貴族派と新学年【十七】
大変お待たせしました! かなりお久しぶりの更新です!
それから少しして、国を挙げた復興作業が終わり、オーレストの街はかつての姿を取り戻した。
「ふぅ……さすがに疲れたな」
「うん、もうヘトヘト……早くお風呂に入りたいわ」
泥のように疲弊した俺とリアは、そんな会話を交わしながら、千刃学院の寮に戻る。
(壊すのは一瞬だけど、直すのは本当に大変なんだなぁ……)
今回の件を通して、そんな当たり前のことを改めて実感した。
千刃学院の寮に帰った後は、順番にお風呂へ入り、ちょっと遅めの晩御飯をとる。
「「――いただきます」」
二人で手を合わせて食前の挨拶。
テーブルに並ぶのは、焼いた牛肉・新鮮なサラダ・お吸い物――リアが「ちゃちゃっと作っちゃうわね」と言って、あっという間に準備してくれたものだ。
「うん、おいしい!」
「んーっ、やっぱり一仕事した後のお肉は格別ね! 体が喜んでいるのがわかるわ!」
おいしいごはんに舌鼓を打ちながら、リアのことをさりげなく観察する。
(……弱っている、よな)
彼女の体に宿る霊力は、見るからに減っていた。
(これがクロードさんの言っていた『大病』なのか? でも、霊力がなくなっていく病気なんて、そんなの聞いたことがないぞ……)
俺が思考を深めていると、リアがコテンと小首を傾げた。
「どうかした? 私の顔に何か付いている?」
「あぁ、ごめん。なんでもないよ」
当然リアは、自分の霊力が減っていることを知っているはずだ。
そして俺がそれに気付いていることも、きっと理解していると思う。
そのうえで話題にあげないのは、触れられたくないのだろう。
「「――ごちそうさまでした」」
俺が皿洗いをこなしている間に、リアは手早く寝支度を整える。
そうして時計の針が十時を指す頃、二人で同じベッドに就く。
今日は疲れているので、いつもより気持ち早めの就寝だ。
「明日からまた学校か。みんなに会うのが楽しみだな」
復興作業中はそれぞれの持ち場があり、ほとんど顔を合わせる機会はなかった。
「ふふっ、そうね」
それから二言三言、軽い雑談をしたところで、リアが可愛らしい欠伸を漏らす。
「ふわぁ……。もぅ、限界……かも……」
「あぁ、おやすみ、リア」
「うん、おやすみなさい、アレン」
よほど睡魔が迫っていたのか、ものの数秒もしないうちに、スーッスーッと規則的な寝息が聞こえてきた。
(――リアが元気になりますよう)
俺はそんな願いを胸に秘めながら、静かに微睡の中へ沈んでいった。
■
翌朝。
千刃学院へ登校した俺とリアは現在、大講堂で整列していた。
なんでも緊急の学年集会があるらしく、全校生徒がここに集合している。
「学年集会か。何かあったのかな?」
俺がそう呟くと、両隣にいるリアとローズが反応する。
「タイミング的に、例のアレの総括じゃない?」
「黒の組織の強襲、そこからの復興。おそらくこのあたりの話だろうな」
それから少しして、ちょうど九時になったところで、レイア先生が正面の舞台にあがった。
「えーっ、おほん。おはよう諸君! 千刃学院理事長レイア=ラスノートだ! まずは感謝の言葉を贈ろう! 諸君らの目覚ましい活躍のおかげで、首都オーレストは奇跡の復興を成し遂げた! 私も一教師として、誇らしい限りだ!」
腹の底から大きな声を響かせる彼女は、マイクや拡声器を使うことなく、圧倒的な声量を披露する。
「さて、早速だが本題へ入ろう。古今東西、若人にとって教師の話とはつまらんもんだからな。かくいう私も、学生の時分は死ぬほど嫌いだった。――ゴホン、本日こうして大講堂に集まってもらったのは他でもない! おそらくこれは千刃学院創設以来、最もビッグでエキサイティングな発表だろう! まずは、こいつを見てくれ!」
先生が指を鳴らすと同時、舞台後方の巨大スクリーンが降り、そこに映像が投射される。
(えっ、あれって……)
映し出されたのは、百人が百人とも振り返るような絶世の美少女。
ピンク色の髪をたなびかせる彼女は、この国に住む者が全員知っている人だった。
「千刃学院の皆様、おはようございます。私はリーンガード皇国が天子ウェンディ=リーンガード。本当は直接お話できたらよかったのですが、此度はビデオメッセージにて失礼します」
映像の中の彼女が柔らかく微笑むと同時、大講堂に動揺が走る。
「て、天子様!?」
「すっげ、天子様からのビデオメッセージだ……っ」
「しーっ! ちょっと男子、静かにして! 天子様の美声が聞こえないでしょ!?」
あちらこちらで騒ぎが起きる中、天子様は話を続ける。
「現在、我が国の――いえ、世界の平和が脅かされています。その原因は言うまでもなく、神聖ローネリア帝国。彼の国は一切の平和交渉を拒絶し、悪しき覇道を突き進んでいます。世界対帝国の全面戦争は、もはや秒読みの段階。今後は先のような強襲が、いつ何時どこで起こるやもわからない状況です」
その言葉を受け、生徒の間に不安が走る。
「しかし、暗い話ばかりではありません。我々は力を合わせることで、黒の組織を撥ね退けました。敵の首魁ガウラン=ライゼンベルクを討ち取った、アレン=ロードル。神託の十三騎士を無傷のままに仕留めた、シドー=ユークリウス。雷の如き速度で最も多くの敵を斬った、イドラ=ルクスマリア。各学院を代表する剣士たちが、極めて大きな戦果をあげております」
自分の名前が出た瞬間、周囲の視線が一気に集まり、なんとなく居心地が悪い。
「あなたたちの絶大な力を見た我々は、『一つの結論』に辿り着きました。彼らを一箇所に集約し、研鑽を積ませれば、さらに強大な個が育つのではないか、と」
天子様は言葉をそこで区切り、スッと玉座から立ち上がる。
「天子ウェンディ=リーンガードは此処に、『五学院の統合』を発表いたします」
彼女はそう言って、とんでもないことを口にしたのだった。




