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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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闇と剣王祭【十四】


 出会ってすぐに『人外』『化物』呼ばわりされた俺は、とりあえず自己紹介をすることにした。

 妙な誤解を解くのは、その後からでも遅くはない。


「あの……セバス=チャンドラーさん、ですよね? 初めまして、俺は一年生の――」


 そうして俺が口を開いたところで、


「千刃学院対白百合女学院――五学院同士の激闘を見事制したのは、なんとあの(・・)千刃学院! ついに今年、(いにしえ)の王が復活を果たすのかぁああああっ!?」


 実況解説が声高に千刃学院の勝利を宣言した。


 その直後、


「まさかあの白百合女学院に勝つとはな……っ。今年の千刃学院は、これまでとは違うぞっ!」


「アレン=ロードル、シィ=アークストリア、セバス=チャンドラー……っ! こいつらの名前は覚える価値があるぜ!」


「特にあの『闇の一年生』がやべぇ! 『神童』が負けるなんて誰が想像したよ!?」


 観客たちから、割れんばかりの声援と惜しみない称賛の声が降り注いだ。


「ふっふっふっ! どうだ、凄いだろう!」


「いや、リリムさ……。私たちは普通に負けてるんですけど……」


 リリム先輩が自慢気に胸を張り、そこへフェリス先輩が突っ込みを入れた。


 そんないつも通りの光景を目にした俺が、思わずクスッと笑ったそのとき。


「――見つけたぞ、セバス=チャンドラー!」


 低く渋みのある声が響き渡り、三十人を超える上級聖騎士たちが一斉に会場へ押し入ってきた。


「動くな! 大人しくしろ!」


「セバス=チャンドラー、貴様には多数の傷害容疑が掛けられている。聖騎士協会まで同行願おうか」


「抵抗すれば、痛い目を見ることになるぞ!」


 彼らはみな既に魂装を展開しており、下手な行動を見せればすぐにでも斬り掛かって来る構えだ。


 突然の事態に会場が騒然となる中、


「はぁ……。本当にしつこい人たちですね……」


 セバスさんは、肩を竦めてため息をついた。

 どうやら、何か心当たりがあるようだ。


 すると、


「もう……。セバス、今度はいったい何をしでかしたの?」


 会長は特に驚いた様子もなく、呆れ半分といった様子でそう問い掛けた。


「いえ、何故か異常な(・・・)ほどに(・・・)国境警備が厳しくなっていたので、少し手荒な方法で突破したんですよ。さすがに事情を説明するわけには、いきませんからね……」


 神聖ローネリア帝国は、国の定める渡航禁止国。

『罰ゲームでブラッドダイヤを採りに行くため』などという軽過ぎる事情を話したところで、聖騎士たちが許すわけがない。


(それにしても……ついてない人だな……)


 国境警備が厳しくなったのは、ほんのつい最近のことだ。

 ザク=ボンバールとトール=サモンズ――黒の組織の侵入を許したため、アークストリア家が警備網の見直しと強化を行ったばかりだ。


「はぁ……。セバス、これ以上問題が大きくなる前に、聖騎士協会へ行きなさい。後で迎えを送るから、それまでは大人しくしているのよ?」


「わかりました! ――おい、お前たち会長に感謝するんだな。彼女の慈悲のおかげで、怪我をせずに済んだのだからな」


 この数の上級聖騎士を相手にしながら、セバスさんは自信満々にそう言った。


(す、凄い胆力(たんりょく)だな……っ)


 おそらく全員を相手にしても勝てるという確信があるのだろう。

 しかし――そんなセバスさんの大きな態度に会長は眉根を吊り上げた。


「……セバス? 私、『大人しく』って言ったわよね?」


「か、かしこまりました!」


 そうしてセバスさんは、会長の命令に従って上級聖騎士たちに連行されていった。


(ふ、二人はいったい、どんな関係なんだ……?)


 少し気になったが……それはまた別の機会にでも聞いてみるとしよう。


 そうして――とにもかくにも見事白百合女学院との壮絶な戦いに勝利した俺たちは、千刃学院専用の特別観覧席へ戻った。


 俺が座席に腰を降ろし、ようやく体を落ち着かせたところで、


「……ねぇ。アレンくんは、次の戦いはいけそう?」


 会長は少し躊躇(ためら)いがちにそう問い掛けて来た。 


「そうですね……。相手がイドラさんクラスでなければ、大きな問題はありません」


 彼女との戦いで、霊力を完全に消費したはず(・・)だったのだが……。


 何故か()の調子は、かつてないほどの絶好調(・・・)だった。

 胸の傷はもはや完全に塞がり、体中に尋常ではない活力が(みなぎ)っている。


これ(・・)は、いったいなんだろうか……?)


 霊力以外の何かが体中を走っているような――そんな奇妙な感覚があった。

 しかし、これが初めてというわけではない。

 以前にも一度だけ、これと同じ感覚を経験したことがある。


(あれは確かそう……。部費戦争で会長と一騎打ちをしたときだっけかな……)


 俺がぼんやりとそんな昔のことを思い返していると、


「そ、そう……。あれだけやって、まだ戦えるのね……っ」


 会長はそう言って、苦笑いを浮かべた。


「――リリムとフェリスはどうかしら?」


「あー……。なんというかその、すまない……っ。ちょっと厳しそうだ……っ」


「悪いけど私も……。霊力がもうすっからかんなんですけど……」


 二人はバツの悪い表情を浮かべ、静かに首を横へ振った。


「そっか、私も同じよ……。さっきの副将戦でかなり無理をしたから、もう魂装を展開する余裕もないわ……」


 会長、リリム先輩、フェリス先輩――三人が疲労困憊。

 セバスさんは先の一件で、上級聖騎士に連行されて不在。


 ――正直、これはもうどうしようもない。


「ふぅ……。残念だけど、今回は棄権するしかないわね……」


 会長は大きなため息をつき、決断を下した。


「そう、ですね……」


 少し残念だけど、こればっかりは仕方がない。


 剣士の勝負は真剣勝負。

 今のような満身創痍(まんしんそうい)の状況で無理に戦えば、会長たちが大怪我をしてしまうかもしれない。


 こういうときは無理をせずに体を休め――また次の機会を狙うべきだ。


 すると、


「……ごめんなさいね、アレンくん。先輩の私たちが足をひっぱっちゃって……」


「すまないな、アレンくん……。今日ばかりは、本当に修業不足を痛感したよ……っ」


「……ちょっと申し訳ないんですけど」


 会長、リリム先輩、フェリス先輩が申し訳なさそうに謝ってきた。


 三人の先輩たちに頭を下げられた俺は、


「き、気にしないでください……! そう言えば俺もちょっと体に疲労が溜まっているので、ちょうどよかったです」


 会長たちを傷付けないよう小さな嘘をついて、その場を丸く収めたのだった。



 次の準決勝で棄権した俺たちの最終戦績は――四位だ。


 明日行われる決勝戦に出場することはできないが……。


 白百合女学院を打ち破るという大きな実績を残した俺たちへ、観客のみなさんは大きな拍手を送ってくれた。


(……来年は決勝の舞台に上がれるよう、もっともっと頑張ろう)


 明日からはまたいつも通りの授業が始まる。

 魂装の修業・筋力の向上・闇の操作――当然、日課の素振りも欠かすことはできない。


(ふふっ……やるべきことが、まだまだ山積みだな……っ!)


『やるべきこと』の数だけ、俺はまだまだ強くなれる。

 そう考えると、自然と笑みがこぼれた。


 その後、長い閉会式が終わり――千刃学院の剣王祭が幕を閉じた。


 同時に観客席で応援してくれていた先輩たちが一気に俺の元へ詰め掛けた。


「見てたぜ、アレン! すげぇ活躍だったじゃねぇか! 確か全戦全勝――負けなしだろ!?」


「な、なぁおい、俺も例の素振り部に入れてくれよ! いや、もう俺に剣術を教えてくれ!」


「というか、何で一人だけそんなピンピンしてるんだ、お前っ!?」


 先輩たちにもみくちゃにされながら、矢継ぎ早の質問に遭った。


 そうしてたくさんの仲間に囲まれながら、俺は国立聖戦場を後にした。


 しかし、その直後――俺は驚愕に目を見開いた。


(な、なんだ……これは……っ!?)


 国立聖戦場の出口で『号外』が配られていたのだ。


 もちろん、号外が配られていること自体は問題ではない。


 問題は――その一面をでかでかと飾るのが、『俺の顔写真』だということだ。


『あの神童イドラが敗れる!? 無名の剣士アレン=ロードル!』


『真の一年生最強、アレン=ロードル! その強さの秘密は!?』


『漆黒の闇を纏いし、超新星! その名はアレン=ロードル!』


 大きな文字で書かれた見出しが、遠目からでも読み取れた。


(な、何が起きているんだ……)


 予想だにしない事態を前に、俺が石像のように固まっていると、


「うわぁ……。アレンくん、これは有名になっちゃったわねぇ……」


「くぅ、うらやましいぞ……っ! 次こそは、私が大活躍して『リリム=ツオリーネ』の名を全国に轟かせてやるからな!」


「いや、これは普通に恥ずかしいと思うんですけど……」


 会長たちは律儀に一人一部ずつ号外を手に取り、他人事のようにそう言った。


(こ、これは……っ)


 右を見ても左を見ても――俺の顔が一面を飾った号外が配られている。

 それを受け取った一般の観客たちは、チラチラとこちらの顔を見てきた。


 それがなんとも言えず、とても気恥ずかしかった。


「は、早く帰りましょう……っ」


 そうして俺が足早に帰路へ就くと、先輩たちはみんなその後に続いた。


 その後、オーレストの街を右へ左へと進み――ようやく俺とリアの寮へと戻ってきた。


「ふぅー……。疲れた……」


「あはは。大変だったね、アレン」


「あぁ、最後の号外にはびっくりしたよ……」


 それから俺は剣をいつもの場所に置き、ソファに深く腰掛けて大きく息を吐き出した。


「ふぅー……っ」


 不思議と()は、とてつもないほど元気なのだが……。

 精神的には、かなり疲れていた。


 好調なのか不調なのか、ちょっとよくわからない状態だ。


(……こういうときは、早く寝るに限るな)


 それから俺は夜ご飯を食べ、お風呂に入り――リアと一緒にベッドへついた。


「――おやすみ、リア」


「うん。おやすみなさい、アレン」


 そうして照明を落とした俺は、ゆっくりと目を閉じた。


 それから十分、二十分、三十分と経過したが、


(……おかしい、よな。……うん、やっぱりどこかおかしい)


 先ほどからずっと気になっていることがあり、眠ることができなかった。 


「……なぁ、リア。……起きてるか?」


「……うん、どうかした?」


「俺の勘違いだったらいいんだけど……。少し、リアの元気が無いような気がしてさ……」


 そう。

 イドラさんに勝利を収めてからというもの――リアは少し元気が無いのだ。

 いつものように笑ってはいるけれど、時折その表情に影が落ちる……ような気がする。


 すると、


「……うん、ちょっとね」


 彼女はそう言って、コクリと頷いた。


「……何か悩みがあるなら話してみないか? 『誰かに話すだけでも、存外に気は楽になる』ものだぞ?」


 この言葉は、聞き上手だった『時の仙人』からの受け売りだ。


「……なんかね、アレンが今日イドラって凄い剣士に勝ってさ。観客からたくさんの拍手をもらって、先輩たちから褒められて……。それ自体は、とてもとても嬉しいんだけど……。でも、あなたがどこか遠くへ行っちゃったような気がして……。そう考えると胸がギュッと苦しくなって……っ。……なんだろうね、この気持ち。よく、わからないや……」


 リアはポツリポツリとそう呟いて、黙り込んでしまった。


「そう、か……」


「……うん」


「……」


「……」


 なんとも言えない沈黙が二人の寝室に降りた。


(胸が苦しくなる、か……。これは中々に難しいな……)


 残念ながら、俺に精神医学の知識はない。


 リアがいったいどうして胸が苦しいのか、その原因を突き止めるのは難しい。


 だけど……これだけははっきりと言い切ることができる。


「俺には、リアのその気持ちがなんなのか……わからない。――でも、一つだけ断言できることがある」


「……なに?」


「――俺はずっとリアの傍にいる。勝手にどこかへ行ったりなんかしない。どこかへ行くときは、二人で一緒だ」


「……ほんと?」


 伏し目がちにこちらの目を見たリアへ、


「あぁ、約束だ」


 俺は強くそう断言した。


「……あ、ありがと」


 彼女は掛け布団に顔を(うず)めながらそう言うと、再び黙り込んでしまった。


「……ど、どうだ? 少しは気持ちが落ち着いたか?」


「うん……っ。なんだかとっても幸せな気分になった」


「そうか、それはよかった……」


 それから俺はリアと手を繋ぎ――二人で一緒に横になって眠りについたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 体力だけ超回復して精神疲労をきたす [気になる点] まさかこれは、「鬱」一歩手前では? [一言] キョヌー美少女と同衾してるんなら、シッポリと一発ぬいてから寝ようヨ
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