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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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極秘事項と千刃祭【一】


 激動の剣王祭が終わり、数日の時が流れた。


 九月の初旬。


 午前の授業をこなした俺とリアとローズの三人は、お弁当箱を片手に生徒会室へと向かっていた。


「――最近、少し涼しくなってきたな」


 俺は窓の外を見ながら、二人に話を振った。


「そうね。今ぐらいの気候が好きかなぁ」


「ふむ、私はもう少し涼しい方が好みだ」


 リアとローズはそう言うと、チラリと視線をこちらに向けた。


「俺は……そうだな。秋はほどよい涼しさで落ち着いて素振りができるし、結構好きな季節だぞ」


「それじゃ冬は?」


 リアは小首を傾げて問い掛けた。


「おっ、冬もいいな。寒さで身も心も引き締まって、一振り一振りに集中できる」


「ほぅ、では春はどうだ?」


 今度はローズが質問を投げ掛けた。


「うーん、春もいいな。暖かい気候で気持ちよく剣が振れるからな」


「「それじゃ夏は?」」


 リアとローズは同時にそう言った。


「夏もいいなぁ……。特に過酷な暑さがいい。『まさに今、修業をしている!』って感じが最高だ」


「ふふっ。アレンったら、全部修業が基準なのね……っ」


「まぁ、『修業の虫』であるアレンらしいな」


「そ、そうか……?」


 三人でそんな話をしていると、気が付けば生徒会室の前に到着していた。


 ノックをして入室許可をもらってから扉を開く。


「おはようございます、会長」


「おはよう。アレンくん、リアさん、ローズさん」


 一足先に生徒会室へ到着していた会長は、そう言って出迎えてくれた。

 その奥では、ソファに腰掛けたリリム先輩とフェリス先輩がこちらに手を振っていた。


「さっ、みんな揃ったところで――早速、定例会議を始めましょうか!」


 会長が手を打ち、恒例の『名ばかり定例会議』が始まったのだった。


 それからはいつも通り――みんなでお弁当を食べながら、いろいろな話をして楽しい時を過ごした。


 会長の話によると――副会長のセバスさんは、いまだ拘留中とのことだ。


 なんでも黒い外套(がいとう)を着ていたこともあり、黒の組織との関連性を疑われているらしい。

 そのため千刃学院へ復帰するには、もう少し時間がかかるそうだ。


 セバスさんの話が終わったところで、


「――そう言えば、もうすぐ『千刃祭(せんじんさい)』の時期ね。アレンくんのクラスは、何をするか決めた?」


 会長は新しい話を始めた。


「「「……千刃祭?」」」


 俺たち三人が揃って首を傾げていると、


「おや、知らないのかい? 千刃祭は年に一度開かれる学園祭さ!」


「各クラスが出し物をして、学院外からも多くの参加者があるんですけど……」


 リリム先輩とフェリス先輩が、簡単に千刃祭の説明をしてくれた。


(学園祭、か……)


 グラン剣術学院のときは、仲間に入れてもらえなかったから……。

 参加するのは、これが初めてになる。


(それにしても『出し物』か……。いったい、どんなことをするんだろう?)


 ……ちょっと楽しみだな。


「なるほど……その様子だとまだ何も決まっていないみたいね。多分、そのうちホームルームで詳しい話があると思うわ」


 会長はそう言って楽しそうに微笑んだ。

 どうやら千刃祭をかなり楽しみにしているようだ。


「会長たちのクラスは、もう何をするか決めたんですか?」


「えぇ、もちろんよ。私たち二年A組は――」


「――三教室ぶち抜きの超特大お化け屋敷だぜ!」


「ちなみに総監督は私……。けっこう自信あるんですけど……」


 そう言って三人は、両手を前に出した『お化けのポーズ』を取った。


「ふふっ、みんな来てくれるわよね?」


「はい、もちろんです」


 俺はそうして元気よく返事をしたが、


「お、お化け屋敷なんて……っ。そ、そんな子ども騙し、時間の無駄よ! ね、ねぇ、ローズ?」


「あ、あぁ……っ! リアの言う通りだ! け、けけ、剣士たるものっ! そんな祭りの出し物に現を抜かさず、日々修業に励むべきだ!」


 ……どうやら二人は『お化け』が苦手らしい。


 それを敏感に察知した会長は、少し意地の悪い笑みを浮かべた。


「……あれぇ? もしかして……怖いのかしら?」


「「こ、怖くない!」」


 会長の見え見えの挑発に乗った二人は、大きな失言をしてしまった。


「そう。怖くないんだったら、ぜひ寄って行ってちょうだい。アレンくんも来てくれるみたいだし……断る理由はないわよね?」


「「……っ」」


 そうして引くに引けなくなった二人は、


「……え、えぇっ! も、もちろんよっ!」


「あ、あぁっ! いいだろう、う、受けて立つ!」


 声を震わせながら、非常に頼りげなくそう言った。

 見れば二人の体は小刻みに震えており、強がっているのは誰の目にも明らかだった。


「り、リア、ローズ……。二人とも怖いんだったら、別に無理しなくても――」


 俺がそうして助け舟を出そうとしたが、


「か、勘違いしないでよね! べ、別にお化けのことなんか、怖くなんてないんだから!」


「そ、そうだぞ! し、失礼なことを言うな、アレン!」


 どうやら二人はあくまで『怖くない』と言い張っており、助け舟を断った。


「ちなみに言っておくとね、二年A組(うち)は去年もお化け屋敷をやったんだけど……。そのときは、恐怖のあまり十人以上が気絶しちゃったのよねぇ……っ」


「ふふふっ! 私たちのお化け屋敷を経験した者は、夜一人でトイレに行けなくなること間違いなしだ!」


「恐怖に震えて欲しいんですけど……」


「「……っ」」


 それを聞いたリアとローズは、割と真剣に固まっていた。


(いや……。怖いのが苦手なら、素直にそう言えばいいのに……)


 そうして俺が苦笑いを浮かべていると、


「むっ……アレンくんは、怖いの平気なのかしら?」


「ふむ、君はこういうのに耐性がありそうだ……。シィとのポーカーでのイカサマと言い、優しそうな顔してけっこう腹黒いからな……」


「普段は基本落ち着いているから、一度驚く姿を見てみたいんですけど……」


 会長たちの矛先は俺の方へ向いた。


「あはは、怖いのが平気というわけではありませんが……。お化けに対しての恐怖心は、あまり無いですね……」


 俺がまだゴザ村にいた頃は、竹爺(たけじい)の怪談話を聞いて夜中眠れなくなったりもしたけれど……。


 さすがに中等部に入った頃ぐらいからは、お化けというものを信じなくなっていた。


「へぇ……。随分と余裕そうね……」


「この落ち着きっぷり……。かなり手強いと見たぞ……っ」


「ちょっと気合を入れないといけないんですけど……」


 何故か会長たちは、やる気に満ち溢れていた。


「……っと、会長。そろそろもうお開きの時間ですよ」


 時計を見れば、昼休み終了の五分前だった。


「もう、楽しい時間はいつもあっという間ね……。それじゃ、アレンくん、リアさん、ローズさん。また明日」


 そうしてお昼の定例会議を終えた俺たちは、生徒会室を後にして午後の授業へ向かったのだった。



 それから午後の授業を全て消化した俺たちは、一度教室へと戻っていた。


「ふぅ……。いい修業になったな」


「えぇ、そうね……。もう体のあちこちがパンパンよ……」


「レイア先生の授業は、中々にハードだからな……っ」


 リアとローズとそんな雑談を交わしながら、帰り支度を進めていると――教室の扉が勢いよく開かれた。


「――諸君、今日も厳しい授業を良く頑張ったな! 帰りのホームルームだが……連絡事項は無しだ! そのまま、帰っていいぞ!」


 レイア先生は手短に帰りのホームルームを終わらせると、


「――アレン、君に少し話がある。この後、一人で(・・・)理事長室まで来てくれ」


 少し硬い声で、俺を呼び出したのだった。


「は、はい、わかりました」


「うむ、待っているぞ」


 彼女は満足気に頷き、教室を後にした。


「……レイアにしては、真面目な顔をしていたわね」


「それも『一人で』とは、どういうことだ……?」


 リアとローズは、怪訝(けげん)な表情で浮かべて首を傾げた。


「まぁ……とりあえず、行ってくるよ」


「……うん。それじゃ私たちは、いつもの場所で修業してるね」


「アレンも話が終わったら、すぐに来てくれよ?」


「あぁ、わかった」


 そうして俺は、リアとローズと分かれてA組の教室を後にした。


 長い廊下を右へ左へと進んで行くと、理事長室へ到着した。

 ゴホンと咳払いをして、ゆっくり黒塗りの扉をノックすると、


「――入れ」


 硬質なレイア先生の声が返ってきた。


「失礼します」


 扉を開けるとそこには――難しい表情の先生が、仕事用の椅子に腰掛けていた。


(……どうしたんだろう? なにか悪いことでもあったのか……?)


 俺がそんなことを考えていると、


「よく来てくれたな、アレン。今日はいくつか話したいことがあるのだが……。まずはそうだな……。あの白百合女学院を破っての剣王祭四位――これは素晴らしい成績だ。おめでとう」


 先生はそう言って優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。――でもこの結果は、会長やリリム先輩、フェリス先輩の力があってのものです」


「あぁ、それはもちろんそうだが……。そう謙遜(けんそん)し過ぎる必要はない。君は予選から本戦まで全戦全勝――出場選手の中で最も優れた成績を残したのだからな。君は強い――もっと自信を持って胸を張るといいさ」


 彼女はさらに話を続けた。


「そしてここからが本題なのだが……。あの『神童』イドラ=ルクスマリアを破ったことにより、今や君の知名度は『全国レベル』となった」


「そ、そうなんですか……?」


「あぁ。『一年生の剣士』で最も名が売れているのは、間違いなく君だ」


 先生ははっきりとそう断言した直後、


「――そこでだ。どうしても一つ、君に話しておかなくてはならないことがある……っ」


 いつになく真面目な顔でそう言った。


「な、なんでしょうか……?」


 俺はゴクリと唾を呑み込み、先生の言葉を待った。


 一分か二分か……理事長室に重苦しい沈黙が降りる。


 そしてついに――彼女はゆっくりと口を開いた。



「あの呪われた――『一億年ボタン』についてだ……っ」



「なっ!?」


 一億年ボタン――信じられない言葉の登場に、


(ど、どうして……先生が一億年ボタンのことを……っ!?)


 俺は驚愕のあまり、大きく目を見開いたのだった。

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