表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/445

新学期と一年戦争【一】


 ヴェステリア王国から帰国した俺は、その後は穏やかな夏休みを――送りたかった。

 しかし、人生はそう甘くないようで、大小様々なトラブルに見舞われた。


(あれはそう……リアとローズの三人で話題の映画を見に行ったときのことだ)


 リアがヴェステリアへ行ったことを口走るという――とんでもないポンコツぶりを炸裂させた。

 仲間外れのような形になったローズは当然機嫌を損ね……。

 今度俺と二人きりで遊びに行くと約束することで、なんとかその場は丸く収まった。


 その他、偶然遭遇した強盗を取り押さえたり、熱烈なストーカーと化した氷王学院のカインさんに苦しめられたりと――正直、心休まることはなかった。


(本当に、密度の濃い夏休みだったなぁ……)


 そんな過酷な休日をなんとか無事に乗り切った俺は、


「さてと……リア、忘れ物はないか?」


「えぇ、ばっちりよ」


 新学期初日――リアと一緒に千刃学院へ登校した。


 八月一日。

 夏真っ盛りということもあって、厳しい夏の日差しが照り付ける。


 しかし、今日は湿度が低く、おまけに風もあるので息苦しさよりもむしろ爽快感があった。

 ちらりと隣を見れば、リアは上機嫌に鼻歌を歌っている。


(……ヴェステリアまで行った甲斐があったな)


 彼女と一緒に千刃学院へ通える――そんなごく当たり前のことが、今は本当に嬉しく思える。


「……ど、どうしたの、アレン? もしかして、私の顔に何かついている?」


 こちらの視線に気付いたリアは、ペタペタと自分の顔を触りながらそう言った。


「ふふっ。いいや、何でもないよ」


 (せみ)の鳴く声に夏を感じながら、俺たちは教室へと向かった。



 一年A組の扉を開けるとそこには、既に大勢のクラスメイトの姿があった。


「おっ! 久しぶりだな、アレン!」


 真っ先に声を掛けて来たのは、斬鉄流の剣士テッサ=バーモンドだ。


「おはよう、テッサ」


 片手をあげて挨拶を返すと――彼は俺の体をつま先から頭の天辺(てっぺん)までジィッと見つめた。


「ど、どうしたんだ、テッサ……?」


 突然のことに俺が困惑していると、


「アレン、お前……だいぶ強くなったんじゃないか?」


 彼は少し悔しそうな顔でポツリとそう呟いた。


「そ、そうか? 自分じゃあんまりわからないな……。――第一それを言うならテッサだって、かなり腕を上げたんじゃないか? その手のひら……相当な素振りをしてきただろ?」


 マメがつぶれた彼の手は、明らかに一回りごつく――たくましくなっていた。


「おっ、わかるか! だがな、素振りだけじゃねぇぜ? こちとらお前に負けないよう、かなりキツイ修業をやってきたんだ。次戦うときは覚悟しとけよ?」


「あぁ、楽しみにしているよ」


 その後、


「おはよっす、アレン!」


「おはよう! アレンくん、リアさん!」


 テッサを皮切りに、クラスのみんなが挨拶をしてくれた。


「おはよう、みんな」


「おはよっ! 二学期もよろしくね!」


 一通りみんなと挨拶を終え、荷物を自分の席に降ろしたところで――教室の後ろの扉が弱々しく開いた。


「……ふわぁ」


 そこから入ってきたのは、今日も一段と眠たそうなローズだった。


 彼女は頼りない足取りでこちらへ向かって来ると、


「ふわぁ……おはよ、アレン、リア」


 欠伸をしながら、弱々しく右手をあげた。


「おはよう、ローズ。相変わらず眠たそうだな」


「おはよ、ローズ。ほんと立派なアホ毛ね……」


 そうしていつもの三人が揃ったところで――キーンコーンカーンコーンと聞き慣れたチャイムが鳴り、全員がいつもの席に着いた。


 一か月ぶりの窓際の席。

 ここから見える外の風景もなんだか懐かしく感じた。


 それから少しすると、ガラガラガラッと勢いよく教室の扉が開かれ、


「――おはよう、諸君! 早速、朝のホームルームを始めるぞ!」


 いつも通り、活力に満ち溢れたレイア先生が入ってきた。


「連絡事項はあるが……まぁ、これは帰りのホームルームでいいか。――よし、それでは早速一限を開始する! みんな魂装場(こんそうじょう)へ移動だ!」


 それから俺たちは、前期に引き続き魂装の授業を受けた。


 クラスメイトの何人かは、もう既に魂装を発現しており、現在はその制御と強化に励んでいる。


 俺はそれを横目で見ながら……彼らの才能を少し羨ましく思ってしまった。


(……いや、そもそも俺とみんなは『才能』が違う。彼らは推薦ではなく、正真正銘自分の実力で千刃学院へ入学した――エリート中のエリートなんだ。羨ましがっている暇なんかない……俺みたいな凡人は、必死に努力を重ねるしかないんだ……っ!)


 そうして雑念を振り払った俺は霊晶剣(れいしょうけん)を構え、精神を集中させた。

 息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 自分の意識を内へ内へ――魂の方へと沈めていく。


 そうして目を開けると――一面枯れた荒野が広がっていた。


 枯れた木。

 枯れた土。

 枯れた空気。


(荒涼としたこの世界に来るのも、もう何度目だろうか……)


 それから俺は、巨大な岩石の上で寝転がるアイツ(・・・)に一声掛けた。


「よぅ……一カ月ぶりだな」


「お゛ぉお゛ぉ……。性懲りもなく弱っちいのが、また来たなぁ……え゛ぇ?」


 凶悪な笑みを浮かべるこいつに、俺は一つだけ質問を投げた。


「なぁ……お前を倒せば、本当に魂装を習得できるんだよな?」


「お゛ぉ、そうだ。まっ、たとえ百億年あっても、ケツの青いクソガキには無理だろうがなぁ゛?」


「そうか、それを聞けて安心した」


『道』はある。

 可能性はゼロじゃない。

 こいつさえ倒すことできれば――俺にだって魂装が使えるんだっ!


「行くぞ? 一の太刀――飛影ッ!」


「はっ、しょっぱい斬撃だなぁ゛……え゛ぇ?」


 一か月ぶりの戦い――それはひどく一方的なものだった。


「八の太刀――八咫烏ッ!」


「おらおらどうしたぁ゛……っ! こんなもんかぁ……っ!?」


 八の太刀、八咫烏の直撃を物ともせず――奴は天高く振り上げた拳を無造作に打ち放った。


「が、はぁ……っ!?」


 完璧に防御したにもかかわらず、その一撃は致命的なダメージを俺に与えた。


(……強い)


 俺もいろいろなことを乗り越えて、少しは強くなったつもりだったけど……アイツには遠く及ばなかった。

 むしろ互いの実力差は、開いているようにすら感じた。


(いや、これは気のせいなんかじゃない……っ)


 アイツは初めて戦った時よりも確実に強くなっている。

 俺が成長するに連れて、まるで本来の強さ(・・・・・)を取り戻していくかのように……っ。


「く、くそ……っ」


 限界を越えるダメージを受けた俺は、前のめりに倒れ伏した。


「はっ、弱ぇなぁお゛ぃ……。肩慣らしにもなんねぇぞ……あ゛ぁ?」


 奴はそう吐き捨てると、いつもの岩石へと飛び乗って胡坐(あぐら)をかいた。


「……か、体は、取らないのか?」


 薄れゆく意識の中、そう問いかけると、


「どうせ黒拳(こっけん)が近くにいんだろうが……っ。てめぇのその弱っちい(うつわ)じゃ、あんなゴミカスの一撃にすら耐えられねぇ……っ。せめて初期硬直さえなけりゃぁ゛、どうとでもなるのによぉ゛……っ」


 こいつは心底腹立たしそうに顔を歪めた。


(……やっぱりこいつの強さは、俺の強さに依存するところがあるみたいだな)


 そうして最後に大きな情報を手に入れた俺は――この世界での意識を完全に手放した。




「……ちっ、クソガキが。まさか俺の肌に傷をつけるたぁな……。ちっとは、成長してんじゃねぇか……っ」



 そうして気付けば、


「はぁはぁはぁ……っ」


 俺は現実の世界に引き戻されていた。


「くそ……っ」


 遠い。

 魂装の習得――その道は険しく、どこまでも続いていた。


 だけど、


「……諦めてたまるか」


 たとえどれだけ無謀なことだとしても、諦めなければ可能性はある。


「もう一度だ……っ」


 そうして俺が再び霊晶剣を握り締めたそのとき、キーンコーンカーンコーンと授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


 時計を見れば、既に二時限目が終わる時間だった。


「ぃよっし、そこまで! これより一時間は昼休憩とする! ふむ、そうだな……。午後の授業は教室ではなく、魂装場(ここ)に集合するように! では――解散っ!」


 それから俺とリア、ローズの三人は、名ばかりの定例会議に出席すべく、お弁当をもって生徒会室へと向かった。

 千刃学院の広い校舎ももう慣れたもので、あっという間に生徒会室へと到着した。


 そうして目の前の扉をコンコンコンとノックすると、


「……どうぞ」


 少し間があってから、会長の声が返ってきた。

 それはいつもの明るく張りのある声と違って、やや神妙なものだった。


「――失礼します」


 どこか違和感を覚えつつも、俺がゆっくり扉を開けるとそこは――一面の暗闇が広がっていた。

 照明は消え、カーテンは閉じられている。


 そしてこの暗く広い部屋の最奥に――会長は一人で座っていた。

 書記のリリム先輩と会計のフェリス先輩の姿は無い。


「ど、どうしたんですか、会長……? とりあえず電気、つけますよ?」


 ひとまず部屋の明かりをつけると、


「ねぇ、アレンくん……。お話があるんだけど……聞いてくれる?」


 会長はゆっくりと椅子から立ち上がり、こちらへゆらゆらと近寄って来た。


「は、はい……なんでしょうか」


 どうみても尋常の様子ではない。


(いったい会長に何があったのだろうか……?)


 俺がゴクリと息を呑むと、


「もう私、駄目なの……っ。お願い、助けてぇ……っ!」


 そう言って彼女は突然、俺の胸にしなだれかかってきた。


「か、会長……っ!?」


 ふんわりと甘いにおいが鼻腔をくすぐり、なんとも言えない柔らかい感触が伝わってきた。

 自然と胸の鼓動が速くなり、どうするべきかと困惑していると、


「だ、駄目ですよ、会長! 今すぐ、アレンから離れてくださいっ!」


「過度な接触はダメ!」


 リアとローズは、驚くべき早さで会長を引き剥がした。


(はぁ……。今度はいったいなんなんだ……?)


 夏休みが終わり、ようやくホッと一息つけるかと思ったら……。


 新学期開始早々、これまた面倒なことが起こりそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ