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一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~  作者: 月島 秀一


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ヴェステリア王国と親衛隊【十一】


 リアの誘いを受けた俺は、今日一日ヴェステリアでデートをすることになった。


 時刻は昼の一時。

 まだお昼ご飯を食べていなかったので、観光も兼ねて食べ歩きをすることにした。


「あっ、見て見て、アレン! じゃがバターが売ってるわ! 一緒に食べましょう!」


 早速好みの食べものを見つけたリアは、目を輝かせながら露店の一つを指差した。


「ふふっ。あぁ、いいぞ」


「やった!」


 俺がコクリと頷くと、彼女は花が咲いたような笑顔を浮かべて露店へと駆け出した。


「すみません、じゃがバター二つください!」


「あいよ、まいどあり! って、リア様じゃないかい!?」


 露店の店主は、青い法被(はっぴ)を羽織ったクマのような女性だった。

 ポーラさんより一回り小さいぐらいだろうか。

 ――つまり、とても大きい。


 するとクマのような女性店主は、


「おや? そっちのかっこいいのはもしかして……彼氏さんかい?」


 ニヤリと笑みを浮かべながら、そう問い掛けてきた。


「え、えーっと……っ」


 俺は咄嗟に返事をすることができなかった。


(これは、どう答えるべきだろうか……っ)


 現状、グリス陛下の勘違いによって俺たちは恋人関係ということになっている。

 だけどこれは、俺たちと陛下の間で交わした話だ。


(一国の王女との恋人関係……。あまり広めてはいけない話ではないだろうか……?)


 そうして様々な考えを巡らせていると、 


「え、えへへ……。実はそうなんですよ……っ」


 リアは顔を赤くしながらそう答えた。


「くぅ、あんな小さかったリア様ももうそんなお歳か……っ。とにかく、こりゃめでたいね! よし、サービスで一個追加しとくよ!」


「ありがとうございます!」


 その後、俺たちはじゃがバターを受け取って露店から離れた。


「い、言っちゃった……っ」


「大丈夫なのか?」


「う、うん! 大丈夫だよ……きっと!」


 それから俺たちはいろいろな露店を巡って、様々なものを食べ歩いた。


「それにしても……はむっ。自分でこっちに呼んでおいて……んーっ! 用が済んだら帰れって……っ! お父さん、ほんとに勝手なんだから! もう……おいしいね、アレン!」


 リアはイチゴアイスを食べながら、グリス陛下への怒りとアイスの感想が入り混じった話を振ってきた。


「あぁ、おいしいアイスだな。えーっと……それにほら、あまり長居しているとグリス陛下の気が変わりかねないしさ? 考えようによっては、明日ここを発つというのも悪くないぞ?」


 俺が一つ一つ丁寧に答えを返すと、


「それは……あり得るわね……。うん、絶対に明日帰りましょう!」


 リアは納得してくれたようでコクリと頷いた。


 そんな風に二人で楽しくヴェステリアでの食べ歩きを満喫していると、


「あっ、見えてきたわ。あれがうちの観光名所の一つ――国立ヴェステリア博物館よ」


 彼女は遠目に見える大きな建物を指差した。


「……おぉ、これはでかいな」


 国立ヴェステリア博物館。

 神殿を思わせるような建築様式。

 高さは三階建てほどだが、とにかく横に広い。

 単純な面積だけならヴェステリア城を上回るだろう。


「さっ、入りましょう」


「あぁ」


 特に入場料はかからないようで、俺たちは正面の入り口をくぐり中へと入った。

 館内はたくさんの観光客がいたけれど……。

 そもそも博物館自体がとても大きいこともあり、それほどの圧迫感はない。


 これなら落ち着いて展示品を見ることができそうだ。


「それにしても『博物館』か……。実際に来るのは初めてだな……」


「へぇ、そうなんだ。……よし! だったらこのリア先生が、アレンにいっぱい展示品の説明をしましょう!」


「ふふっ、それはありがたいな」


 それから俺は、リアと一緒に様々な展示品を見て回った。


 遥か昔、実在したとされる巨人の骨格。


 ヴェステリアの伝説的英雄グラン=ヴェステリアの石像。

 その名の通り、リアの――ヴェステリア家の御先祖様だ。かつてこの国を恐怖のどん底に陥れた邪龍を打ち倒したという伝説があるらしい。


 歴史的に有名な絵画。

 これは俺の記憶が正しければ、教科書でも見たことがある奴だ。


「――実はこの奇妙な絵は、作者であるヘンリーが目隠しをしながら書いたと言われているわ。だからほら、額縁にもいろいろな色が付いちゃってるでしょ?」


「へぇ、ほんとだ……」


 幼いころから英才教育を受けたリアは、芸術方面の知識も豊富だった。


 浅過ぎず深過ぎず――適切な量の説明をしてくれたので、とても楽しむことができた。多分、俺の関心具合を見て、話す量を調節してくれているんだろう。


 そうして様々な展示品を見ながら、博物館の中を歩いていると、


「……っ」


 一つ。とても気になる壁画があった。


 龍や狼など合計七体の獣が描かれた……なんというか不思議な魅力に満ちた絵だ。

 大広間の真ん中に飾られているのに、誰もこの作品を見ようとしないのが少し奇妙だった。


「なぁ、リア。この壁画はどういう作品なんだ?」


「あぁ、これね……。製作者、制作年月、制作場所――全て不詳。正真正銘『謎の壁画』よ」


「な、謎の壁画……」


「そう。ここの定める展示基準を満たしていないのに、何故か大昔からずっと飾られているんだって。昔、お父さんに『どうしてこんないい場所に、誰も見ない絵を飾るの?』って聞いたんだけど……。はぐらかされちゃった」


 そう言ってリアは肩を竦めた。


「へぇ……。グリス陛下お気に入りの絵ってことなのかな?」


「うーん、それがそういうわけでもなさそうなのよね。視察とかで、一緒にここへ来ることが何度かあったんだけど……。そのときはいつも、この絵を睨み付けていたの……」


「そ、そうか……。本当に謎の壁画だな……」


 それから俺たちは多種多様な展示品を楽しみ、博物館を出る頃には既に夕暮れとなっていた。


「ふぅー……っ」


「んー……っ」


 長い間部屋の中にいたので、お互い同じタイミングで伸びをした。


「ふぅ……ありがとう、リア。おかげでとても楽しかったよ」


「ふふっ、それはよかった」


 夕焼けに照らされた彼女の笑顔は、とても綺麗だった。


「さ、さて……っ。もう日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうか」


「あっ、ちょっと待って。最後にもう一か所だけ行きたいところがあるんだけど……いいかな?」


「あぁ、今度はどこへ連れて行ってくれるんだ?」


「それはもちろん――『希望の丘』よ!」



 それから俺はリアの案内で、首都アーロンドを真っ直ぐ突き進んだ。

 平坦な道をしばらく歩き、穏やかな坂道を登ると――目的地である希望の丘へ到着した。


「ふぅ、ここか……」


 既に日も落ちたというのに、そこには大勢の人が集まっていた。


「ほらほら、こっちよアレン!」


「あぁ」


 リアに呼ばれて、丘の切り立った方へと向かった俺は、


「……っ」


 眼前に広がる美しい光景を前に、思わず言葉を失ってしまった。


「……綺麗ね」


「……あぁ、こんなに凄い景色を見たのは初めてだ」


 漆黒の闇に浮かび上がるいくつもの明かり。

 露店の明かりに蛍光灯の光、それから大通りを歩く人たちが持つ提灯(ちょうちん)の明かりが、まるで生き物のように動いていた。


(自然の美とは種類こそ違うけど……。こういうのもまた『絶景』と呼ぶんだろうな……)


 そうして二人で美しい景色を堪能していると、


「――ありがとね」


 リアは突然お礼を言った。


「え?」


「アレンが私のために戦ってくれて、とっても嬉しかった。アレンのおかげで、私はこれからもあなたと一緒に暮らせる。だから――ありがとう」


「あぁ、どういたしまして」


 ……思い返せば、本当に慌ただしい三日間だった。


 夏合宿が終わって一息つけると思ったら、突然クロードさんから襲撃を受け、その翌日にはヴェステリアへ。

 当日は昼食を挟んですぐにグリス陛下と会談。大闘技場での決闘が決まり、深夜にはクロードさんの裸を……これは忘れよう。

 そして今日――陛下の送り出した三人の剣士を打ち倒し、リアと一緒に千刃学院で剣術を学べることが決まった。


(さすがにそろそろ一息つきたいな……)


 体が、というよりも精神的に疲れている。


 俺がそんなことを考えていると、


「うちのお父さん……どうだった?」


 リアは、とても回答に困る質問を投げ掛けてきた。


「え、えーっと……」


 いろいろと特徴的な人だったけれど、一言で言うならば間違いなくこうだろう。


「そうだな……。リアのことをとても大事にしている人だった」


「あはは、そうだね。ちょっと行き過ぎちゃうところがたまに傷だけど……」


「うん、そこはノーコメントにしておくよ」


 こんなに人がたくさんいるところで、一国の王様の悪口を言うのは少し(はばか)られた。


 それからぼんやりと美しい景色を二人で眺めていると――リアが小さな声で語り始めた。


「あのね……。実は私のお母さん……私を産んですぐに亡くなっちゃったんだ……」


「……そう、なのか」


 突然の深刻な話に驚きながらも、俺は何とか返事を返した。


「うん……。お母さんは元々体が弱くて、出産の負担に耐えられなかったんだって……。だから、私はお母さんの顔も写真でしか知らないの……。とても明るくて強い人だったって、お父さんは言っていたわ」


「そうか……」


「これは古くから仕えてくれている人に聞いたんだけど……。お父さんは、お母さんが亡くなる直前に『生まれてくる子どもは、どんなことをしても絶対に守る!』って約束したんだって……。多分それで、ちょっと過剰なぐらいに私のことを大事にしていると思うの」


「……なるほどな」


 亡くなった女王――妻の分も合わせて、リアへ愛情を注いでいるということか。

 それならあの溺愛の仕方にも納得がいく。


「今回の件は――アレンの剣に仕込みを加えたのは、百パーセントお父さんが悪いわ……っ。でも、それは私を大事に思うあまりの行動で……。だからなんというか、その……アレンにはお父さんのことを嫌って欲しくないなって……」


「あぁ、わかった」


 どうやらリアは家族思いの――本当に心の優しい子のようだ。


「ありがと……。でも、ごめんね……なんか急に湿っぽい話しちゃって……」


「大丈夫、そんなこと気にしなくていいよ」


 俺が優しくそう語り掛けると、リアはもう一度「ありがと」と呟いた。


「……なんでだろうな。アレンには、知ってて欲しかったんだ。……ちょっと、重たいよね?」


「いいや、そんなことはないさ。リアのいろいろなことが知れて嬉しいぐらいだ」


 それから俺は――自分のことを語り始めた。


(『お返しに』というのとは、少し違うけれど……)


 俺もリアには、自分のことを知って欲しいという思いがあった。


「……俺も、一緒だ」


「え?」


「俺の場合は、父さんがいなくてさ。俺が生まれてすぐに流行り病で亡くなったそうだ」


「……そう、なんだ」


 リアは少し驚いた様子でこちらを見つめた。


「母さんは女手(おんなで)一つで、俺をここまで育ててくれたんだ。毎日毎日身を粉にして働いてくれて……とても感謝している」


「そう……。きっと強い人なのね」


「あぁ、尊敬している」


 そうして俺が話を終えて少ししたところで、リアがポツリと呟いた。


「……アレンのお母さんか。今度ご挨拶に行きたいな」


「気持ちは嬉しいが……とんでもない田舎だからきっと驚くぞ? 何と言っても、人より家畜の方が遥かに多いんだからな」


「ふふっ、大丈夫よ。アレンの生まれ育ったところなんだから、きっと素敵なところに決まっているわ」


「そうか。リアが気に入ってくれると俺も嬉しいよ」


 その後、


「……」


「……」


 二人の間に沈黙が降りた。


 だが、息苦しさは無い。

 お互いがお互いを理解し合うための――優しく温かい沈黙だ。


 その数分後。


「……ねぇ、アレン。せっかくだし、お願いごとしよっか?」


 リアはそんな提案を持ち掛けた。


「お願いごと……? あぁ……そう言えば、希望の丘は『どんな願いも叶う』と言われているんだっけか?」


 千刃学院からヴェステリア王国へ移動するとき、彼女がそんな話をしていたのを思い出した。


「そう。ほら、あそこに大きな木が見えるでしょ?」


「えっと……あぁ、アレか」


 リアの指差した先には、天辺が見えないほど背が高い一本の大木があった。


「あの木は数億年も前から生えていると言われているの。……ほんとかどうかはわからないんだけどね」


「へぇ、そうなのか……」


 数億年……か。


(この木も……きっと苦労したんだろうなぁ……)


 俺は人生で初めて、木に対して深い共感を覚えた。


「それでね。あの木の下で手を合わせて、自分が心の底から願っていることを念じれば――それがどんな願いでも叶うって言われているのよ」


「へぇ、それはいいな。やってみようか」


「うん!」


 それから俺たちは木の根元へと移動した。


 そしてお互いに一度だけ目配せをしてから――静かに手を合わせて、願いごとを心の中で念じた。


(――いつまでもリアと一緒にいられますように)


(――いつまでもアレンと一緒にいられますように)


 願いごとを念じ終えた俺たちは、目を開けて静かに元の場所へと戻る。


「ねぇ……」


「ん?」


「アレンは、どんなお願いをしたの?」


「んー、そうだな……。ちょっと口にするのは、恥ずかしいから秘密にしておくよ」


 さすがに本人を目の前にして「一緒にいたい」と言うのは……少し恥ずかしい。


「むっ……じゃあせめてヒント!」


「ヒントか……。まぁ強いて言うならば……リアも同じことを願ってくれていると嬉しいな、ってところかな」


 するとその答えを聞いた彼女は上機嫌に笑った。


「ふふっ。もしかしたら、一緒のお願いごとかもしれないね」


 こうして俺はリアと一緒にヴェステリアでの最後の一日を過ごしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] もしや、狼と龍って… この中に桜とかもあるのだろうか…?
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