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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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闇と剣王祭【三】


 俺が霊力の測定を行った結果、


「あ、あれ……?」


 何故か、魔法陣がバキバキに砕けてしまった。


「「「……」」」


 予想だにしない事態に、霊力の間はシンと静まり返った。

 クラスメイト全員の視線が全身に突き刺さり、嫌な汗が背中を伝う。


(こ、これって……。もしかしなくても、俺のせい……だよな?)


 これまで三十人ほどが霊力を測定をしてきたけど、こんなことは一度も起こらなかった。


 多分、俺が霊力の測り方を間違えてしまったのだろう……。


 なんとも言えない気まずい空気が流れる中、俺は気が気でない思いをしていた。


(こ、この魔法陣……いったい、いくらしたんだろう?)


 わざとじゃないとはいえ、学院の備品を壊してしまったのだ。

 当然、弁償する必要がある。


 わざわざ『霊力の間』という専用の部屋に設置された魔法陣。

 どう考えても、千ゴルドや二千ゴルドで済むわけがない。


(た、確か……。霊晶剣が一本百万ゴルド……だったよな……?)


 霊晶剣は、準備室にそれこそ百本以上もあった。

 しかし、この魔法陣はこの霊力の間にたった一つだけだ。


 希少性という観点から見れば、圧倒的に魔法陣の方が上だ。


(最低でも百万ゴルドは超える……よな……っ)


 全身から血の気がサッと引くのがわかった。


 百万ゴルドは大金だ。

 それだけのお金があれば、一年は働かず生活することができるだろう。


(……まずい)


 立派な剣士になって、母さんに楽な暮らしをさせてあげるはずだったのに……。

 このままでは、借金地獄へ引きずり込んでしまうかもしれない……。


(……い、いや、落ち着け。もしかしたら、意外と安いということもあるかもしれないぞ……!)


 そうだ、まだ何もそんな高価なものだと決まったわけじゃない……っ。

 もしかしたら、回数制限のある消耗品という可能性だってある!


 大きな希望を胸に抱き、先生の方へ視線を向けると、


「な、なんてことだ……っ!?」


 彼女は大きく目を見開き、わなわなと拳を震わせていた。


(……終わった)


 あの差し迫った表情――間違いない。

 魔法陣は霊晶剣と比較できないほどに、希少で高価なものだったようだ。


(馬鹿な、霊力が測定不能だと……っ!? アイツ(・・・)が何か干渉したのか……? いや……あり得ない。霊力の測定に霊格が影響するなんて話は、聞いたことが無い……。つまり魔法陣が破壊された原因は――『アレン個人』の莫大な霊力だ……っ)


 青い顔のまま、黙りこくってしまった先生に――俺は勇気を振り絞って声を掛けた。


「せ、先生……?」


 しかし、返事は無かった。


 よほどショックが大きかったのだろう……。

 彼女は下唇を噛み締め、何やら思案に暮れているようだった。


(原因は間違いなく、あの呪われた『一億年ボタン』だ……っ。おそらく相当長い時間、『時の牢獄』に閉じ込められていたのだろう。千年(・・)……いや、下手をすれば二千年(・・・)に届くやもしれん……っ。可哀想にな……脱出(・・)に手間取ってしまったのだろう……っ)


 それから少しして――大きなショックから立ち直った先生は、ジッと俺の目を見つめた。


「アレン……お前は何年――」 


「――す、すみませんでしたっ」


 俺がペコリと頭を下げると、


「ど、どうしたんだ、急に?」


 先生は困惑した様子でそう言った。


「希少な魔法陣を壊してしまい、すみませんでした……っ。今すぐには無理ですが、必死に働いてしっかりと弁償します……っ」


「あ、あぁ……。そんなことは、気にしなくていい。この魔法陣は霊晶剣には使えない――低質な霊晶で組んだものだから、それほど高価じゃない」


「ほ、本当ですか……っ!?」


「あぁ。それに今のは、授業内でのちょっとしたアクシデントだ。君に責任はないし、当然弁償する必要も無いから安心するといい」


「よ、よかった……っ」


 俺が心の底から安堵のため息をつくと、


「れ、レイア! 結局、アレンの霊力はどうだったの!? 『黒色』の光なんて、あなたの説明には無かったわよ!?」


 リアはそう言って、先生を問い詰めた。

 同時に、クラスメイトの視線が一斉に先生へ向けられる。


「ふむ、そうだな……。私もあんな黒い光を見たのは初めてだから、何とも言えんが……。――一つだけ確かなことがある。アレンの霊力は、この場にいる誰よりも圧倒的に多い。もちろん、この私よりもな」


 先生がそう言うと、


「「「なっ!?」」」


 クラスメイト全員が固まった。


 いろいろと残念なところの多いレイア先生だが、こと戦闘においては絶対的な強さを誇る。

 そんな彼女よりも霊力が上という事実に、俺を含めたクラスメイト全員が息を呑んだのだ。


「せ、先生、それはいくらなんでも大袈裟じゃないですか……?」


 俺が恐る恐る問い掛けると、


「いや、間違いない。『霊力』という一点において、君は私の上を行く。――誇っていい。それほど莫大な霊力を持つ剣士は、そういるものではない」


 先生はそう言ってニッと笑った。


「あ、ありがとう、ございます……っ」


 とても……とても嬉しかった。


 これまで生きてきた十五年間。

『剣士としての俺』は『先生』から褒められたことがただの一度もなかった。


 グラン剣術学院のときが、まさにそうだ。


 ――アレン、お前には才能が無い。


 ――どれだけ素振りをしても無駄だ。


 ――めざわりだ、早く辞めてくれ。


『先生』は感情の籠っていない冷たい目で、口々にそう言った。


 そんな俺が――剣士として褒められた。


 グラン剣術学院よりも遥か格上の五学院で。

 それも黒拳と呼ばれ、世界中の誰もが認める凄腕の剣士――レイア先生に……っ!


(褒められるって……嬉しいんだな……っ)


 そうして俺がとてつもない喜びを噛み締めていると、


「お、おいおい……。黒拳レイア=ラスノート以上の霊力ってマジか……っ!?」


「こ、国家戦力級の霊力ってこと、だよな……?」


「やっぱすげぇよ、アレンは……っ!」


 クラスメイトのみんなも手放しに称賛してくれた。


 それから少しして――ざわめきが落ち着いたところで、先生はパンと手を打った。


「さて霊力の測定も終わったことだし、これより霊力を強化するための具体的な修業方法を教えよう」


 彼女は一度咳払いして注目を集め、ゆっくりと語り始めた。


「修業方法は至ってシンプル――限界ギリギリまで、自分を追い込むことだ! 精神をすり減らし、心が悲鳴を挙げるその瞬間――霊力は大きく成長する! 素振りでも持久走でも、とにかくなんでも構わない! 思わず()を上げるような苦行を、ひたすら何度も繰り返すんだ!」


『思わず音を上げるような苦行を、ひたすら何度も繰り返す』――それは『俺向き』の修業方法だった。


 何と言ったって俺は、あの地獄のような『時の牢獄』で十数億年(・・・・)もの間、ただひたすらに剣を振り続けた。


 我慢・忍耐・継続――そういう地味なことは、もう慣れっこだ。

 むしろ最近は楽しいとすら思える。


 ……もしかしたら俺の霊力は、あの経験が実を結んだものかもしれないな。


「二限終了までは……よし、後三十分はあるな。それでは魂装場へ戻って、魂装の修業を再開するぞ! 霊力の強化については、午後の筋力トレーニングで実施予定だ!」


「「「はいっ!」」」


 そうして魂装に必要不可欠な『霊力』を理解した俺たちは――再び霊核との対話を始めたのだった。

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