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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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賞金首と目覚め【十一】


 突如目の前に出現した黒剣(こっけん)

 恐る恐るそれを右手で掴んだその瞬間。


「……っ!?」


 本能的に理解した。

 これ(・・)が、今俺のいる段階(ステージ)を大きく越えた力であることを。


(重い……っ)


 物理的な重さではない――圧倒的な『力の密度』、それが感覚的な重さに繋がっているのだ。


 この闇のような黒剣は、暴力的で圧倒的な力の塊だった。


 すると、


「ざ……ざはははははっ! す、素晴らしい、なんという輝きだ! やはり俺の目に狂いは無かった! これほどの『キラキラ』は、未だかつて見たことが無いっ!」


 黒剣に目を輝かせたザクは、狂ったように笑い始めた。


「さぁ、その力のほどを見せてくれ! ――<劫火の死槍(ブレイズ・ランス)>ッ!」


 奴はこの力を試すかのように、灼熱の槍を放ってみせた。


 それを切り払うため、軽く剣を振るった次の瞬間――凄まじい衝撃波が発生し、炎の槍を容易く切り裂いた。


「なっ!?」


 さらにその一撃は全く威力を落とすことなく、ザクへ向けて一直線に進む。


「ぶ、<劫火の盾(ブレイズ・シールド)>ッ!」


 予想外の事態に目を見開いた奴は、巨大な炎の盾を展開した。


 しかし、それはコンマ一秒と耐えることなく、見るも無残に砕け散った。


「が、は……っ!?」


 ただの衝撃波を受けたザクの体には、深い太刀傷が刻まれた。


(な、なんて力だ……っ!?)


 その圧倒的な力に驚いていると、


(なん、だ……これ……?)


 突然、激しい倦怠感(けんたいかん)が全身を襲った。

 黒剣を握っているだけで、みるみるうちに生気が吸い取られていく。


(なるほど、これが『持続時間』という奴か……っ)


 この馬鹿げた消耗具合、長期戦はまず無理だ。


(今すぐにでも、決着を付けないと……っ)


 すると、


「ざ……ざは、は……っ。まさかここまでとはな……っ!」


 大きなダメージを受けたザクは、よろめきながらも口元に凶悪な笑みを浮かべた。


「だが、まだだ……っ! アレンよ、お前の力はそんなものではないはずだっ! もっと輝きを――キラキラを見せてくれっ!」


 奴が大剣を床に突き立てると、百匹を超える真紅の狐を生み出された。


狐火(きつねび)――(ほむら)ッ!」


 続けてそう命令を下した次の瞬間。


「「「コォーンッ!」」」


 狐火は一斉にザクの頭上へ集まり――まるで太陽のような巨大な炎塊(えんかい)を形作った。


「ざははははっ! そろそろ決着を付けようではないか! キラキラの原石、アレン=ロードルよっ!」


「――あぁ、そうだな」


 ザクと戦い始めてから、もう随分と時間が経つ。

 早くこの戦いを終わらせないと、リアの身が危険だ。


 それにそもそも――黒剣の消耗に俺の体が耐えられそうもない。


「さぁ、この一撃に打ち勝って見せよ!」


 奴は天高く掲げた大剣を、力いっぱい振り下ろした。


「――<劫火の日輪(ブレイズ・フレア)>ッ!」


 太陽の如き巨大な炎塊が凄まじい勢いで放たれた。


 この部屋全体を消し炭にせんとする灼熱の劫火へ向けて、俺は渾身の一撃を放つ。


「六の太刀――冥轟(めいごう)ッ!」


 その瞬間。

 黒剣から溢れ出した闇が冥轟を包み込み――黒い斬撃が空を駆けた。


「はぁああああああああっ!」


「ぬぉおおおおおおおおっ!」


 闇と太陽が激しくぶつかり合い――漆黒の闇が全てを飲み込んだ。


「ぬ、ぬぉっ!?」


 依然として絶大な威力を誇る黒い冥轟は、


「ざ、ざはははははっ! 見事だ――キラキラの原石よっ!」


 ザクを食らい尽くし、この巨大な研究所を半壊させた。


「はぁはぁ……っ。終わっ、た……っ」


 役目を終えた黒剣は、音もなく静かに消え去った。


 全てを出し尽くした俺が大きく息をつくと、


「……(いっ)っ!?」


 両の手のひらに鈍い痛みが走った。


 見れば、手のひらの皮がめくれ、薄っすらと血が(にじ)んでいた。

 多分、黒の冥轟を放った衝撃に耐えられなかったのだろう。


 やはりあの黒剣は、今の俺には大き過ぎる力のようだ。


 こうしてなんとかザクを倒した俺は、


「待っていてくれ……。今行くぞ、リア……っ!」


 重たい体を引きずって研究所の地下へと足を進めた。



 思惑通りにレイアのコピーを作ることに成功したトールは、


「この……化物、が……っ」


 ボロ雑巾のような状態で、崩れ落ちるように倒れ伏した。

 その隣には、活動を停止したレイアのコピーも横たわっている。


「ふむ、存外に手こずったな……」


 無傷のレイアはパンパンと手を打ち、息をついた。


「<模倣芸術(ミミック・アート)>――汎用性の高い恐るべき能力だが、『コピー』の性能が少し物足りないな……。だいたいオリジナルの六割から七割程度のスペックと言ったところか」


 そうして何事もなく戦闘を終えたレイアは、


「――さて、先を急ごう」


 アレンとローズの後を追って、研究所の奥へ駆け出した。


 しばらく進むと、ポッカリと空けた大きな部屋に出た。

 そこには倒れ伏した多数の剣士と枯れかけた桜の大樹。


 そして今まさに決着の時を迎えるローズと強化剣士三人の姿があった。


「う゛がぁああああああああっ!」


「桜華一刀流奥義――鏡桜斬ッ!」


 刹那――両者は交錯し、最後のはなびらが散った。


「が、は……っ!?」


「ぐぞ……霊晶丸を使っでも……っ」


「勝てない、のか……!?」


 三人の強化剣士が崩れ落ちる一方で、ローズはしっかりと二本の足で立っていた。


「はぁはぁ……っ。勝っ、た……っ」


 桜の大樹は粒子となって消え、それと連動して緋色の剣も消滅した。

 <緋寒桜(ひかんざくら)>の持続時間ギリギリで、全ての敵を倒したローズ。


 そんな彼女を強い眩暈(めまい)と激しい倦怠感が襲った。


 視界が大きく揺れ、平衡感覚が著しく乱れる。


「あ、れ……?」


 そのまま真横へ倒れ込んだローズの体を、


「――っと、大丈夫か?」


 即座にレイアは優しく支えた。


「せ、先生……っ。……はい、問題ありません」


「そうか、それは良かった。しかし、一人でこの数の強化剣士を捌くとは……。本当に強くなったな……」


 レイアがしみじみとそう呟くと、


「そんなことよりも、早くアレンのところへ行かないと……っ! ザクはとてつもなく強い、絶対に一人じゃ勝てない……っ!」


 ザクの強さをその身で思い知ったローズは、強くそう訴えた。


「そうだな、先を急ぐとしよう」


 その後、レイアはローズに肩を貸し、高速で移動を開始した。


 曲がりくねった廊下を駆け足で進むと、しっかりと明かりの灯った大きな部屋に出た。


 そこで二人は、信じられない光景を目にすることになった。


「「なっ!?」」


 太陽を想起させるような巨大な炎塊が、漆黒の闇に食い潰されたのだ。


 アレンの放ったその一撃は、まさに規格外。


 太陽を飲み込むだけに留まらず、けたたましい轟音と共に研究所を半壊させた。


「「……っ」」


 人間の限界を超越した『圧倒的な破壊』を前に、レイアとローズは思わず息を呑んだ。

 そして現状を素早く理解したレイアの視線は――アレンの黒剣に釘付けとなった。


(ま、間違いない……っ。あの黒剣は、アイツ(・・・)の得物だ……っ)


 彼女の背に冷たい汗が流れる。


(もしも奴に体を支配されているとしたら……取り返しのつかないことになるぞ……っ)


 霊核であるが故の大きな隙――『初期硬直』のタイミングは、既に過ぎ去った。


(アレンは恐ろしい速度で成長し、以前よりも遥かに強くなった……。その体を支配した奴を相手に……果たして私一人で食い止められるか……っ!?)


 脳裏をよぎるのは、千刃学院の黄金世代を支えた二人の戦友。


(くそ……っ。こんなとき、二人の力が借りられれば……っ)


 レイアにしては珍しく、そんな弱気なことを考えていた。

 それほどまでに、彼女はアレンの内に眠る霊核を恐れているのだ。


 その後、


「お前は……『アレン』なのか?」


 意を決したレイアが恐る恐るそう問い掛けると、


「――せ、先生、ローズも! よかった、無事だったんですね!」


 屈託の無い優しい笑顔を浮かべたアレンが振り返った。


「ふぅー……。あぁ、そっちも無事のようだな」


 レイアはホッと胸を撫で下ろした。


 そして早速、あの黒剣について話を聞いた。


「――ところでさっきの黒剣なんだが、まさか魂装を発現したのか?」


「多分、魂装の『一部』だと思います……。ちゃんとした魂装を発現するまでは、まだまだ時間がかかりそうですね……」


 アレンはそう言いながら、ポリポリと頬を掻いた。


「……そうか、応援しているよ」


 レイアは複雑な笑みを浮かべて、短くそう返事を返した。


(……アレン=ロードル、本当に末恐ろしい才能だな。まさかこの短期間で、アイツから力を奪い取るほどまでに成長するとは……。その精神力は、もはや化物クラス。やはり『一億年ボタン』を乗り越えただけはあるな……)


 一方のアレンは、ほんの小さな――砂粒のような手ごたえを掴んでいた。


(魂装を発現するには、きっともっとたくさんの修業が必要だ……。でも、『感覚』は掴んだ……っ!)


 魂装の習得は、決して不可能ではない。

 それを知れただけでも、彼にとっては十分すぎる収穫だった。


「――先生、そんなことよりも先へ急ぎましょう。ザクの話では、ちょうどこの真下にリアが囚われているそうです」


「そうだな、急ぐとしよう」


 こうして強敵ザク=ボンバールを単騎で撃破したアレンは、レイアとローズと一緒に研究所の最下層へと向かったのだった。

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