはずだ」


 もっと大きな街では、露店の使用許可などはまとめて商業ギルドが取り仕切っているが、この街ではいまだに教会が取り仕切っている。教会を中心に発展してきた街の、名残だ。教会の司祭たちは人が良く、街の人達から慕われている。そのため、これまで大きな揉め事は起っていない。だからこそ、今でもこの街の商業を教会が取り仕切っていられるのだ。

 とはいえこの街に商業ギルドがない訳ではなく、実際のところは商業ギルドの窓口が教会にあるだけだったりする。街に住まう人々のほとんどはその辺りを勘違いしているが、教会も商業ギルドもその辺りを注意するつもりはない。

 この街においては、教会と商業ギルドは、ほとんど同じものだからだ。


 広場を東の門の方へは抜けずに、ヴィムは左へと曲がった。そして少し歩いて、また左へと曲がる。

 二本ほど、メインストリートから裏へ入ったあたりだろうか。

 確かにこの辺りの建物も石造りだし、地面もむき出しの土ではなく石畳だ。メインストリートのようにタイルが埋め込まれているでもなく、雨の日には滑りそうだとぼんやりエディは思う。

 通りには体格がよく、少しならず者のような雰囲気の、柄の悪い男たちが歩いている。彼等はヴィムを一瞥すると、そっと頭を下げる者もいた。大半は、特に絡むでもなく過ぎ去っていく。


「裏通りでも、村の人達から聞いていたより柄が悪くはないんですね」

「この辺りはな。場所によっては、エディは一人では行ってはいけないよ。いや、私も一人では踏み込めないような所はあるけれど」


 この街にはそんな危険な場所はないから、安心していい。と、ヴィムは振り返ってエディに笑いかけた。

 しばらく歩いて、ヴィムは盾に剣と槍が描かれた看板のかかっている大きな建物の扉を開いた。

 カラン、カラン。

 ドアベルが鳴り、人の視線がこちらに集まるのをエディは感じた。

 扉の少し左の向かいには、大きな掲示板があって、コルク製のボードに気の札が何枚かかけてある。その他には、羊皮紙が何枚か貼ってあった。

 その右の隣には、お店のカウンターのようなところがあって、何人かの人が忙しそうに働いていた。売っているものは並べ慣れていないのか、エディには見えない。

 左の方は、どうやら食堂になっているらしく、幾人かの大人が丸いテーブルを囲んでいた。ゴロツキのような、ならず者のような、さっきすれ違った人たちと同じようで、エディはカウンターに向かうヴィムについていった。


「こんにちは、アンナさん」

「あらヴィムさん。お久しぶりです。エリーナに手紙ですか?」

「いや、エリーナへはまだ出せませんよ。あの子が王都に行ったのは秋でしょう、まだもうしばらくは、手紙を書いてもいいとは言われないんじゃないかな」


「なんだ、依頼じゃないのか」


 食堂の方から、そんな声が聞こえる。

 どうやら、ヴィムが何か依頼をするのではないかと、こちらに注意を払っていただけらしい。


「エリーナではなく、これは王都の魔法学院に出したい手紙です。お願いできますか」

「はい、承知しました。それではこちらに必要事項の記入をお願いします」


 ヴィムは持っていた鞄から一通の白い封筒を出し、それをアンナに渡した。

 ヴィムの髪とよく似たボルドー色の封蝋に押されている紋章は、巻物の中にランタン。それは、灯火の魔導師からの書簡であることを示すものだ。アンナやエディにはわからないが、これがヴィムからの書簡だと表す文様も、どこかにあるらしい。

 実はこの、ランタンの形に意味がある。ランタンと一口に言っても、四角いカンテラ型のもの、円筒型のもの、さらに油と芯だけを入れたものなど、多岐にわたる。ヴィムの店に売っている物も、色々な形状があるが、ヴィムが自分のランタンとして使っている物は丸いガラスグローブを持っている。この封蝋に押された紋章は、彼の持つランタンである。


「なんだよ、手紙くらいで一々ここ来るなよなぁ。もっと金になる依頼出せよ」


 先ほどの男が、また聞こえるほどの声で何か言っていたが、聞こえているはずのヴィムはそ知らぬ顔をしていた。


20190804 一部加筆修正

ものすごい誤字を見つけたんですが、なぜもっと早くに気がつかなかったのか。

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