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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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闇と剣王祭【一】


 黒の組織との戦いから、一夜明けた次の日。


 俺とリアは疲れの抜けていない状態で、教室へと向かった。


「ふわぁ……眠たいね、アレン……」


 リアは口に手を当て、小さく欠伸をしながらそう言った。


「あぁ、そうだな……」


 この二日間。

 黒の組織の相手をしていたせいで、まともに眠れていない。

 さすがにほんの数時間眠っただけで、万全の状態……というわけにはいかなかった。


 その後、一年A組に到着した俺たちが教室の扉を開けると、


「――あっ、リアさんだっ!」


「よ、よかったぁ……っ。無事だったのね!」


「本当に災難だったな……。まぁ、何はともあれ無事で何よりだぜっ!」


 クラスのみんなが、一斉にリアの元へ駆け寄った。


「あの黒の組織に誘拐されたって聞いたときは、心臓が止まるかと思ったよぉ……っ」


「変なことされなかった? 大丈夫?」


「あいつら……。今度見かけたら、ただじゃおかねぇぜ……っ」


 リアのことを心から心配していたみんなは、安堵の表情を浮かべて口々にそう言った。


「みんな、心配かけてごめんね。でも、安心して――本当に何も無かったから」


 そうしてリアが自分が大丈夫だったことを伝えると――後ろの扉がガラガラッと開き、いつにも増して眠たそうなローズが入ってきた。


「あっ、おはよう、ローズ」


「おはよう。……いつにも増して凄い寝ぐせねぇ」


「…………おはよ」


 立派なアホ毛をピンと立てた彼女は、フラフラと覚束ない足取りで移動し――自分の席にポスリと座った。


 どうやら俺たち同様、ローズの体にもたっぷりと疲労が蓄積しているようだ。


 それから他愛もない話に華を咲かせていると、キーンコーンカーンコーンと授業開始前のチャイムが鳴った。


 すると、


「――おはよう、諸君! いい朝だな!」


 いつものように元気はつらつとしたレイア先生が、教室の扉を勢いよく開けた。


 先生もこの二日ほとんど眠っていないはずだけれど……。


 俺たちと違って、彼女は随分と元気そうだった。


「さて朝のホームルームだが、連絡事項は……うむ、特に無いな。よし、それでは今日も元気出して行くぞ! 一限目は魂装の授業だ! すぐに魂装場へ集合してくれ!」


 先生がパンと手を打ち鳴らし、俺たちは魂装場へ移動を開始した。



 魂装場へ到着した俺たちは、各自一本ずつ霊晶剣を手に取り――自らの霊核と対話を始めた。


(ふー……っ。なんだか少し、久しぶりな気がするな……)


 最後にあの魂の世界へ行ってから、まだそう時間は経っていないはずなのに……。


 ここ最近はいろいろなイベントが起こり過ぎて、ずいぶん久しぶりに思えた。


(さて、そろそろやるか……)


 俺は両手でしっかりと霊晶剣を握り締め、魂の奥底へ意識を集中させた。


 自分の意識を内へ内へと沈めていき、ゆっくりと目を開けるとそこは――枯れた荒野が一面に広がっていた。


 枯れた木。

 枯れた土。

 枯れた空気。


 何もかも枯れたここが、アイツの世界だ。


 眼前にそびえる表面がバキバキに割れた巨大な岩石。

 その一番上に、奴は胡坐(あぐら)を掻いて座っていた。


「はぁ……。てめぇも懲りねぇなぁ……。何度やっても勝てねぇってのが、まぁだわかんねぇのか? ……あ゛ぁ?」


 アイツは心底呆れたようにそう呟いた。


「何度でも挑み続けるよ。それに……『絶対勝てない』って決まったわけじゃないだろ?」


「馬鹿かてめぇ? お前みたいなちんちくりんが、この俺に勝てるわけねぇだろうが? え゛ぇ?」


 不機嫌さをまるで隠そうともせず、奴は身の毛もよだつような凄まじい殺気を放った。


「そんなこと……やってみなきゃわからないだろ……っ!」


 気圧されないよう、気持ちを強く持った俺がそう言い返すと――殺気はサッと消え去った。


「まぁいい……。今日はちょっくら運動してぇ気分だったから、付き合ってやるか……っ!」


 そう言って奴が、ゆっくりと立ち上がったその瞬間。


 奴の全身から漆黒の闇が溢れ出した。


「なっ!?」


「なぁにを驚いてんだか……。こりゃ、元々は(・・・)俺の力だ。お前がちっとばかし育ったおかげで、俺も少しずつ力が出せるようになっただけのことだ」


 奴はそう言って凶悪な笑みを浮かべた。


 しかし、俺が驚いたのは、なにも奴が『闇』を使ったからではない。


(み、密度が……違い過ぎる……っ!?)


 俺と奴の闇は、比べるのが馬鹿馬鹿しくなるほどに違った(・・・)


 密度・量・迫力――その全てが桁外れだった。


 やはり昨晩こいつから奪った力は、ほんのわずかなものだったようだ。


「くっ……。俺だって……っ!」


 俺は精神を集中し、昨晩と同じ強い心をもって――あの黒剣を求めた。


 しかし、


「あ、れ……?」


 黒剣は姿を現さず――ほんのわずかな『黒いモヤ』が、手のひらに浮かび上がるだけだった。


「はっ。まだまだヒヨッコのクソガキが……っ。いっちょこまえに、俺の黒剣を具象化するからだ! 『霊力』がすっからかんじゃねぇか……っ!」


「れ、霊力……? なんだそれ?」


 初めて聞く言葉に首を傾げると、


「そんなもん……黒拳にでも聞きやがれぇ゛……っ!」


 奴は凄まじい速度でこちらへ飛び掛かってきた。


「くそ……っ」


 黒剣を出せなかった俺が、仕方なくいつもの剣を抜き放ったその瞬間。


「……おいおい、どこ見てんだ?」


 奴はもう俺の背後に立っていた。


(は、速い……っ!?)


 闇を身に纏ったこいつは、これまでと比較にならないほど速く。


「そら――しっかりと踏ん張りやがれぇ゛っ!」


「ぐっ!?」


 これまでと比較にならないほどの筋力を誇った。


(な、なんて身体能力だ……っ!?)


 奴の強烈な蹴りを何とか剣で防いだ俺は、まるでボールのように水平に飛び、


「が、は……っ」


 巨大な岩石で背中を強打した俺は、肺の中の空気を全て吐き出した。


 あまりの衝撃に意識がグラリと揺れ、右手から剣がこぼれ落ちた。


(ぼ、防御が……防御の意味を為さない……っ)


 圧倒的暴力を前にこれまで身に付けた防御術が、何の役にも立たなかった。


「そら、とどめだぁ゛……っ!」


「く、そ……っ。負けて……たまるか……っ!」


 迫り来る拳に対して――咄嗟に両手を前へ突き出したその瞬間。


 円形の闇が前方に展開され、奴の右ストレートを完璧に(・・・)防ぎ切った。


 その信じられない光景に、


(こ、これは……っ!)


 俺は大きく目を見開いた。


 これまでたとえ剣で防ごうとも、その圧倒的な威力を殺し切ることはできず、防御が防御の意味を為さなかった。


 しかし、今回は全ての威力を完全に殺し切り――初めて完璧な(・・・)防御に成功した。


(なるほど……っ。『闇』には、こういう使い方があるのか……っ!)


 初めて闇を操作した俺が、強くなるための確かな手掛かりを掴んだその瞬間。


「ちっ……。調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキがぁ゛……っ!」


 闇をまとった強烈な右ストレートが、俺の腹部へ突き刺さり、


「が、はぁ……っ」


 遥か後方へと吹き飛ばされた。


 体中の血液が四方八方へ跳ねまわり、強烈な痛みが走る中。


「は、はは……っ!」


 俺はとてつもない充足感に満たされていた。


(もっと、もっとだ……っ。俺はもっと強くなれるぞ……っ!)


 この『闇』を自在に使いこなせれば、俺はさらに強くなれる……っ!


(そうなれば、アイツからもっとたくさんの力を引き出せるようになって――いずれはみんなと同じように、魂装を発現できるかもしれない……っ!)


 こうして『闇の操作』と『霊力』――二つの大きな成果を得た俺は、現実世界へと引き戻されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ローズの髪(アホ毛)がリーゼント・スタイルで屹立する様が、目に浮かぶ様だ
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