表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/445

賞金首と目覚め【十】


 俺とザクの視線が交錯し、


「はぁあああああっ!」


「ぬぅおおおおおっ!」


 まるで示し合わせたように同時に駆け出した。


「ハァッ!」


「ぬぅん!」


 互いの剣がぶつかり合い、凄まじい轟音が鳴り響く。


「見た目通りの……馬鹿力だな……っ!」


「ざ、ざはは……っ! そちらこそ……小さな体に合わぬ、とてつもない力だな……っ!」


 互いの筋力は、完全に五分五分。

 ここから先は、剣術が勝敗を分ける。


(力比べは時間の無駄だ……っ。一度距離を置いて、立て直そう)


 俺がそんなことを考えていると、


「――<劫火の盾(ブレイズ・シールド)>ッ!」


 奴は突然、ゼロ距離で炎の盾を展開した。


「なっ、この距離で……っ!?」


 視界が赤一色で埋まり、凄まじい熱気が目を刺激する。


「くっ、八の太刀――八咫烏ッ!」


 八つの斬撃をもって盾を切り刻むと――ザクは遥か後方にいた。


 どうやら巨大な盾で姿を隠し、その間に大きく跳び下がっていたようだ。


 奴は深く腰を落とし、遥か遠方から『突き』を放った。


「――<劫火の死槍(ブレイズ・ランス)>ッ!」


 大剣の切っ先から灼熱の槍が放たれる。


「一の太刀――飛影ッ!」


 奴の遠距離攻撃に対抗して、飛ぶ斬撃を放った。


 しかし、


「ぬるい、ぬるいぞっ!」


 荒れ狂う劫火(ごうか)の槍は、いとも容易く飛影を貫き――微塵も威力を落とすことなく、こちらへ殺到した。


「なっ!?」


 俺はすぐさま右へ大きく跳び、槍状となった炎を回避した。


(飛影では押し負けるのか……っ)


 <劫火の死槍>に遠距離攻撃で対抗するには、冥轟(めいごう)クラスの威力が必要なようだ。


 そうしてザクの攻撃とその対策に思考を巡らせていると、


「――回避直後は、もちっと気を張らねばならんぞ?」


 気付けば、目と鼻の先に大剣を振りかぶった奴の姿があった。


「しまっ……!?」


風焔流(ふうえんりゅう)――焔烈斬(えんれつざん)ッ!」


 炎をまとった四つの斬撃が凄まじい速度で迫る。


「う、雲影流――うろこ雲ッ!」


 着地の隙を狙われた俺は、咄嗟に出の早い四つの斬撃で迎え撃った。


 しかし、体勢不利の状態で放った誤魔化しの斬撃で凌げるほど――ザクの剣は甘いものではなかった。


(なんて威力だ……っ!?)


 四つの斬撃はあっという間に食い破られてしまった。


 俺は必死で身をよじり、何とか回避しようと試みたが……。


「ぐ……っ」


 二発の斬撃が右肩と左足に着弾し、肉を断つ鋭い痛みと焼け付く鈍い痛みが同時に走った。

 たまらず後ろへ跳び下がり、立て直しを図る。


(……幸いにして傷はそこまで深くない)


 戦闘継続には、何ら影響はないだろう。


(やはり問題はどう『崩す』か、だな……)


 ザクの構えは俺と同じ、正眼の構え。

 へその前で握られた大剣は微動だにせず、緊張と脱力が程よく混ざり合った――恐ろしいほど『自然』な構えだ。


(……この構えは、一朝一夕で身に付くものじゃない)


 奴はこれまで戦った誰よりも――剣術の基礎がしっかりとしていた。

 きっと天賦の才能を持ちながら、膨大な時間を修業に費やしてきたのだろう。


(……しかし、妙だな)


 そんな研ぎ澄まされた奴の剣術だが、一点だけ気になるところがあった。


「その剣術、聖騎士にでも習ったのか?」


 基本姿勢に防御術、果てには歩法(ほほう)に至るまで――ザクの動きは、聖騎士の剣術指南書と全く同じだった。


 すると、


「……一応これでも、昔は聖騎士だったのでな」


 奴は少し苦々しい表情でそう呟いた。


「な……っ!? せ、聖騎士がどうして黒の組織に!?」


 世界の平和を守る国際組織――聖騎士協会。

 世界の秩序を乱す大規模犯罪組織――黒の組織。

 両者は対極の存在だ。


「……聖騎士協会に身を置いては、為せぬこともあるのだ」


 ザクは険しい顔つきでそう呟くと、


「――だが今は、そんなつまらぬことなど、どうだってよい! さぁ、アレンよ! お前の輝きを――キラキラをもっと見せてくれっ!」


 重たい空気を消し飛ばすように、突然大きな声を張り上げた。


(うた)え――狐火(きつねび)ッ!」


 ザクはそう言うと、その場で大きく大剣を振るった。

 灼熱の炎が舞い上がり、それは徐々に生物の形を成していく。


「「「――コォーンッ!」」」


 劫火によって産声(うぶごえ)をあげたのは、メラメラと燃え盛る真紅の狐だった。

 その数は軽く十を超え――鋭い牙を剥き出しにして、こちらを威嚇(いかく)している。


(まさかこんな力まで……っ!?)


 くそっ、なんて応用力の高い能力だ……っ


「ざははははははっ! さぁ――クライマックスと行こうではないか!」


「……来いっ!」


 その後、俺たちの剣戟(けんげき)熾烈(しれつ)を極めた。


「ギャルルルルルッ!」


「くっ……ハァッ!」


 無限に作られる狐火を斬れば、


「――そこだっ! ぬぅうんっ!」


「ぐっ!?」


 その背後から、ザクの大剣が襲い掛かる。

 狐火と大剣による波状攻撃を前に防戦一方を強いられた。


(くそ、手数が違い過ぎる……っ)


 こちらが一人に対して、相手はザクと十数匹もの狐火。

『数の差』は圧倒的だった。


 攻め込もうにも大量の狐火が邪魔をし、手痛い反撃を食らう。

 かと言って守りに入れば、今のような怒涛の攻撃が続く。


(いったい、どうすればいいんだ……っ)


 そうして俺が打開策を必死に考えていると、


「狐火――紅蓮(ぐれん)ッ!」


「「「コーンッ!」」」


 四方八方にバラけた八匹の狐が――息を合わせて同時に襲い掛かってきた。


「くっ、桜華一刀流奥義――鏡桜斬ッ!」


 八つの斬撃をもって、全ての狐を撃退したそのとき。


「風焔流――大焔斬(だいえんざん)ッ!」


 背後から強烈な切り下ろしが迫った。


「ぐっ!?」


 無理な体勢ながらも何とか防いだ俺は、わざと大きく後ろへ跳んで衝撃を殺した。


「ざははっ! まさに驚異的な反応速度だっ! 体捌(からださば)きも申し分ない! 完璧に崩したと思ったが……いやはや、まさか防がれるとはっ!」


 ザクは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った様子でそう呟くと、再び十匹の狐火を生み出した。


(このままじゃ、完全にジリ貧だ……っ。ここはもう、仕掛ける(・・・・)しかない……っ!)


 位置取りは、申し分ない。

 後は――奴が仕掛けてくるのを待つだけだ。


 俺が正眼の構えを堅持したまま、ジッとその機を待っていると、


「どうした、守っているばかりでは勝てんぞ? 狐火――烈火(れっか)ッ!」


「「「コォーンッ!」」」


 ザクは生み出した狐火を一斉にこちらへ放った。


(――来たッ!)


 その直後。


「二の太刀――朧月(おぼろづき)ッ!」


 今まで仕込んできた二十の斬撃が、迫り来る狐火を全て切り裂いた。


「ほぅっ! 面白い技を使うな!」


 狐火がゼロになったこの機を逃す手はない。


「一の太刀――飛影ッ!」


 俺は全力で

 いつもより一回り以上も大きい斬撃を放った。


「ざははっ! それは効かんと言っておるだろう! ――<劫火の死槍>ッ!」


 凄まじい爆炎が飛影を食い破ったその瞬間。


「――目くらましだ」


 飛影を背にして接近した俺は、ザクの背後を取った。

 ようやく作り出した絶好の機会。


「五の太刀――断界ッ!」


 俺はがら空きの背中目掛けて、最強の一撃を繰り出した。


 しかし、


「狙いは悪くないが、俺の背後は死角ではない。――<劫火の円環(ブレイズ・サークル)>ッ!」


 次の瞬間、奴を中心に巨大な爆炎が吹き荒れた。

 凄まじい衝撃波が体を撃ち、強烈な熱波が肌を突き刺した。


「ぐ……っ!?」


 あまりの衝撃に吹き飛ばされた俺は――なんとか受け身を取りつつ、強く歯を食いしばった。


「その技があったか……っ」


 不意を突いたとはいえ、会長や聖騎士たちを一撃で倒した強力な衝撃波。


(まさかそれを防御に使ってくるとは……っ)


 そうして俺が歯を強く噛み締めていると、


「しかし、不思議な体(・・・・・)をしているな……。普通今の一撃を食らえば、重度の火傷を負うはずなんだが……」


 ザクは(いぶか)しげに俺の全身を見ながら、何事かを呟いた。


 その間、俺は互いの状態を分析した。


 少しずつではあるが、俺の体にダメージは蓄積している。

 斬撃を受けた右肩と左足。

 それに狐火を防御する際に生じた小さな火傷が各所に見られた。


 一方のザクは、ほとんど無傷だ。

 剣戟の最中に薄皮が斬れた程度の物で、明確なダメージはゼロと言っていいだろう。


(……参った。このままじゃ、ちょっと勝てないな……)


 ここまで苦しい戦いになった原因はたった一つ――魂装の有無だ。

 やはり最後の最後に立ちはだかったのは『才能』という大きな壁だった。


(もう、やるしかない……っ)


 悔しいが、ザクは格上の剣士だ。


 アイツ(・・・)の力を引き出さなければ――今の俺じゃ絶対に勝てない。


 ――思い出せ。


(……ザクは言っていた)


 物理的に捻じ伏せる必要はない、力の一部を引き出すだけならば――心で捻じ伏せればいい、と。


(……アイツは言っていた)


『心の強さ』が、何よりも『覚悟』が足りていない、と。


 それから俺はゆっくりと自分の意識を内へ内へ――魂の奥底へと沈めていった。


 俺は――勝つ。

 目の前の敵を――斬る。


 リアを守るために。

 リアとの日常を守るために。


 だから――。


 今日、このときだけでいい。

 いいや――今、この瞬間だけでいい。


 だから――。



(力を……寄こせ……っ!)



 魂に刻み付けるように、鋭い刃を胸に突き立てるように――強くそう念じたそのとき。


 心の奥底で――アイツの声が聞こえた。


【クソガキが……。やりゃぁできんじゃねぇか……】


 その瞬間。


「これ、は……っ!?」


 黒よりも黒い、まるで『闇』を凝縮したような黒剣(こっけん)が――空間を引き裂いて姿を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ