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賞金首と目覚め【八】


 予想外の展開に目を白黒とさせたリアは、ゆっくりと口を開いた。


「あ、あなた……いったいどういうつもり? 仲間じゃないの?」


「んー……。拘束された小娘に手を出すような腐った男は、仲間にいらんなぁ……」


 そう言ってザクは、大きなグラスに入った酒をあおった。


 すると、


「――お、おい、デカブツ!? いったい、何があった!?」


 凄まじい断末魔を耳にしたトールが、慌てて駆けつけた。


「なぁに、ちょっとした小火(ぼや)があってな。研究員が一人、灰になっただけだ」


「なっ!? こんの……馬鹿野郎っ! 貴重な研究職だぞ、わかっているのか!?」


「すまん、許せ! 見るに堪えん男だったから、ついな!」


 ガシガシと頭を掻きながら一応謝罪の弁を述べるザク。

 それを見たトールは、大きくため息をついた。


「全く、馬鹿につける薬は無いな……。一応『上』に報告しておくからな?」


「あぁ、好きにしてくれ」


 二人の間にやや険悪な空気が流れる中、


「……礼は言わないわよ」


 リアはポツリとそう呟いた。


「ざはははっ! 当たり前だ! 誘拐犯に礼を言う奴がどこにいる!」


 ほろ酔い状態のザクは腹を抱えて笑うと、再びグラスに口をつけた。


「んぐんぐんぐ……っぷはぁ……っ! あ゛ぁー……それにしてもリアよ。あのキラキラは――アレンの奴はまだ来んのか?」


 その質問に答えたのは、不快気に顔を歪めたトールだった。


「おいこら、ウスノロ……っ。この研究所は、あたしの結界で隠してあんだぞ? いったい誰がどうやってこの場所を見つけるんだ? えぇ?」


 自身の結界を侮られた彼女は、早口でそう問い詰めた。


 すると今度は、リアが横から口を挟んだ。


「――たとえどれほど優れた結界があっても、アレンならきっとすぐに見つけてくれるわ」


「んだと、このドブスが……!」


「ど、ドブスじゃないわよっ!? さっきから言わせておけば、失礼な人ね……! そういうあなたはドチビじゃない!」


「てんめぇ……っ!? 人の身体的特徴(コンプレックス)揶揄(やゆ)するなんて、まともな教育を受けてねぇな……っ!」


「先にブスって言ったのは、そっちでしょ……!?」


 そうしてトールとリアが不毛な言い争いを続けていると、


「――ときに、リアよ。二人はどういった関係なのだ? アレンは相当お前にご執心のようだったぞ?」


 かなり酔いの回ったザクが、少し踏み入った質問を投げ掛けた。


 不意の質問に大きく揺さぶられたリアは、


「い、今はまだ、その……っ。べ、別にどうだっていいでしょ!?」


 顔を赤くして声を荒げた。


「ざははははっ! 若い、若いなぁ! まぁ人生の先輩としてアドバイスをしてやるならば――アレ(・・)は光る! 間違いなく、大きな光りを放つぞ! 精々逃げられぬよう、しっかり捕まえておくがいい!」


「う、うるさいわね! そんなこと、あなたには関係ないでしょ!」


 二人がそんな話をしていると、


「……おい、ウスノロ。あまり希望を持たせるような話をしてやるな。どうせこいつは本国送りだ。もうあの『未知の獣』に会うことは二度とない」


 トールはそう言って、憐憫(れんびん)の視線をリアへ向けた。


「ざははっ! 普通に(・・・)考えれば(・・・・)、間違いなくそうなるだろうな! しかし、相手は『希代のキラキラ』だ! あの暖かくも眩しい光の元には、それに魅せられた多くの人々が集まる! 万が一ということも……あるやもしれんぞ?」


「ふん、何を馬鹿なことを……っ!?」


 トールが鼻で笑った次の瞬間。


 巨大なステンドガラスを割ったような、耳をつんざく破壊音が研究所に鳴り響いた。


「あ、あり得ない……!? あたしの結界が破られただと!?」


「ざははははっ! やはり来たか! アレン=ロードル――キラキラの原石よ!」


「アレン……っ!」


 三者三様の反応を示す中、トールが素早く動き出した。


「くそ……っ。何を喜んでやがる、このウスノロがっ! さっさと配置に付け!」


「ざははっ! 楽しみよなぁっ!」


 苛立った様子のトールと好戦的な笑みを浮かべたザクは、招かれざる客を迎え撃つため、上階へと向かった。



 研究所に侵入した俺たちは、迷路のように曲がりくねった廊下を進む。


(これは多分、侵入者対策の一環なんだろう……)


 廊下には薄明かりがぼんやりと灯るだけで、極端に視界が悪い。

 罠や待ち伏せに警戒する必要もあるため、走る速度を落とさざるを得なかった。


 その後、しばらく道なりに進んで行くと――狭い部屋に出た。


 そこには、


「う゛ぅ……じ、侵入者だ……っ」


「や、やるぞ……。こいつらを倒せば、俺たぢゃ……じ、自由だんだ……っ!」


「わ、悪いが……。ごこで殺ざれてぐれ……っ!」


 血走った目でこちらを睨み付ける、まるで幽鬼のような七人の剣士たちがいた。

 彼らの右手には形態の安定しない奇妙な魂装が握られており、まだ戦っていないというのに激しく息切れをしていた。


 確か……夏合宿のときにも同じような奴等と相手をしたことがあったはずだ。


(やはりこの一件、かなり根が深いようだな……)


 すぐに剣を抜き放ち、正眼の構えを取った俺は――ちょっとした変化に気が付いた。


(……以前戦ったときよりも、奴等の魂装が安定していないか?)


 霊晶丸によって無理やり発現させた魂装は、もっと不安定で(いびつ)な形をしていたはずだ。


 すると、


霊晶丸(れいしょうがん)を服用した強化兵士か。しかし、ここまで『安定した魂装』を発現させるとはな……。こんなもの報告には上がっていないぞ……っ」


 レイア先生が忌々し気に呟いたそのとき。


「う゛ぅ……がぁあああああ……っ!」


 一人の剣士がうめき声をあげながら、壁を殴り付けた。


 その瞬間――凄まじい轟音が鳴り響き、研究所に巨大な穴が空いた。


「「「なっ!?」」」


 夏合宿の奴等も恐るべき身体能力を誇っていたが……目の前の敵はそれを大きく越えていた。


 俺たちが警戒を強めていると、


「行ぐ、ぞ……っ!」


「う゛ぉおおおおおおおっ!」


「がぁあああああああっ!」


 奴等は一斉に、こちらへ飛び掛かってきた。


「くっ……アレン、ローズ! 一度下がれ! ここは私が――」


 俺は、我武者羅(がむしゃら)に魂装を振り回す剣士たちに向かって、


「邪魔を……するなぁ゛っ!」


 横薙ぎの一撃を放った。


「が、は……っ!?」


 音を置き去りにしたその一撃は、彼らの魂装を容易く破壊し――そのままの勢いで全員を斬り伏せた。


(なんでだろう……体が動く……っ!)


 以前のように、不思議な力で満たされているわけではない。

 それなのに、まるで生まれ変わったかのように体が軽かった。


(アレン、いつの間にこれほどの強さを……!?)


(この前の『再生』で、アイツ(・・・)の力が馴染んでいるのか……っ!? しかし、予想よりも遥かに早いぞ……っ!?)


 こうして敵の第一波を撃退した俺は、


「――先へ急ぎましょう。リアが待っています」


 研究所の奥へと足を進めたのだった。

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